プレゼント
本当に遅くなりました!色々あったんです!ごめんなさい!
カーテンの隙間から差し込む明るい光によって私は目覚めた。
目を開けた瞬間に日光の直射を受けてしまい、私は堪らずすぐに目を閉じた。
今日はいい天気みたいだな、なんて思いながら起き上がる。
天気がいいから何があるってわけじゃないけど、なんか晴れてるってだけでなんとなく気分が良くなる気がするのだ。
目を開ければ明るくなった自分の部屋が映し出されて、朝が来たんだ、なんて当たり前のことを感慨深く思う。
ようやく、あの長かった平日が終わり土曜日になった。つまるところ、唯が泊まりに来る日がやってきたということだ。
家のチャイムが鳴る。
時間的におそらく唯だろう。
楽しみにしていた時間がようやく始まるのだ。平静を装うように、小走りにならないように意識しながら私は玄関へ向かい扉を開ける。
「こ、こんにちは。お邪魔します」
開ければそこには、肩身の狭そうな唯が立っていた。これで3度目……いや、お見舞いを含めれば4回目の訪問だ。そんなに畏る必要はないと思うんだけど。
でもそんないつも通りの唯に、私のいつのまにか張ってしまっていた気が緩む。
「いらっしゃい唯。さーさー、あがってあがって」
私は唯の手をとって中へと招き入れる。
これからの時間が楽しみだからだろうか。手を引かれてついてくる唯が雛のようで可愛いからだろうか。
私の口角は自然と上がっていた。
はじめの1時間くらい、唯は落ち着かないようでずっとそわそわしていた。
口数もいつもより少ないし、座った体制のままほとんど動かなかった。
まあ前回も同じような感じだったけど。
前回と違ったことと言えば、私たちの間にある距離だろう。
ほとんどの時間を手を繋いだり腕を組んだりして過ごしていた。
これが世に言うバカップルというものだろうか。そう考えると少し恥ずかしくなってきたけど、唯がいつも以上に嬉しそうだったからまあこれでいいかなんて思った。
確かに触れ合った場所から感じる唯の体温って結構心地が良いし、離れる理由もないからね。
部屋のテレビで映画を見て、ご飯を食べて、お風呂に入って、布団を敷いてさあ寝よう! といったところで
「……あの、これ、どうぞ」
といったところで唯が突然小包を差し出してきた。白い紐で結ばれた、茶色い小箱だ。
「え? なに突然、なにこれ?」
「藍子さんから、白崎さんの誕生日が近いって聞いたので、買ってきました」
「えっ、誕生日プレゼント!? 私に!?」
「……(コク)」
なんと、私への誕生日プレゼントらしい。
いつの間にかお母さんに誕生日を聞いていたらしい。唯め、なかなかやりおるな。
というか。
「お母さんのこと、藍子ってよんでるの?」
「……はい、そう呼べと言われたので……。ダメだったでしょうか……?」
「いや、ダメってわけじゃないんだけどさー」
けどさー、私まだ白崎さんなんだけど? 同じ白崎さんなのに、なんで母親だけ藍子なんだ。
「私は名前で呼んでくれないの?」
「っ!?」
そう言うと、唯は何故か体が飛び跳ねる程に驚いた。顔も真っ赤になっている。
お風呂上がりの2人きりの時間、いつかのように唯は前髪を上げ眼鏡を取っているため、いつもの何倍も表情が読み取れてしまう。
それしにしても、あれ。なにか変なこと聞いたっけ、私。
「確か前にー、仲良くなったら呼んでくれるって言ったよねー?」
「…………」
「それで今、私たちって付き合っちゃってるんだよねー?」
「……………………」
「この上ないほど仲良くなってると思うんだけどなー」
「………………………………」
問い詰めれば問い詰めるほどに唯の顔は赤くなっていって。それがなんとも面白くて可愛くて、なんか自然に、次々と口から言葉が出てきちゃった。
「私は前から唯って名前で、ずーっと名前で呼んでるのになー」
「……」
「唯はずーっと白崎さ「――こ」んって……ん?」
「…………ひめこ」
心臓が跳ねた。
自分では分からなかったけど、体までびくってなっちゃってたかもしれない。
さっきまであった唯の顔の赤みなんていつの間にか無くなってて、逆に私にそれが乗り移って来たみたいに、急速に顔が熱くなるのを感じる。
いままで見たことないような、キリッとした表情で、名前を呼ばれた。
そんな顔もできるんだ、なんて考える。
「……ひめこ、これでいい?」
トドメを刺しに来たかのような、そんなセリフだった。
いつもの丁寧な口調もどっかにいって、まるで挑発してるような、そんな口調でそう言われた。
「え!? う、うん! それでいい、それでいいよ!」
「ほ、ほんとですか? よかったです……」
さっきまでの余裕そうな表情が幻だったかのように、唯の顔に赤みが増す。耳まで赤くなっているあたり、相当恥ずかしかったようだ。まあ自分も人のことなんて言えやしないけど。
「……あの、これ、恥ずかしすぎるのでたまにでいいですか」
若干の不安を孕んだかのような声で聞いて来た。あんな普通な顔で言ってたのに。
演技力があるんだろうか。
「うん! そうだねそうしよう! まあ呼び方なんて人それぞれだしね! うん!」
熱を冷ますために片手で顔を仰ぎながら、私は唯に同意した。
もし唯からそう言ってこなくても、私からそう提案する気でもあったし。
これはちょっと、なんでか分からないけど恥ずかしいすぎる。名前呼びなんてみんなからされてるのに。
「あ、そう言えば、プレゼントまだ開けてなかったや!」
「……あ、確かにそうですね」
「開けちゃってもいい感じ?」
「はい、どうぞ。気に入ってもらえると良いのですが……」
「もう、唯にもらったものが気に入らないわけないじゃん」
そう言いながら私は小包を開けていく。
紐を解いて、蓋を開ければ、そこにはネックレスが入っていた。先に小さなリングのついた、真っ白なネックレスが。
「……こんなに綺麗なの、貰っちゃっていいの?」
「……はい、白崎さんに似合いそうだなって思って、買って来たんです。貰ってくれないと、その……困ります」
「そっか。ありがとう唯。ほんと、一生大切にするね」
そう言って私はネックレスを抱きしめた。
今まで色んな欲しいものを誕生日に貰って来たけど、こんなに嬉しくて、心が満たされるようなプレゼントは初めてだ。
手に持ったネックレスを見つめて、私はいいことを思いついてしまった。
「……ねえ唯、これ、私に付けてよ」
「え、私がですか?」
「うん。私今付けてみたいし、それに唯だって、自分が買ったのが良いかどうかみたいでょ?」
「それは、そうですけど……」
「ならね? おねがーい」
そう言うと唯は渋々といった感じで、でもその口元は緩んでしまっていて。
私はネックレスを取り出して唯へと渡した。
ネックレスを誰かに付けてもらうことなんて初めてだから、ちょっと緊張している。そもそもネックレスを付けること自体初めてなんだけども。
「……いき、ます」
全てを決心したかのような真剣な眼差しで迫ってくるため、こちらもさらに緊張してしまう。ネックレス付けてもらうだけなのに。
唯が正面から、私の後ろへと手を回してフックを止めようとして、まるで抱きしめられているかのような、そんな体勢になる。
真横にだけど、吐息を感じられそうなほどほどに顔の距離も近くなる。
唯のサラサラな髪が私の頰に当たって少しくすぐったい。
どうやら苦戦しているようで1分ほど経っただろうけどまだ止められないようだ。
小声で「あれぇ?」なんて心の声が漏れている。
なんだかいたずらしたくなった私は、唯の腰へと腕を回した。ほぼ完全に、抱き合っているかのような体勢となる。
「ぅえ!? ちょ、白崎さん!?」
大層驚きながら唯は私から離れていった。また顔が赤くなってる。なんかデジャヴ。
あれ、ネックレスはどうしたんだろうと思ったけど、唯の手にはネックレスは握られていない。その代わりに、私は首に若干の重さを感じた。
どうやら付け終わってしまったみたいだ。
むぅ、少し残念。
「あー、もうちょっと唯の体温感じてたかったのになあー」
「た、体温ですか……?」
「まあいいや、また今度ね! それにしても、本当にありがと。めっちゃ綺麗じゃん。ねえ、どうかな? 似合ってる?」
「……はい、すごく、似合ってます」
「ふふ、ありがとう。本当に大切にするね。 それにしても、なんで今週? 来週ならテスト後だったし、それに私の誕生日とピッタリじゃん」
「……ごめんなさい、来週の土曜日は、予定があって無理なんです。学校だと、渡しにくいし、すぐには付けてもらえないと思ったので、今日、渡しちゃいました」
そういった唯の顔が、若干曇った。
「そっか、なら仕方ないね。私もこんなの貰ったらすぐ付けたかっただろうし、学校じゃそうはできないもんね」
その曇りの理由はなんなのか。
唯のことを知りたくて、私は一歩踏み込む。
「……あの、来週の予定ってなんなのか、聞いてもいい?」
拒否され距離を置かれるかもしれないという若干の不安と、私になら話してくれるだろうという淡い期待とが入り混じる。
少し間が空いたあとに、唯は口を開いた。
「……御墓参りに、行くんです」
言い訳をします。
今日、ある作品の最終話だったんです。
数日前に今日で終わりだと知って、全然手がつかなく、書けなくなってしまいました。ごめんなさい!
不定期に更新します。




