38話
「ん?」
「どうした、川村」
一方の勇者陣営。クラスメート達が陣形を組んで戦っているのを脇目に負傷者を回復魔法で治療していた川村は、ある異変を感じ取っていた。
川村の反応に、回復魔法を掛けてもらっていた木村が質問を溢す。
「いや、奥の方から音がした気がしてさ」
「ん?俺は聞こえなかったけど」
再度、今度は耳に神経を集中させて音に集中する。
剣とゴブリンの槍がぶつかり合う音。魔術師の詠唱。仲間同士、生存を確認するためか、連携を取るためか、もしくは励まし合うための叱咤の声。
それらの中に、微小だが、たしかに紛れ込んでいる音。
ゴゴゴゴと、岩を揺らすような地響きの音を、二人の耳は捉えた。
「確かに、地面が揺れるような、そう、地震みたいな音がする」
しかしその地揺れが大鬼の手によるものである事をこの二人は知るよしもない。
少しの間、体にかすかに伝わってくる振動の原因を考えていると、
「おいそこ!話しなんてしてないで早く治療しろ!」
クラスの一人が二人に向かって叫んだ。
ちょっとした地震程度の事を気にかけている暇はないと判断した二人は、直ぐに真面目な顔に戻って、川村は回復魔法の続きを、木村は戦線へと戻っていった。
しかしその時、今まで勇者達を見守っていただけで動こうとしてい無かったユナに、動きがあった。
「ちょっと気になる事が出来たから、後は君たちでなんとかしておいて」
ユナは魔術師のリーダーである金田に近寄るとそう言って早々にどこかへ走り去っていった。
「え、えぇっ!?」
完全にユナのペースに置いてけぼりにされた金田は、一瞬戸惑うものの、直ぐに気持ちを持ち直して魔法の詠唱を始めた。
□
「ーーふっ!!」
迫りくる大鬼の金棒をすんでのところで躱す。
そして生まれた隙を利用して一気に接近する。
しかし次の瞬間には大鬼は金棒を振り上げ、左にいる真一を巻き込みながら横に薙いだ。
「っっ!!」
「ーー落ち着けっ!!ここは俺に任せろ!!」
しかし、真一は動揺を見せた俺に、その様な言葉を放った。
不安が胸の辺りに渦巻くが、位置的に俺は真一を助けることが出来ない。ここは真一に信頼を置くしかないだろう。
俺の進む速度が早まったのを感じて、真一は叫ぶようにして唱えた。
「『猪突猛進』!!」
何やら聞き覚えのないスキル名だ。
どんな効力が発揮されるのか、ちらりと目を左にやりながら確認していると、あっという間に迫ってきた金棒が真一に直撃した。
「真一っ!!」
ーーしかし、次の瞬間、真一の体が光り輝いたと思うと、叩きつけられた金棒が跳ね返された。
大鬼は予想外の出来事に動揺を見せる。
だがそれは俺も同じだ。一体、今真一の内でどんな力が働いたのか、見たこともないスキルの発動に、一瞬足が止まりかける。
しかし。
「っっ、意外と魔力持ってかれるな・・・ユウ!!今の内だっ!!大鬼に一発叩きこめ!!」
次に発せられた真一の言葉に、再度俺の足は加速を始めた。
(詳しい話を聞くのは後だ。今はこの戦いに集中しろ・・・!!)
俺は手を突き出しながら生成しておいた魔力弾を放った。
魔力を盾にするために魔力の性質や形状を変えることはできるようになったが、どうしても一度の放出で複数の魔力弾を発射することは未だ不可能なのだ。
効率が悪くなってしまうが、その分は一発の重さと正確さを上げれば良い。
俺の持つ全技術を集約した魔力弾は、直線上にまっすぐ飛んでいき、大鬼の額のど真ん中に被弾した。
メキッと大鬼の額が凹み、衝撃で上半身が後ろに傾いた。
ヘッドショットだ。ダメージも相当なものだろう。
しかしまだ決め手には至らない。
俺は今こそ魔力の盾に次ぐ第二の必殺技を解き放つために、右手を腰の方にやりながら、跳んだ。
大鬼の生命線を断ち切るまでの道が目に映し出される。
「ーー終わりだ・・・」
右手に溜め込んだ魔力を一気に放出しようとした、その時ーー
「ユウ君っ!!」
聞き覚えのある声とともに、大鬼が吹き飛んだ。
驚愕に大きく見開いた俺の瞳が、金色に輝く長髪を目に入れる。
ーーユナさんだ。




