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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
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変化

「おはよう」



 水曜日の朝。転校生がやって来てから3日目。どういうわけか、突然私に朝の挨拶をしてくる人がいた。

 自慢ではないが、この1年以上先生以外の誰かから話しかけられたことは一度もない。もちろんわたしから話しかけたことだってない。なのに



「あれ、どうしたの?具合悪い?」



 なのになんでこの転校生はこんなに易々と話しかけてくるんだろう。






 昨日は色々作戦を練って実践して悉く失敗に終わって。だから今日は何もせずただ授業を受けるだけの静かな、というかいつも通りに過ごそうと思ってたのに。

 なぜか突然、隣の転校生が話しかけてきた。昨日はずっとAグループと一緒にいて、こちらに見向きもしなかったのに。どういう心変わりなのだろう。



「……えと、おはよう?」


「うん、おはよう!赤城さん!」



 生徒に自分の名前を(苗字だけど)を呼ばれるのはいつぶりだろうか。久しぶりのその感覚に私はなんとなく感動して少し放心した。

 かつてこんなに明るく呼ばれたことはあっただろうか。いや、ない。多分。

 覚えてる限りではないのできっとない。でも、それにしても。



「……あの、えと……なんで?」


「え、なにが?」


「あの、なんで急に……喋りかけてきたの?」


「それは……」



 これが一番な謎だ。なんでいきなり私に話しかけてきたんだろう。

 昨日ずっと話しかけようとしていたのは自分で、転校生はそんなそぶり一切なかった。それでも今話しかけられて嬉しいし、話せてよかったなんて思ったりしてるけど。



「やっぱり、初めての隣の席の人だし、仲良くなっておきたいかなー、なんて」


「……ふーん」



 きっとそれは嘘だ。だって昨日も仲良くなる機会なんてたくさんあった。なのにその機会を拾おうとすらしなかったんだから、完全にダウトだ。絶対にダウトだ。ダウト。


 それでもまあ、話しかけてもらえて嬉しいのは確かだし、この口振りだときっとこれからも話しかけてもらえるんだろうと思うとやっぱり嬉しくて。

 もしかしたらいつかお金をせがまれることになるのかもしれないけど、それでもいいかなと思う程度には私の心は浮ついていた。



「……じゃあさ、ひとつ、聞きたいことがあるんだけど……」


「うん、なに?なんでも聞いて?答えられる範囲ならなんでも答えるよ!」


「あの……名前、なに?」



 これでやっと、転校生と友達になれるのかもしれない。






 田舎の学校に転校した。

 人数はそこそこいるみたいだけど、立地は結構悪いし周りは木々に囲まれていて見るからに田舎の高校、って感じ。

 それにコンビニだって最寄りでも学校から歩きで15分はかかるし、買い物だって大型ショッピングセンターは二駅隣。

 色々都合が悪い場所だけど、でも私が、家族が決めた引越しだ。

 まあお父さんと離れたくないっていうお母さんの意見が強いけど。お姉ちゃんの学校も近くなって会う機会も増えるだろうし、私もお父さんと離れたくはないし、お姉ちゃんとも会いたいから賛成した。妹も多分同じような理由だ。

 でも高校は先に調べておくべきだったな。盲点だった。


 初めての転校だからわからないけど、おそらくありきたりな自己紹介を終えた。

 クラス全体を見てみても、パッとしたいい人はいない。まず私のように髪を染めてる人なんて数人しかいないし、それにその色だってバレない程度の茶色だ。

 髪を染めることは校則違反ではないはずなんだけど、なんでみんな染めてないのか分からない。田舎だからかな?




 私は今まで友達に困ったことはない。自分で言えるくらい私は可愛い。まあ、可愛いままでいるための努力を怠ってないのだから当然なのかもしれない。

 だからみんな私と友達になりたがるし、付き合いたがる。今までも色んな男子に数え切れないほど告白されてきた。けどいいと思う人がいなくてまだ付き合ったことはない。だから私の夢は運命の相手を見つけること。

 前にお母さんが言ってた。「運命の相手は見れば絶対すぐにわかる。わたしとお父さんがそうだったように」なんて。

 正直そんなの信じてはいないけど、でも運命の相手と出会えたらいいな、なんてそう思ってる。




 私はすぐに、友達ができた。結構ノリがいい人たちだ。楽しくやっていける気がする。

 あと、やっぱり運命を感じられるような人はいなかった。まあそんな簡単に見つけられるなんて思ってないし、それは気長にいくとしよう。

 ちなみに座席は最高で最悪だった。

 場所は窓側から2列の一番後ろ。一番後ろというだけでも最高なのに、窓に近いなんて最高すぎる。この学校はかなり標高が高いところにあるから、窓から見える景色は結構綺麗だ。田舎の街並みが広がってるだけだけど、それでも高いところから見るのと綺麗だと思うし、かなり遠くだけど少し海が見える。

 そして、右隣は誰もいなくて、左隣はめちゃくちゃ地味な人。もしこれがもっと明るい絡みやすい人だったらオール最高だったのに……。


 前髪が長くて目は半分見えてないし、さらに眼鏡をかけてるから地味を通り越して薄気味悪ささえ感じる。けどスタイルはそこそこ良さそうだし、髪の毛はサラサラで結構綺麗。

 だからクラスの人たちにはクールで無口な赤城さん、なんて言われてるらしい。なんでも1年の時から一言も喋ったことがないらしい。それに加えて席はずっと固定で隣はいない。

 なにそれ怖い、なんて思ったけど、まあ話してこないならそれはそれで楽だな、なんて思ったりもした。


 だから私は、もう左隣には誰もいないものとして1日を過ごした。

 途中に一度だけ転びかけたらしく、心配して声をかけたけど皆が言った通り話すことはなく頷くだけでどこかへ言ってしまった。

 まあ赤城さんとはもうほとんど絡むことはないだろうな、なんて思ったその日の夕方。




 転校前からの日課である太郎との散歩。ついでにこの街を散策してみようと結構色々なところを歩き回った。

 山の上の展望台、商店街、近所の公園やらなんやら回って、最後に河川敷を歩いた。

 大きすぎることはないけどそこそこ大きいこの川は河川敷が広い。

 縦にも横にも広いから子供達がよく遊んでいるらしい。たしかにサッカーコートを縦になんかも並べられそうなくらいはある。


 川の水の流れる音とその涼しさを感じながら歩いていると、なにやら野原の上に座り込んでいる人を見つけた。

 普通なら別段気にすることなく通り過ぎるんだけど、その人が同じ制服だったからふと足を止めてしまった。


 長くて綺麗な黒髪のその人は、なにやら真剣に夕陽を見つめていた。

 なんでそんなに、なんて思った束の間。その人が赤城さんであることに気づいた。

 赤城さんは眼鏡を外していた。そして前髪が風でなびき、彼女の顔の全てが見て取れた。

 可愛い。私は素直にそう思った。

 普段は隠されている目はすごく澄んでいて綺麗でぱっちりしていて、なんで隠しているんだろうと思わずにはいられなかった。

 それに、あの綺麗な髪をもっとしっかり手入れして形を作ったりしたら、絶対さらに可愛くなるはずだ。

 そして私は、地味子ちゃんが可愛くなる瞬間を見てみたいと、そう思った。




 地味なクラスメイトの意外な一面を見てしまった私はついついそこに長居してしまった。

 何か言われるかな、と思ったけど赤城さんはまだ夕陽を見つめていて私には気づいた様子はなかった。

 結構目の前の近くにいるのに気づかないほど熱心に夕陽を見てる。何か夕陽に思い入れでもあるのだろうか。

 いつかその理由も聞けたらいいな。


 明日話しかけてみよう。そう思いながら、私は太郎と家に帰った。

不定期更新です。なんとなく書いてしまいました。

ちなみにキャラクター像ですが、赤城さんはコミュ障拗らせ地味子ちゃん。白崎さんは自称ギャル系天然気味陽子ちゃんです。ギャルではないです。


なんとなく書いてますが、結末は決まってます。

評価・感想お待ちしてます。

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