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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
9/32

土曜日に?

ブックマーク、評価ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。

読んでもらえてるって分かるだけですごいモチベーション上がります。

「姫ちゃん最近、あの赤城さんによく話しかけてない?」



 午前の授業が終わり、お昼休みの時間となった。この学校に来て初めてできた友達と一緒にご飯を食べていると突然、そのうちの1人がなにやら指摘してきた。

 彼女の名前は古谷玲子(ふるやれいこ)。数少ない髪の毛を茶に染めている人間のうちの1人だ。皆怜ちゃんと呼ぶため私もそうしている。

 見た目は若干チャラチャラしている感じがするけど、本当はかなり真面目で成績もいいらしい。人は見かけによらない、って感じ。



「あー確かに話しかけてるかも。なんか結構気になるんだよね」



 第一目標である連絡先の交換のため、私は最近よく赤城さんに話しかけている。最近といってもここ2日間の話だけど。それに話しかけているだけでちゃんと取り合ってもらえてはいない。

 何かと話題を見つけて話を振っても、一言二言で片付けられてしまうのだ。これは中々の強敵だ、とつくづく思う。



「あー、確かに赤城さんなんかカッコいいし、それに無口だもんね」


「そうそう、なんか話しかけてみたくなっちゃうというか、話してもらいたくなっちゃうというか」


「なんかわかるー。赤城さんが喋ってるとこ一回でもいいから見てみたいよね」


「いや喋ってるところというか……」



 別に、喋ってるところを見たいわけじゃない。ただ私はちゃんと仲良くなって、あの髪の下の素顔をさらけ出させたいだけなのだ。



「でも意外っていうかなんていうか。だって姫子ちゃんと赤城さんって全然タイプ違うし」



 そう言ったのは、宮川春(みやかわはる)。春ちゃんだ。

 どことなく気が抜けていて、なんかおっとりしている感じの子。こちらも髪色は茶に染まっている。でも意外なことに、春ちゃんが一番明るい髪色に染めているかもしれない。

 一緒にいる後の2人と比較しても、一目見てわかる程度には明るい。人は見かけによらないって感じだ。


 ちなみに後1人は、霧島杏香(きりしまきょうか)と言う。(きょう)ちゃんです。ちゃんちゃん3人組です。

 こちらはゆるふわ系と言った感じで、若干春ちゃんに似ている感じもあるが、見た目にそぐわずかなりの無口だ。

 あの地味子ちゃんほどでは無いが、あんまり喋らない。まあ、あの地味子ちゃんと比べるのはおかしい気がするけど。



「確かに合わなそうではあるけどさ、きっとこの地球上で仲良くなれない人なんていないはずだから!」


「おー、聖人君子だー」



 杏ちゃんがそう言って皆が笑った。なんとか自然に話をはぐらかすことができた。

 別にやましいことがあるわけじゃないんだけどね。でもなんか恥ずかしいし。


 その後は特にその話題に触れられることはなく、ただとりとめのない話をしてお昼の時間が終わった。

 私は帰るまでの間にも何度か話しかけたけどやはりあまりいい反応をもらうことはできなかった。


 そんなこんなで時間は過ぎていき、私が転校してから、そして初めて赤城さんに話しかけてから1週間が経った。

 土日は無理だったけど、それ以外は毎日話しかけている。

 それでもほとんど変化はなく、返事はあってないようなものだ。いつまで経っても仲良くなれない気がした私は遂に強硬手段に出ることにしたのだった。






 今日、白崎さんに、一緒に出かけないか誘われた。

 突然のことだった。5時間目の授業終わりの休み時間。何の前触れもなく、急に



「赤城さん、土曜日暇?よかったら私と一緒に買い物行かない?」



 そう言われた。一言一句間違えずに覚えている。

 そして私がそれに「うん」と頷いてしまったのもしっかり覚えている。

 あー。なにしてるんだ私。あ゛ー!

 まだ白崎さんに話しかけてもらえてはいるけど、私はまだうんとしか言えてないのに!会話なんて成立してないのに、それでどうやって一緒に買い物なんて行くの!


 買い物、といえばおそらく隣町の大型ショッピングセンターに行くのだろう。

 なら一緒に電車かバスに乗ることになるだろう。隣の席に白崎さんが座って、私に話しかけてくるのだろう。

 もう無理だ。考えただけでもやばい。多分心臓が破裂して死んでしまう。


 そして、買い物に行くメンバーは2人だけなのか、というのが私にとっての最大の懸念材料である。

 私と、て言ってた時点で恐らく2人だけになるだろうけど……。

 私のような人間が、誰かと2人だけで出かけるなんて出来るはずがない。それに今までそんな経験をしたこともない。絶対に気まずくなって死にたくなるはずだ。


 うぅ……今から考えただけでも胃が痛い。そして心臓もうるさい。こんなにうるさかったら絶対白崎さんに聞こえてしまう。

 ああ、もう死ぬ未来しか見えないや。






 断ればいいじゃないか、と思いついたのは私が学校から帰る30分の道のりでのことだった。

 でもメッセージアプリで断ることはできない。私がアプリを使ってないし、そもそも連絡先を知らないためそれは無理だ。

 なら直接言って断ることになる。

 果たして私にそんなことができるのだろうか。たくさん話しかけてもらっているのに、まともに返事ができない私にそんな高度なことかできるのだろうか。


 それに、いままで白崎さんの話に対しては全然会話をしなかったのに、断ることだけは一人前に話すのはどうなんだろう。白崎さんは、私が白崎さんのことを嫌がってるなんて勘違いさせてしまうのでは無いだろうか。

 考えれば考えるほどに悩みの種が生まれてきて、私の頭はパンクしそうになった。



「というわけでお父さん。助けてください」


「お、おう。どうした、なんでも言ってみろ。何が何でも助けてやるぞ」


「それが……」



 私は全てを話した。よく話しかけてもらってること。それなのに私はうまく返事をできていないこと。土曜日に一緒に買い物に誘われ、それを承諾してしまったこと。

 そしてそれを断ろうとしていること。その断り方がわからないことまで、全部話した。



「はぁ……はぁ……」



 結構喋ったため疲れてしまった。喉の辺りの筋肉が、そもそもそこに筋肉があるのかわからないけど、そこがひきつっている気がする。



「そうか……。なあ唯、それ行ってきたらどうだ?」


「えっ!? なんで!無理だよ!」



 私はてっきりお父さんは上手な断り方を教えてくれると思っていた。

 それがどうだろう、なんと行くことを勧めてくるではありませんか。



「確かにさ、喋るのが苦手な唯には結構ハードルが高いかもしれない。でも言ったろ?慣れることが大事なんだって。だから行ってみたほうがいいって」


「でも……」


「それに唯は、その子のことが好きなんだろ?」


「っ!? な、あ、今はそれ、かかか、関係ないじゃないですかそれ!」



 父にそう言われた私の顔は、きっとトマトよりも赤くなっていただろう。

 自分で意識するのと人から言われるのとでは、恥ずかしさの度合いがだいぶ違う。もはや心臓が早すぎて痛いくらいだ。

 生き物は心臓が脈打つ回数が決まっていると聞いたことがある。もしそれが本当なら、もうここ1週間で寿命が5年は縮んだに違いない。



「ははは、いやいや関係はあるさ。ほら好きな子と2人で出かけられるなんて幸せじゃ無いか?」


「まだ2人かは分からないけど……。でも、それは確かに、幸せだと思いますけど……」


「それにチャンスだよ。色々アピールして心を掴んじゃおう!」



 アピールなんて、私に出来るはずない。それにアピールなんてしたところで所詮は女同士。白崎さんにとっては特別仲のいい友達程度にまでしか絶対になれない。

 なんだかそれは、ひどく残酷なことのようにも思えたけど、仕方のないことだ。

 だって私の感情は世間一般のそれとは全く異なったものなのだから。でも。



「……そう、ですね。頑張ってみます」



 でも、仲良くなれるだけなら許されるはずだ。それだけでいいからもっと近づきたい。

 たとえそれが辛い結果になろうとも、嫌われて距離を置かれるよりは全然マシだろうから。


 その後はずっと、土曜日のことを考えていた。

 何をするんだろう。何を買えばいいんだろう。何を話せばいいんだろう。

 幸いにして、バイトのお金はほとんど使われることなく、かなり溜まっているためお金に関しては心配がいらない。

 だから私は、話す内容とか、買うものだとかを考えながらベッドの上へと寝転んだ。


 不安はたくさんあるけど、でもそれと同じくらいには希望が見えた。買い物に誘ってくれてるってことはそこそこ仲良く思われてる証拠だ。

 ならもっと仲良くなるためにできることをしよう。


 考えが前向きになると心も落ち着いて気分も良くなってきて。

 いい夢が見られそうだな、なんて思いながら私は目を閉じた。








「……服が、無い」



 制服で大丈夫だろうか。

不定期更新です。


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