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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第2章
28/32

繋ぎ方

 お泊りの約束がある週末まで、あと2日となった今日。

 時間の進みがすんごい遅く感じます。


 これは一体どう言うことなんだろう。

 今はまだ2時間目の授業の半分も経ってない。もう感覚的には4時間目も終わっていいくらいだと思うんだけど。

 ちなみに昨日もそんな感じだった。

 朝起きてから夜眠るまで、体感72時間くらいあった気がする。時計見ても1分も進んでないなんてことがざらにあった。

 多分今日もそうなるんだろう。というかもしかしたら明日と明後日も、唯が泊まりにくるまでずっとそうなのかもしれない。

 そんなにお泊まりが楽しみなのだろうか。最近したばっかりだし、これが初めてってわけじゃないけど、なんでこんなに待ち遠しく思っちゃうんだろう。






 気が遠くなりそうなほど進みの遅い時間を過ごしてようやくお昼休みになった。

 ここからさらに、午前とさほど変わらない時間を過ごさなきゃならないって思うと気が滅入りそうになるけど。

 自分の席でお弁当を広げながら待っていれば、いつものみんなが周りの席を動かしてお昼を食べるいつもの体制になる。

 教室中にお弁当の匂いが充満するけど、今は全く気にならない。お昼前の休み時間とか、お昼ご飯後の授業中は嫌な空気だなって感じるのに。



「なんか今日さー、時間が進むのめちゃくちゃ遅いんだけどー」


「それ、昨日も言ってたやつじゃん」



 お母さんの作ってくれた卵焼きを食べながら私は話題を振る。

 確かに昨日と同じだけど、でも凄まじく深刻な悩みなのだ。



「でも本当にしんどくてやばいんだよね」


「どれくらいやばい?」


「認知症になりそうなくらいやばい」



 はは、やばすぎーと言いながら玲ちゃんは笑っていた。いや、ほんとに笑えないくらいつらいんですが。



「なんかー、思い当たる節とかないのー?」


「えー……ないこともないんだけど……」



 そう言いながら、私は俯きがちに唯の方に目をやる。ほとんどが手作りのお弁当を、なんか小動物のように食べている。

 食べる様まで可愛いとか、なんて生物なんだろう。きっと、寝てる様まで可愛いんだろうな。唯が泊まりに来た時に見てみよっかな。

 おっと、またお泊まりの楽しみが増えてしまった。これじゃ更に時間が遅くなるだけなのに。



「……耐えるしかなさそうです」


「おー、頑張ってくださーい」


「ご愁傷様」



 これは完全に自分の問題だ。いや、問題なんて呼ぶようなものじゃないけど。それにどうにかしようとしてどうにかなるようなものじゃないけど。

 ちょっと憂鬱な気分になりながら、私はお昼の時間を過ごした。






「あのさ! 姫子、今週末空いてたりする?」



 ようやく、ようやく6時間目が終わり、これで帰れるっていう疲労感と、けどまだ明日と明後日もあるのかという陰欝な気持ちとが入り混じったブルーな気分に打ちのめされていた、帰りのショートホームルーム前のこと。

 そう話しかけてきたのは、隣の席の紳堂くんだ。



「ん? なんで?」



 もちろん空いてるはずなんてない。でもそうは答えないで、その目的を聞く。

 なんでって? ただ単に気になるからだ。どんな目的でテスト直前の週末の予定を聞いたのか。



「え? いや、そのさ。 よかったら一緒に勉強しないかなーって思ってさ。それでどう?」


「あー、ごめん、先約があるの」


「あ、そうだよな! うん、いきなりごめんな! 変なこと聞いて」


「ううん、こちらこそごめんね。また時間があったらやろうね」



 そう言って私は話を終わらせた。

 目に見えて紳堂くんが落ち込んでいるため少し悪いことをした気になってしまうけど、まあ仕方のないことだ。

 でも正直、先約って言ったけど、もし紳堂くんの方が先に週末一緒に勉強することになってて唯が後だったとしても、多分唯との方を優先しただろうなって思う。

 かなり性格が悪いことかもしれないけど、でもやっぱり仕方のないことなのだ。


 帰りのショートホームルームも終わって、ついに下校の時間となった。

 唯と一緒に校門を出て、家の方へと歩き出す。

 周囲を見渡して、人気がないことを確認してから手を繋ぐ。たとえ見られたとしても仲のいい友達程度にしか見られないのかもしれないけど、このイケナイことをやっているかのようなスリルがたまらないのだ。

 片手に唯の体温を感じながら、肌寒くなってきた初冬の中そんなことを考えた。


 特に会話もないまま歩いていると、ふっと唯の手の力が緩んだ。いつもなら少し痛いくらいに握ってきてくれるのにどうしたんだろうとそちらを向けば、何故か顔が赤くなっている唯。



「どしたの? どこか具合悪い?」


「……(フリフリ)」



 体調が悪いのかと思ったけどそうじゃないらしい。

 どうしたもんかと見ていると、突然再び手を握られた。

 いや、握られたというよりは繋がれたらと言ったところか。


 さっきまでとは違う、俗に言う恋人繋ぎというやつだ。指と指が絡み合っている。


 今まで、手を繋いだことはあっても、恋人繋ぎなんてしたことなかった。

 だから、恋人繋ぎなんて大層なのは名前だけで、所詮指と指が交差するだけなんて舐めてたけど。


 これは、やばいやつだ。

 病みつきになってしまったらどうしよう、なんて考えてしまうほど。いやこう考えてる時点でもうすでにその沼にはまってしまっているのかもしれないけど。

 絡み合ったその指からはいつもの何倍も唯の体温を感じる気がするし、そこはかとなく安心感と気持ち良さも感じる。

 体温は上がり、心臓がいつもよりはやく鼓動を刻んでいる。

 さっきまでの肌寒さなんてまったく感じなくて、逆に手汗をかかないか心配になってくる。


 唯がキュッと少し強めに握ってくれば、私の心臓はさらにうるさくなって、体温が、顔が熱くなる。

 私は無言で、唯の手を握り返す。

 唯の方を見ても特に反応は見られないが、赤くなっている耳が全てを物語っていた。


 さっき以上に深い沈黙のまま、私たちは分かれ道まで歩いた。

 その沈黙は、いつもなら暇だな適度には思うようなものだけど、今だけは非常に心地良いものだった。






 その後は特に何かあるわけでもなく普通に別れ、そして家に着いた。

 家に帰っても私は手の感触が残っていて、それだけでも少し落ち着かない気分になる。

 自室のベッドの上で少し放心したままぼんやりと天井を眺めた。

 自分のみぎてとひたりての指を絡ませてみるけど、別に先ほどのような感じにはならない。

 人とやらないからだろうか、それとも唯とやったからああなったのだろうか。

 明確な答えなんて出ないけど、へんに色々考えてしまって。

 そして結局行き着いたのは、明日からの手の繋ぎ方はどうなってしまうのか、という期待と変な不安の入り混じった、なんとも言えない口元が緩むような感情だった。







 結論から言うと、その日の電話で私たちの手の繋ぎ方は恋人繋ぎで固定されることとなってしまった。

 流石に人前ではできないだろうけど、これからはずっとあれなのか、と思うと妙に心臓が高鳴り始めて。

 私も結構期待しちゃってるんだな、なんて他人事のようにそう思った。

不定期に更新します。


一回は読み直してますが、半分くらい眠りながら書いたので誤字や文体が変なところあるかも……(ごめんなさい)

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