29話 一方の勇者達
さて、三人が特訓に勤しんでいるその時、場所は変わって王城の訓練場になる。
訓練場には約四十人の生徒、もとい勇者が、ユウ達同様訓練に精を入れていた。
近距離を攻撃範囲とする剣士タイプの勇者は、木刀を手にひたすら素振り。遠距離を攻撃範囲とする魔術師タイプの賢者は詠句の暗記に詠唱の練習と言った感じで鍛錬を積んでいる。
そんな勇者達を指導しているのは金髪の美女、名をユナ・エイミスと言う。
整った顔から、そのくっきりとした体のラインまで、ユナは男女関わらず思わず振り向いていしまう程の美貌の持ち主だ。
更には、それらに加えてユナは神国に七人しか居ないSランク冒険者の内の一人という最大のステータスを保持している。
Sランクという冒険者にとって最大の称号を保持している彼女は、およそ四十にも及ぶ勇者たちを育成するのに充分事足りた。
現に、勇者たちは物凄い速度で、それこそ目に見えるほど成長していた。
ーーしかし、とユナは素振りをしている剣術タイプのグループに目を向ける。
(・・・パッと見ただけでは分からない。けど、明らかに前よりもまとまりを欠いている)
魔術師タイプの方はさして問題は無いのだ。問題は剣士タイプの方。
少し前までは酒に依存しながらも訓練には参加して居たクラスのリーダー的存在である強田であったが、突然、本当に突然だったのだ。
預言者ジン様が酒に依存しすぎないように強田から酒を取り上げたその時、それが相当尺に触ったのか、強田は癇癪を起こして城を出て行ったのだ。
どうせ直ぐに帰ってくるだろう、と放って置いたのが最期、それきり強田は城内に姿を表していない。
一時期は酒で飲んだくれているクズが居なくなったと、指導者視点から喜んだものだが、クズでもクラスのまとめ役を務めていただけあって、特に強田が所属していた剣士タイプのグループは目に見えて団結力が失われていた。
(これでは指導者失格だ)
自分の指導者としての実力のなさに、思わずはぁ、とため息が口から漏れ出してしまう。
ふと、この世界に転移して早々に城から追放された少年の姿を思い出す。
あのときは金を渡しただけで、無愛想に追い出してしまったけど、本当にあれでよかったんだろうか。あの少年にしてやれることは何かあったのではないのだろうか。
考えれば考えるほど、やりきれていない自分が情けなく思えてしまう。
陰りが差したユナの表情に、しかし励ましの言葉がかけられた。
「どうしたユナ。そんな辛気臭い顔をしていても何も良いことは起こらないぞ」
「あっ、師匠・・・!!」
声の主に、自然と体が礼の体勢になるが、師匠、カイン・アルバータはそれを手で制して、ユナの隣に立つ。
カインは一見三十代の中高年に見えるが、ユナの師匠ということもあり、ユナと同じく七人居るSランク冒険者の内の一人だ。
その無駄なく隆起した筋肉は、絶え間ない鍛錬の上に出来ていることが分かる。
カインは勇者達の方に視線を向けながら、口を開いて言った。
「勇者たちはどんな感じだ。あとどれくらいでダンジョンに送り込めると思う」
「勇者たちは、本当に凄い速度で成長していて、毎回驚かされています。ダンジョンも、後二週間もすれば送り込める程の実力が身につくでしょう。しかし・・・魔王に対抗できるようになるまでは、少なくとも後二年程はかかりそうです」
「そうか、二年か・・・」
ユナの言葉に、カインは感慨深そうにそうつぶやいた。
また、ユナも思う。
(魔王軍の進行を抑えられるのも後二年間が限界だろう。それまでにどれ程勇者を成長させられるか・・・)
疑心暗鬼に陥りそうな心を抑えて、顔を上げる。
その眼に宿るのは決心。
(ーーたとえ、何があったとしても、勇者達を充分に成長させることが出来なかったとしても、絶対に魔王の首は、私が取ってみせる・・・!!)




