73日目中編「あの頃と同じように」
73日目中編「あの頃と同じように」
夜な夜な警鐘が鳴り響いた。
突如として、何発もの火矢がエルフの森に放たれてしまっていたんだ。。
夜の警備が手薄だったのも原因で、炎に気がついて警鐘が鳴った時には…もう全てが手遅れだった…。
森に住んでいた男エルフ達は敵襲に立ち向かっていったが…武器も敵兵の数も、エルフより桁違いに上回っていて…勝機は0に等しいってすぐに分かった。
光景も…酷い有様だった。
大人も子も逃げ遅れた者は次々に切り殺されて、森も家も…目に見えるものの殆どが炎で支配されているような状況。
だからワイは…せめて、妻と子供だけでも連れて、その場から逃げようと一心不乱に走った…。
妻の手を引き、一人の子を抱き、もう一人の子を背負って、、エルフの森を走り抜けれる
筈だった。
炎で壊れ、倒壊してきた木材の一部が突如として頭上に落ちてきていた。
間に合わないと踏んだワイは咄嗟に、妻も子供も安全な場所に押して、下敷きにならないようにした。
だが…ワイは木材の下敷きになってしまって…ワイの身体が潰されて、動けなくなってしまった…。
どかそうと必死に藻掻いても全身に力が入らないままだった、、だけど、その間は…子供たちも妻も、泣きながらでも、木材を動かすのを手伝ってくれていた。
でもワイは…身体を潰された衝撃で言葉が出なかったけど、心の中では何度も「ワイの事を見捨てて逃げてくれ…!」って叫んでいたんだ…。
でも子供たちが「お父さん!死なないで!」って…何度も叫んでくれていたお陰で、希望を見捨てずに力を振り絞った。
だが…そこに追撃してくるかのように、ワイも狙って弓矢を構える兵士が現れた。
その時、ワイは何を想ったのか目を閉じてしまった…。
きっと覚悟したんだろう…自分が死ぬと悟ったかのように…。
だが、奴の放った矢は…。
妻 の 心 臓 を 貫 い た
俺の前で両手を横に広げて立っていて…まるで、虐めから救ってくれた時と同じように…。
また俺は…彼女に守られてしまっていたんだ。
そうしてワイは木材に潰されたまま気を失った…。
全て、あの頃と同じだった。
弱くて、泣き虫で、嫌われ者だった時のワイと、何も変わっていなかったんだ。
武術を鍛えて…強い心を持ったとしても、愛した人さえ守る事ができなかった…!
いや、違う。
本当は…宝の持ち腐れだったんだ。
ワイが持ったとしても、その場で使えなければ意味が無かった…。
本当にワイはあの状況で立場が逆だったら、ワイは彼女の前に立てたのか?
そう考えた時に、一つの結論に至った。
あれが…彼女の強さだ。
ワイの持っていた強さは…単なる見せかけの強さだったんだ…。
なんて情けなかったんだろうなワイは。
今更後悔しても、遅いってのに。
既に崩壊した景色を目に焼き付けながら。