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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第2章
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唯のお父さん

本日なけなしの2話目です

 土曜日。唯が御墓参りに行くって言ってた日だ。

 まだ唯には連絡してないけど、実は今日私も一緒に御墓参りに連れてってもらうつもりだ。

 図々しいなんて思われちゃうかもしれないけど仕方ない。もっと唯のことを知りたいのだ。唯との仲をもっと深めたいのだ。


 朝8時に家を出て、30分を回る前には唯の家へとついた。あんまり行ったことが無いから少し迷っちゃって少し遅れてしまったけど。

 朝早いし、もしかしたら迷惑かも? なんて思いながら、チャイムへと手を伸ばす。

 静かな朝な中ベル特有の音がなり、そして再び静寂が訪れる。

 10秒、20秒と待ってみても、中で人が動く気配はない。

 まだ唯は寝ているのかも、なんてありそうにないことを考えながら、もう一度ボタンを押す。

 音が鳴った後、また10秒、20秒と静かな時が流れる。本当にまだ寝てるのかな、と携帯を取り出して電話を掛けようとしたその時、中で誰かが動く気配がした。

 手を止め、ドアが開くのを待つ。



「……どちら様でしょう?」



 鍵の開く音ともに開かれた扉から顔を出したのは、唯ではなくひとりの男の人だった。

 男の人っていうか、普通に多分唯のお父さんだと思うけど。



「……あ、あの、朝早くからすみません、私唯ちゃんと同じクラスで友達の白崎姫子っていいます」


「ああ、君があの姫子ちゃんか。唯からよく話は聞いてるよ。色々とね。それで今日はどうしたのかな」



 色々って、付き合ってるってことまで聞いちゃってるんだろうか。

 前に唯が自分の気持ちを父に相談したって言ってたけど、どこまで言ってるんだろう。



「はい、あの、えっと今日唯が御墓参りに行くって言ってて、それで私もついていきたいなって思ったので来ました」


「……御墓参り? それは唯から聞いたのか?」


「え? はい、そうですけど……」


「そうか……」



 そう言った唯のお父さんは、私には分からないようなそんな感情を瞳に滲ませながら、どこか遠いところを見上げた。



「あ、あの……?」


「あ、ああ、すまない。ちょっと娘の成長が嬉しくてね。ほら、唯って自分のことをさ、他人にほとんど打ち明けなくなっちゃったからさ」


「……前は違ったんですか?」



 私が今話してるのは唯のお父さんだ。だから、私の知らない唯のことを知ってるのだって当たり前のことだ。

 ちゃんと分かってはいるけど、心の中を黒い霧のような、なにかモヤモヤしたものが広がっていくのを感じる。



「うん、まあそこら辺についてはまた唯から聞きなよ。きっと君になら話してくれるはずだから」


「……分かりました」



 やや、照れ。親公認の仲というものだろうか。心の中にあったモヤモヤが霧散していく。

 我ながら単純なものだ、と心の中で笑う。



「それであの、唯はいますか?」


「ああ、唯なら1時間くらい前に出たよ」


「え! もう行っちゃったんですか!?」


「あれ、約束してた感じ?」


「いえ、約束はしてないんですけど。なんでそんなに早くでちゃったんですか?」


「そのお墓がさ、前住んでたところにあるんだよね。電車で片道4時間弱かかるところ」


「え、引っ越したんですか?」


「そう、中学卒業してすぐの時にね。まあそこらへんも唯から聞きなよ。多分俺が話すようなことじゃないからさ」



 唯のお父さんは少し悲しそうな顔をしながら言った。

 秘密主義、ってわけじゃないんだろうけど、そこまで話したなら全部教えて欲しかったって思っちゃう。

 でも唯から聞いた方が、たしかに信頼されてるって感じがして良さそうだ。



「そうだ、せっかくだしちょっと上がってきなよ。ここまできてもらったのに何もなしで帰すのも悪いし、唯の話も色々聞きたいしさ」


「え、いいんですか?」



 唯のお父さんは見るからに寝起きって感じだ。髪だって若干崩れてるし、目だって開ききってない感じだ。

 たしか夜通し働いてるって唯が言ってた気がする。

 でも、それ以上に唯のお父さんと話してみたいって思っている自分がいる。



「それじゃあ、あの……お邪魔します」







 唯の家の中は、一言で言えば簡素だった。清潔だけど、逆に物が少なすぎるような、そんな感想を持った。

 物が散らかってるよりはいいのかもしれないけど、なんだか少し寂しく感じた。


 リビングへと通され、いつもここで唯がご飯を食べてるであろう椅子へと座る。

 キッチンから聞こえる料理を作る音を聞きながら、唯が料理上手なのはお父さんに教わったから、って言ってたのをふと思い出す。

 ジュウジュウと焼ける音とその匂いに、まだ9時過ぎなのにお腹が空いてくる。



「はい、どうぞ」



 そう言って差し出されたのはフレンチトースト。卵と砂糖の甘い匂いが、非常に食欲をそそってくる。



「い、いただきます」



 フォークとナイフを受け取って、一口サイズに切り分け、そして恐る恐ると言った感じで口に運ぶ。



「んんっ!」



 口に入れた瞬間に、美味しさが口全体に染み渡った。

 甘いけど甘すぎず、口に残ることもない。病みつきになりそうな、そんな甘さ。

 美味しすぎて思わず声が漏れてしまった。

 こんなものをパッと簡単に用意できちゃうなんて、さすが唯のお父さんって感じだ。



「あの、本当に美味しいです! こんな美味しいの初めて食べたってくらい美味しいです!」


「はは、ありがとう。まあこれだけが取り柄みたいなもんだからな」



 謙遜するところがなんとなく唯に似てるなって思った。

 その後、フレンチトーストをいただきながら、学校での唯のことだったり、普段の私や唯のお父さんの話をして、30分くらいでお暇した。



「それじゃ、ありがとうございました。お邪魔しました」


「うん、いつでも来なよ。もうここは君の第二の家だって思ってもらっていいからね」



 玄関先で、そんなことを言われる。

 まるで「もう家族だ」て言われてるみたいで、嬉しく恥ずかしく、なんかへんな気持ちになる。



「あ、あと、これからも唯のこと、よろしく頼む。唯は白崎さんのこと、ほんとに好きみたいだからさ」


「はい、それは大丈夫ですけど……」



 唯は多分ほんとに、私のことが好きなんだと思う。日々の仕草や行動からなんとなくわかる。

 でも、私はどうなんだろう。これからも唯とはずっと一緒にいたいって思ってる。けど、私は好きって気持ちを知らない。

 だからきっと、私と唯の想いの丈や種類は違っているのかもしれない、なんて考えが頭にこびりついて離れないのだ。



「けど……?」


「あの、こんなこと言ったら失礼かもしれないし場違いかもしれないんですけど、実は私、好きってのがよくわからないんです。唯と付き合ったのは、他の誰かじゃなくて唯となら付き合えるから、付き合ってみたいって思ったからで……。もちろん、唯とはずっと一緒にいたいって思うけど、私、最近考えちゃうんです。私なんかが唯と付き合ってていいのかなって。唯と私が互いに抱く感情が、もしかしたら違うのに、いいのかなって、すごく不安なんです……」



 胸の内に溜まっていた不安定だったものが全て流れ出るかのように、言葉が飛び出した。

 なんで今ここで、唯のお父さんに、なんて疑問に構うこともなく、全てを言ってしまった。

 私の言葉を咀嚼しているのか、少しの間が空く。

 11月の終わりの、朝の9時過ぎ。あたりには静けさと冷たい空気が漂っていた。



「……それはさ、いつから考えてるの?」


「えっと……多分、付き合ってからすぐくらいだと思います」



 いつのまにか考え始めてたから、いつからなんて正確には覚えてはないけど。

 質問の意図がわからなくて、唯とお父さんの顔を見る。どことなく唯と似てるその顔に、親子の血の繋がりを感じる。



「そっか。唯もさ、最初は自分の感情に戸惑って僕に相談してきたんだよね」



 聞いたことがある。以前唯にその話を聞いて、私は大層驚いたものだ。



「その時は僕が妻のことを好きになった時と同じだったから上手くアドバイスできたんだ。姫子ちゃんは唯と同じかどうかわからないから上手いこと言えるか分かんないけどさ」



 少し俯きながら話していた唯のお父さんが顔を上げ、私と目を合わせて。



「そんなに唯のことを考えてくれてるってことはさ、姫子ちゃんもちゃんと、唯のことが好きなんじゃないかな」



 微笑みながら、そう言った。

 たしかに、付き合い始めてから、というかあの河川敷で唯を見た日から、めっちゃ唯のことを考えてる自覚はある。でも



「それで、いいんでしょうか……」


「いいんじゃないかな」



 さも簡単なことのようにカラリとした言葉が返ってくる。



「まあ僕自身そんなアドバイスできるほど経験あるわけじゃないけどね。家族に聞いてみたほうがいいかも」


「分かりました、ありがとうございます」


「うん、それじゃ、またおいで」


「はい、お邪魔しました!」



 そう言って、私は玄関を出た。

 外の空気は少し肌寒かったけど、今はなんだかそれが気持ちよかった。

 帰ったら、お母さんに相談してみよう。

 行きは迷った道も、帰りはちゃんと迷わずに帰ることができた。

不定期に更新します。

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