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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
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話したい

 朝の8時。私は今学校に向かっています。

 8時20分までに登校しなければならないため毎日7時半過ぎには家を出ている。バスもなく、親に送り迎えしてもらうこともできず、自転車にも乗れない私は歩くしかないのだ。


 あと少しで学校に着くが、30分歩き続けるのって結構つらい。かれこれ1年以上、ほぼ毎日歩き続けてるわけだけど、未だにたまに足が痛くなる時がある。

 実は将来バイクに乗りたいなんて思いもあるから自転車には乗れるようになりたいんだけど、この歳になって自転車の練習とか恥ずかしいし時間もないからできないのだ。

 ……まあいずれ、いつかは乗れるようになるだろう。





 今日も今日とて学校に着いてしまった。

 昨日は今日の作戦を色々考えていたらあまり寝付けなかった。でもそのおかげできっと話せるはずだ。

 今日は7限まで授業がある。それに加えて休み時間もある。ざっと計算しても8時間は同じ校内にいられるのだ。

 それに彼女は昨日転校してきたばかり。おそらく校内のことはあまり分からないだろうから席についている時間が長くなるはず。


 まずは作戦第一弾。その名も「おはよう作戦」だ。

 幸いにして彼女は私の隣の席。そして私は毎日朝のホームルームの始まるギリギリの時間に投稿するため、おそらく皆席に着いており彼女の周りも空いているはずだ。

 1対1ならなんとか話しかけられらはず。


 昨日と同じ学校にいるはずなのに、どこか違う場所にいるような感じがする。これからいつもと違うことをしようとしてるからだろうか。

 ……心臓がうるさい。昨日だってうるさかった。こんなんじゃ上手く喋れないかもしれない。うぅ〜やばい〜。


 私は一旦立ち止まり、深呼吸をして、そしてドアを開けた。もちろんゆっくりと音を立てないように。

 室内は冷房が効いていて丁度いい快適な温度となっていた。

 今まで鍛え上げてきた音を立てない歩き方で教室の後ろを征く。誰一人として顔をこちらに向けることはない。皆前を向いたり隣の友達と喋っている。

 ……ふっ、これまで鍛えてきた甲斐があった。


 そして私は転校生の後ろを静かに通り自分の席へと腰を下ろした。転校生はなにかを真剣に描いておりこちらに気づいた様子はない。

 時計を確認する。8時18分過ぎ。あと最低でも1分はある。



「……ふぅーーー……」



 深呼吸をして再び息を整える。

 大丈夫、セリフは昨日完璧に覚えてきた。5回も練習したのだ。噛む心配だってないはずだ。

 ……これ、先生と話す以外では初めての学校での会話だ。今まで話しかけられることなんて滅多になく、あったとしても返事をしなかったし、こちらから話しかけることもしたことはない。

 怖い。怖いけど、いくぞ。


 でも転校生さんは未だにこちらに気づく様子もなく何かを真剣に書いている。その横顔が可愛く美しくて、なぜか昨日のようにドキりとしてしまった。

 それにしても、これは邪魔しちゃいけないものではないか?もしかしたら大事な資料なのかもしれない。この朝に提出するものかもしれない。ならきっと迷惑になってしまうだろう。

 でも、練習してきたんだ。発揮しなきゃ練習の意味がない。

 私は意を決して話しかけた。



「…………ぁ、の……」


「…………」



 気づかれませんでした。思ったよりも声が出ないみたい。


 そしてそのままチャイムがなってしまった。

 はぁ……、作戦第一弾は失敗か……。

 けど大丈夫。作戦はまだいくつも残ってるし、時間だってたっぷりある。チャンスだって何度も来るはずだ。






 そして作戦第二弾。その名も「消しゴム拾ってくれてありがとう作戦」だ。

 この作戦はその名の通り、落とした消しゴムを拾ってもらいそしてありがとうを言う。

 そしてそこから会話をつなげていく作戦だ。


 正直、これは絶対に成功する気がする。

 声が小さくて聞こえないなんて問題もないし、授業の前半に落とせば時間が迫るなんてことはない。


 1時間目の数学。朝から数学はちょっと頭が働かない気がするけど、無理矢理働かせて問題を解いていく。

 時計を確認する。

 ……10分経ったみたいだ。そろそろ作戦を実行しよう。

 狙うは彼女の足元。できれば足の外側に少し当たる感じで転がって欲しい。


 消しゴムを机の端に置く。それを自然に、自らの肘で押し出す。

 消しゴムは、ポンポンと軽い音を立てながら彼女の足元へと転がった。

 結構狙いどおりの場所へといってくれた。ありがとう消しゴム。

 後は彼女が拾ってくれるのを待つのみだ。

 私は口の中で話すらセリフを反芻しながら彼女が気づくのを待った。


 あれから10分が経過した。まだ彼女は気づかない。

 私は消しゴムを一個しかもっていないため今は消すのにシャーペンの後ろの消しゴムを使っている。とても消えにくいし、なんか汚れる感じがして使いたくない気持ちがあるけどこの際仕方ない。

 転校生と話すためだ。シャーペンのお尻の消しゴムくらいくれてやる。


 そしてさらに20分が経過した。もう授業終わりまで10分もない。そしてもうシャーペンの消しゴムの残機も少ない。

 なんでこんな時に限って計算ミスばっかりしてるんだろう。それになんでこんなに計算量の多い問題を出すのだろう。私の作戦を邪魔しにきているのだろうか。

 消しゴムが無いと授業に支障が出てしまう。これは予想していなかった事態だ。

 仕方ない。こちらから話しかけて拾ってもらおう。これ以上シャーペンの消しゴムは使えない。


 深く深呼吸をする。さっきは声が小さすぎて届かず気づいてもらえなかった。。なら次は少し大きめでいこう。でも授業中だからあまり大きすぎない声で。

 少し喉の調子を確かめてから私は、意を決して話しかけた。



「……あ「じゃあちょっと早いけど今日はこれで終わるぞー。はい合礼」


「起立。 気をつけ。礼」


「「「ありがとうございましたー!」」」



 まだチャイムはなってないが授業が終わってしまった。なんと言うタイミング。なんと言う不幸だ。

 もしかして神様が話しかけさせないようにでもしているんじゃないか……?

 ……いや、私が単に色々遅いだけだ。もっと消しゴムを早く落とせば、もっと早く話しかければこうはならなかったはずだ。


 そして転校生はチャイムがなると廊下へと出ていってしまった。


 ……あぁ、また話しかけることができなかった。ごめんねシャーペンの消しゴム。次こそは私、絶対に話しかけるから。君の頑張りは無駄にしないからね。

白崎視点早く描きたいです。


不定期に更新していきます。

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