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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
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話したい 2

 無人となった席の机の下から、自分で落とした消しゴムを自分で拾う。本当は消しゴム関係の作戦を後一つ考えてあったんだけど、もうやらない。

 今の作戦で私は話しかけることはできなかったけど、消しゴムの重要性を再確認できたのだった。


 では気を取り直して、作戦第三弾に移行する。その名も、「大丈夫?作戦」だ。

 これは休み時間にしかできない作戦だ。

 まず、私が席を立つ。そして、わざと転校生の座る椅子の足に引っかかって転ぶのだ。

 もちろんソフトに。派手に転んで大勢から注目されたり、手足を痛めたりしてしまうのは嫌だから。


 作戦実行はお昼休みとするため、その後は恙無く授業は進んでいった。

 途中、3時間目の英語の授業の時に転校生がうつらうつら舟を漕いでいた。

 これはもしや、考案されたが破棄された作戦「起こしてあげる作戦」をやる時では!? なんて思ったけど、結局声をかけるかかけないか迷ってるうちに転校生はぱっちり目が覚めてしまった。


 チキンすぎてもう無理かもしれない、なんて思いながら授業を受け、ついに昼休み5分前となった。

 作戦は昼休みになってすぐ行うつもりだ。時間が経つとクラスの人たちが後ろのロッカーへと荷物を仕舞いに来てしまうかもしれないし、転校生が席を立ったり転校生の周りに生徒が集まったりしてしまうかもしれないからだ。


 チャイムが鳴った。私は勢いよく席を立った。勢いはいいが、静かにスッと。

 そして扉に向かって歩き出す、ように見せる。3歩程度歩けばもう作戦の場所だ。

 1歩歩き、また1歩歩き、そして……カツン。

 転校生の椅子へと足をかけ、そして倒れ……られなかった。

 倒れようと思ったけど色々なものが怖くなってもう片方の足を前に出して踏ん張ってしまった。

 最悪だ。やっぱり私はチキンだ。これじゃただ椅子を蹴ってそれに力負けして転びそうになってダサいだけじゃないか。

 はぁ、もう無理だ。ここまでチキンだとは思っていなかった。

 席を立って歩き出しているため、ここでまた席に戻れば絶対不審なので、私は仕方なく一度教室を出ることにした。特に行く宛はないけど。

 その時、



「大丈夫?」


「……ぇっ……、……(コクッ)」


「そっか」



 突然転校生に話しかけられた。それも作戦の想定通りに。

 倒れはしなかったけど、躓いて倒れそうになっていたから大丈夫か聞いてくれたのだろう。なんと言う優しさ。かわいい。

 けど私はそれに対応することができなかった。


 声がした方を向き、転校生の目が自分へと向けられていることに気づいたが、私は小さな驚きの声しかあげられなかった。そして大丈夫であることを伝えるために首肯だけした。

 昨日の作戦イメージでは

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。心配してくれるなんて優しいね」

「いやそんな訳じゃ――」

 といった感じで会話を繋げあわよくばお友達に、なんて思っていたけど。

 よく考えてみれば、私がこんな饒舌に喋れるわけがない。父との会話だって話す比率は私と父で2:8程度とずいぶん偏っているのに。


 結局私はただ頷き、足早に教室から出ていった。これじゃただの人付き合いが下手すぎる、しかも雰囲気も悪く話しかけても塩対応されるだけのやつになってしまう。いや、元からそうだったんだけど。

 しかも長く喋れないとなると後の作戦のうち2つは不可になってしまう。とすると、考えてきた作戦はあと1つしか残っていない。

「さよならまた明日ね作戦」だ。その名の通り、帰り際に「さよなら」だとか「また明日」と声をかけるだけの作戦だ。あわよくばそこから会話を広げたり友達になったり……といった願望も含まれている。

 もしこれさえも出来なかったらもう私には打つ手がない。絶対にこれだけは成功させてやるんだ。

 私は胸の中でガッツポーズをしてやる気を出した。あてもなくふらつかせていた足を教室へと向かわせ、とりあえずお昼ご飯を食べることにした。腹が減っては戦ができんのだよ。


 ちなみに、残りの2つの作戦は「お弁当美味しそうだね作戦」と「お昼ご飯直後の授業が現代文って色々と辛いよね作戦」でした。よく考えれば絶対無理。





「じゃあ皆気をつけて帰るようになー。じゃ、合礼」



 学校が、終わった。もう作戦実行まで1分もないだろう。



「起立。 気をつけ、礼」


「「「さようならー!」」」



 横目で転校生の様子を伺う。まだカバンに教科書やノートを詰める作業の途中のようだ。

 ついでに周囲の状況も確認する。

 ひとつ前の席の人は転校生と同じようにまだ荷物詰めの作業中。こちらを振り向くことはなさそうだ。

 さらに周りを確認しても、まだ転校生の方へと向かってきているAメンバー(カースト上位者のこと)はいないようだ。

 今なら誰にも邪魔されず話すことができる。


 深く深呼吸をする。こんな深呼吸をするから返って緊張するのでは、とも思うけどこれをしなきゃおそらく声が出ないのだ。

 ……よし、声かけます。さよならって言います。

 私は静かに席を立ち動き出した。

 転校生の後ろを通り過ぎて少しだけ振り向いて言った。



「……また、明日」


「……」



 私は再び前を向き、目にも留まらぬ速さで教室を駆け抜けた。嘘。静かにゆっくりバレないように教室を出た。

 声、出てたと思うんだけどな……。なんでだろう。やっぱり無理かもしれない。





 歩くのにかかる30分。今日はかなり大回りしておそらく家につくのは1時間ほど後だろう。今日はバイトもないので急いで帰る理由もない。

 市内を流れる県内でも1、2位を争っているだろうな大きい川の河川敷で私は黄昏ていた。

 理由は、作戦が全滅し傷心したため。

 作戦がうまくいかず悲しいのと、その失敗理由がほとんど自分にある、というか全部自分にあって不甲斐ないのとで。


 制服のまま、柔らかい草の上へと腰を下ろし夕陽を見ていた。

 今は眼鏡を外し目を楽にしている。ここだけの話、眼鏡に度は入ってないのでつける必要はないのだ。まあ地味なのを演じるためにダサい眼鏡をつけている訳だけど。


 雲ひとつない空に浮かぶ暖かい橙色となった太陽。それを眺めているだけで心が満たされていく感じがするのだから不思議だ。


 明日、父に相談しよう。父にそんな技術があるのかは分からないけど、きっとなんとかしてくれるだろう。わからないけど。

 結局私は夕陽が沈むまでそこに座っていた。家に着いた頃には時計は8時を回っていた。昨日は寝るのが遅かったから今日は早く寝よう。

 勉強もそこそこにして私は11時には就寝したのだった。






 夕陽に夢中になっていた私は、前の歩道を通った犬の散歩中の女子高生の姿には気づかなかった。

不定期更新です。次からは更新頻度落ちると思います。

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