73日目後編「貴方がいたから」
73日目後編「貴方がいたから」
目を覚ました時には…既に、森を焼き尽くしていた炎が鎮火した後だった。
被害状況の確認も終わった後だったようで、、遠くの方から一言。
「エルフの森は…全焼です」
それが、生き残った後に聞こえてきた第一声になってしまった。
その後すぐ、ワイは妻を…娘を…探す為にフラフラと歩いていた…のかもしれない。
あの時、ワイは何してたんだろうな。
その記憶だけが曖昧でさ、詳細な部分を書くことができないんだ…わりぃな。。。
だけどな、見つけたんだよ。
妻のシルエットが見えて、無我夢中で駆け寄ったさ…。
さけどさ…
もう、冷たかったんだ…。
身体に穴が空いていてさ…
顔に布が掛けられてさ…
もう、、鼓動すら聞こえてこないんだよ…。
最初はさ、何かの冗談だろうと…夢だろうと…自分を叩いたりしてさ…
医療の知識があるエルフに泣きついたりしてさ…
みっともない事ばかりして、多くのエルフに迷惑を掛けて…信じないようにしてた。
だけどな、ふと我に返って思い出したんだ。
弓矢によって…撃ち抜かれるときの事を。
その後に見せた、彼女の
笑みを。
俺は崩壊した。
妻の横で
冷たい手を握り占めながら
泣き続けた。
心のどこかでは信じてたんだ。
まだ息を吹き返してくれるかもしれないって。
また暖かい体温に触れ合えるかもしれないって。
でもな…もう
全てが遅いんだと理解していた。
放心したまま時は進み…倒れたエルフ達を弔う為に、遺体を【エルフの楽園】に運ぶ日が来た。。。
ワイは…運ばれていく妻の姿を見ながら、焼けた木の下に座り込んでいた。
あの時、最後まで手を繋いであげてたなら…って今頃後悔してる。
彼女がその場から居なくなって。
数日の時が流れた。
多くのエルフが森の復興をしようと、倒れてきた木材を片付けようとしている頃…。
ワイは
一人、自殺しようとしていた。
時には近くにあった縄で、首を吊ろうとして
時には近くに捨てられていた武器で、腹を割こうとして
時には近くに置いてあった瓶で、頭を割ろうとして
何度だって試した
どんな事も試した
だが、、ワイは死ぬことが叶わなかった。
行方不明の娘たちの笑顔を、あの世に旅立った妻の笑顔を浮かべる度に…
自分の行動に、弱さに、心に苛立ちを感じたんだ。
今のままだと…
どこかで生きているかもしれない娘たちに
ワイを最期まで守ってくれた妻に
合わせる顔がどこにも無い。
次第に、そう思えるようになった。
ワイは自殺する事を辞めて、エルフの森復興を手伝うようになった。
最初は…多くのエルフに嫌われてしまったさ…。
そりゃ当たり前だ、復興の手伝いもできずにフラフラしてたんだから。
でもな…ワイの周りで数人だけ、支えてくれるエルフが居てくれた。
それが
昔、ワイをイジメてきた奴らだ。
「あの時はごめんな」と素直な一言を貰って、それから…彼らと少しづつ復縁できたんだ。
何気ない会話すらも楽しくて、気を紛らわしてくれる…そんな、大切な友達を持つことができた。
でもな
一人になると、あの日の光景を思い出してしまって…憂鬱になる時も少なくは無かった…。
でもな…ある時に、ふと閃いたんや。
誰も悲しまなくて良いように…頑丈で尚且つ住みやすいようなエルフの領地を作れば…もう誰も悲劇を、憎しみを味合わなくて済むんやと。
だから…木の付近に住むのを辞めて、新たな土地を切り開いて、、そこに立派な屋敷を作れば、簡単に壊されなくなるんやと…!
それを閃いた時、居てもたってもいられなくてさ…すぐさま設計に取り掛かった。
それからワイが筆頭で
【エルフの館】が完成した。
全てのエルフが住めるように部屋を設け、木材・石・鉄を用いて燃えにくくして…尚且つ緑豊かな庭園を造る。
そんな思い描いた通りの理想郷が完成した。
もちろん…最初は無謀だと言われたさ。
だけどな「俺一人でもやる…!!」って言って、何日もワイ一人で木材を切っては並べてを繰り返してさ…飯も取らずに進めてた。
でも…ある日、倒れたんだ。
当たり前だ。
完成まではまだまだ掛かるのに、何も身体を動かせなくて…体力は底を付いていた。
諦めかけて目を瞑りかけた…
でもな
いつの間にか、ワイに飯を…水を持って駆け付けてくれるエルフや、建築用の工具を持って建造に取り掛かってくれるエルフ達が、集まって来てくれた。
みんな…ワイの志に協力してくれるようになったんだ。
そうして完成したのが【エルフの館】や。
全てのエルフが協力して造り上げた、二度と悲しみを生まない為の象徴になった。
それから…館を一人でも作ろうとした心意気や、エルフが平和に暮らせるように導いた事が評価されて、ワイはエルフを纏める長に選ばれたんや。
そりゃもう嬉しかったけどさ…外交やら、経理やら、やることが多くて正直大変な事が多かった。
精神的にも強い訳じゃないから、尚更不安な部分も少なくは無かったよ。
だから、ワイは自分に自信を付ける為にも…筋トレをやりまくった!
何回、何十回、何百回、日に日に増えていく回数を重ねる度に、ワイは心も…肉体も変化していったんや!!!
そのお陰で今、かなり筋肉質に仕上がってるって訳やで!!!
…これで…少しでも妻に、娘に、会っても恥ずかしくないようになったんかな…。
今もあの光景を浮かべる度に辛くなる…けど、そっと胸に閉まって、勇者の旅を見守るとするかな!!!!
…ワイが生きて、彼女の事を想い続けている限り!!!
彼女はまだ、この世界に存在している証明になるんや!
だから…
生きることが
守ってくれた彼女への弔いだ。
‥‥お!
焚火の準備ができたで~!
さて…今日は何作るっかな…。
お!…勇者が帰って来てるようやな!
‥‥ん?ちょ待てよ?
一人、増えてないか?
いない貴方を、想い続ける。