第一話 『転生』
今日二つ目投稿です!!
さて。どういう状況だろうか。
俺は死んだよな?じゃぁ何で起き上がれるんだ?そもそもここはどこだ。
何故か目を覚ますこととなった俺は少し痛みを感じる頭を抑えながら体を起こした。
見たことのないキングサイズのプリンセスベッドに寝かされていて、あたりを見渡すと、生活感のないシックな空間が広がっていた。
「ルシウス様!お目覚めですかっ!?」
あたりを注意深く見渡していると突然バンッと大きな音がして、そんな声が聞こえてくる。
そちらに目を向けるとメイドらしき女性が立っていた。
明るめの短めな髪に碧い瞳の女性。
いや、誰。Who is she?
だが、そんな状態の俺はお構いなしに、彼女は急いで俺に駆け寄ってきた。
「ルシウス様!お加減はいかがですか!?このシスリア、ルシウス様が五日も目を覚まさなくて心配しました!!」
「あ、あぁ。」
状況がうまく飲み込めず曖昧に返事をした。
ん?待て、今何つった?ルシウス?いやいやいや、まさか・・・
「一つ聞いてもいいか?」
「は、はい、なんでございましょうか?」
「俺はもしかしてルシウス・リトルブルグとか言う名前か?」
「?そうでございますが・・・それがどうかされましたか?」
そうなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
俺が何故そんなに驚いているのか。
それは、ルシウス・リトルブルグというのは俺がはまっていた乙女ゲーム、『奇跡の破片』のヒロインのサポートキャラだからだ。
リトルブルグ家という名高い侯爵家の生まれで有りながら結婚に興味はなく自分の趣味に突っ走っているよく分からんヤツなのだ。
しかも、乙女ゲーでは珍しくチビデブ陰キャ眼鏡なのである。
現代人のヲタクのイメージそのまんまみたいなキャラ。
そして意外なことに、彼は前世のゲームのキャラとして少し人気もあったのだ。
「・・・なぁメイド、手鏡って持ってたりしないか?」
「て、手鏡・・・ですか?少々お待ちください!」
ルシウスってことは見た目も巨デブなのかと思い、彼女に手鏡を持ってくるように頼んだ。
何故か戸惑いながらも彼女は急いで手鏡を持ってきてくれた。
で、顔を確認するんだが・・・。
ダレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!?
いや、分かってたよ?そりゃ、自分の体になったのですから分かってたけどさ?
俺が知ってるルシウスとちゃうやんかーーい!
え、いや誰だよこれ・・・こんな美少年見たことねぇよ・・・。
手鏡に映し出されたのはプラチナブロンドの髪に赤い大きな瞳を持った、女子顔負けの可愛い少年だったのである。
ルシウスって・・・こんな可愛かったの?
ヒロインよりも可愛いよ?これ。
あ、待てよ?
『奇跡の破片』の舞台は確か15歳を迎えた人達が通うアカデミーでの三年間のはずだよな?
で、そんときのルシウスはすでにデブだ。
ってことは・・・
「メイド、俺は今何歳だ?」
「・・・ルシウス様・・・?先ほどから様子がおかしいですよ・・・?・・・はっ!もしかして、熱でおかしくなられてしまいましたか!?」
まぁ、確かに自分の年齢知らないとか末期だよなぁ。
でも普通ここまで驚かなくね!?
あ、もしかしたら性格もこんなんじゃなかったのかもしれないのか。
俺、ルシウスにぶっちゃけ興味なかったし・・・。
「あ、あぁいや、少し記憶が曖昧になってしまってな。可能であれば俺の立場と、この世界のことと、詳しく教えて貰えないだろうか?」
とりあえずそう言い訳してみた。
心苦しいかと思ったが、一瞬あっけにとられたような顔で俺を見ていた彼女は、どうやらこのいいわけで納得してくれたようで色々教えてくれた。
ここは皇帝ライトレーズ・ラズールと皇帝夫人アズマリリス・ラズラディア・ラズールが治める国ラズール帝国。
俺はこの国のリトルブルグ侯爵家の跡取り息子らしい。
第一皇子の名はアルバロート・ラズール、第二皇子はリリシアス・ラズール。
この国は公爵家三つの侯爵家五つ、その下に多くの貴族がいるそうだ。俺の現年齢は十歳で今年社交界にでる年、十五ではアカデミーに入ることが家を継ぐことには必須なのだとか。
ちなみに、何故俺の様子に驚いているのかと尋ねると、どうやらルシウスという人物はメイド相手ですら口を開かない無口さんだったそうだ。
自分で好きなことだけをするわがまま坊やでもあったらしいが。
何であんな体型になったのか何となく分かった気がする。
お菓子でもずっと食ってたんだろ。
でもそっか、新しくルシウスという健康体を手に入れたわけだし、ルシウスはこのゲームのシナリオにあまり影響はないはずだ。
何せサポートだけだしな。
まぁ、関係あったとしてもどうでもいいんだけど。
悪役令嬢みたいに死ぬとかないし。
つーまーりー、前世できなかった俺のやりたいことがいくらでもできるってわけか。
手始めに、異世界と言ったらあこがれる、剣の使い手とかどうだろうか?
いや、かっこよく女の子とか助けてみたくない!?
俺は早速行動に移すことにした。
まずは父親に話を通さなければ。
「シスリア、今日、父様の仕事が終わるのは何時だ?」
「はい、本日旦那様は二〇時に皇宮での仕事を終え、二一時過ぎには帰ってこられる予定です。ルシウス様をひどく心配されていたようでずっと眠れないでいらっしゃいます。元気なお顔を見せて差し上げたら宜しいのではないでしょうか。」
俺の聞きたいことに加えてそんな気遣いまでできるとは。
優秀なメイドさんである。
ちなみに、シスリアとは彼女の名前だ。
ふむ、父親が帰ってくるまで暇だな。
その間は・・・そうだな・・・この国について詳しくなっておくのも悪くない。
博識になって国を救ってみたりしちゃったりして?
あわよくば人気者になれちゃったり?
へっへっへ、面白くなってきたぜ。
「ルシウス様?どうしました?そんなにや付いた顔をされて・・・。」
おっとまずい、顔に出てしまっていたか・・・。
「い、いや、何でもない。それよりシスリア、この屋敷の書庫はどこだ?」
「お連れいたします。」
書庫で読書、いいねぇ。
本をよく読む人って勤勉って感じでかっこいいんだよ、うん。
シスリアに連れられて書庫まで歩いてくると、俺は彼女を下がらせ一人で読書時間を楽しむことにした。
書庫にはまるで図書館なんじゃないかと思えるほどたくさんの本棚と本が置いてあり、センタースペースには数個の椅子と数人が一緒に勉強できるぐらいの机が一台置いてあった。
俺は書庫の扉から一番近かった椅子に座り、一周ぐるっと書庫を見渡した後で、目に付いた本棚の一番上から本を読み進めることにした。
それにしても、ルシウスって頭よかったんだなぁ。難しそうな本の内容もすらすらと頭に入ってくる。
そんなこんなで本を読み進めていたわけだが、ふと、ある本が目に入った。
上から二段目の真ん中あたりに置いてある本。
「魔力の使い方・・・?」
魔力や魔法というのは俺が前世読んでいたラノベにもよく出ていて興味があったんだよなぁ。
魔力はどの人間にも宿っているだとか、魔力量が多いと強い魔法使いになれるんだとか。
この世界にもそういうのあるのかな。
俺はためらいもなくその本を引っ張り出すと本を開く。
だが・・・
「・・・読めない。」
それは見たこともない古代の文字で書かれているらしく、まだこの世界に来て間もない俺には理解しがたかった。
何で題名は読める文字だったん?
しかも、挿絵だけを眺めていても何書いてあるかぜんっぜんわっかんねぇし。
俺は密かにこの文字を解読することを生涯の目標としようと決めた。
だがまぁ、今は読めないのでとりあえず、俺でも読める帝国史や貿易学、生物学等の本を読みあさっていた。
国境はこんなんなんだとか、こんな生き物住んでるんだなとか色々楽しみながら読書をしていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・
で、気付いたら時間が経ちすぎている何てことはよくある話で。
「ルシウスっ!もう大丈夫なのか!?」
突然書庫の扉が勢いよく開けられて叫び声が・・・。
既視感すげぇな。
そこに立っていたのは、薄紫色の七三わけの髪に、俺ルシウスと同じ赤の瞳を持った美丈夫、ルシウスの父親である。
父親が帰ってきたと言うことはもう二一時を回っていると言うことで。
俺が書庫にこもったのは一六時。
つまり五時間以上本を読み続けていたと言うことだ。
「父様、お帰りなさいませ。私はもう大丈夫ですよ。心配おかけしました。」
俺は本を置いて椅子から立ち上がり、胸に手を当てて深くお辞儀をする。
しばらくして頭を上げると父さんは何故かぽかんと間抜けに口を開いていた。
「おまえ・・・ルシウスなのか・・・?」
はい。シスリアと同じ反応ですね。
お前変わっちまったのか、TEKINA?
俺は適当に言い訳することにした。
「熱を出した時、少し夢を見ましてね。」
意味深に微笑んでみると何故か父は顔を赤くしたのだが、何故。
・・・とりあえず信じて貰えてようだな。
まぁ、そんなことはさておき。
「父様、今日は少し父様に聞いていただきたい話があるのですが。」
「ここでよい。話してみるがいい。」
貴族というのは、自分の父親であっても自分の意見を述べる時は許可を取る必要がある。
そして、皇帝やその子息相手ではさらに、許可が出るまで一言も言葉を発してはいけない。
暗黙の了解のようなものだ。
父の許可が下りたので自分の意志を率直に伝えることにした。
「実は、私剣を習いたいのです。」
「・・・ほう。」
目を細めて探るかのように俺を見る。
これは話の続きを待っている目だ。俺は続けて理由を話した。
「私は侯爵家の跡取りとなる人間です。剣の一つも使えなければ舐められてしまう。父様も剣はかなりのものだとシスリアから伺っております。侯爵家の息子として剣を習いたいのです。」
値踏みするかのような父の目を俺はそらさず見つめる。
ここで目をそらせば二度とこの件は了承を貰えない。その覚悟をしながら。
しばらくしてやっと父が気を緩めた。
「お前が本当はどう思っているのかは知らぬ。が、強い信念があることは伝わったさ。いいだろう。皇帝殿下に掛け合って帝国騎士団長に指導が貰えるか確認してみようじゃないか。」
軽快に笑うと、それではな、と言って彼は書庫を出て行った。
正直どうなるかと思ったが、父さん俺に甘過ぎだろ・・・。
俺にと言うか、ルシウスに。
それにしても、鋭いのもまた事実。
彼相手に油断は禁物だな。
俺は読み途中だった本を持ち、書庫を後にした。