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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第2章
26/32

側に

第二章始まりです。

毎日最低1話更新できるよう頑張ります!

 たとえ私が、どんなに朝起きるのが億劫で学校に行きたくなくても、逆にどんなに早く起きて学校に行きたくても、いつでも誰にでも平等に同じ時間に朝は訪れる――

 なんて、当たり前のことをへんに哲学的に感傷的に考えてみた。

 時刻は朝の5時半。いつもより1時間以上も早い起床だ。

 別に寝つきが悪くて眠れなかったというわけでも、変に緊張して早く起きてしまったわけでもない。

 事実、今の私の頭はすっきりと冴え渡っている。寝不足でもない。


 じゃあなんでこんな時間に起きたのか。

 その理由、実は私にもよくわからない。

 確かに昨日はいつもより1時間ほどはやく眠りについたけど、でも今までだってそんなことはよくあった。だからそれははやく起きた理由にはならないと思う。

 ならいつもと何が違うのかって話になるけど、そんなこと思いつくものなんて1つしかない。


 私が付き合い始めた。多分それだけだ。






 恋人のいる〝リア充〟っていつもこんな気分なんだろうか。

 こう、心の中が澄んだみたいにすっきりとしたような、へんに幸せな気分。

 多分付き合い始めたばっかりだから、というのもあると思うけど。


 今まで私は自分はリア充だと思ってた。彼氏はいなかったけど友達はたくさんいて、毎日が楽しかったから。

 でも確かに、私は本当のリア充ではなかったみたいだ。

 彼氏、じゃないけど彼女ができて、それが分かった。


 けど本当のリア充にはやっぱりなれないんだと思う。

 友達としての距離でならいつも一緒に居られるだろうけど、恋人としての距離で一緒にいたら周りから変な目で見られちゃうだろうからそれは無理だ。

 そう考えると少し寂しく思うけど、でもそれでも選んだのは自分だし、むしろ付き合ってるってことを考えると、プラマイ0どころかプラス100くらいには思えちゃうから不思議だ。

 なんて色々考えてるとなんだか居ても立っても居られなくなって、私はだいぶ早いけど学校へ行く支度を始めた。







 朝ごはんを食べて、歯を磨いて鞄を持って家を出れば、まだ上りきっていない朝日が辺りを薄く照らしていた。

 漂う空気の、霧のような(もや)のような少し霞んだような感じとその冷たさに、いよいよ冬がやってくるのだと実感する。

 かじかみそうな手を自らの息を吹きかけて温めながら唯のことを待っていれば、3分もしないうちに唯はやってきた。



「あ、唯! おはよー!」



 そう言いながら手を振って近づけば、ゆいも微笑みながら挨拶を返してくれた。

 私は唯の横へと並び、そして自然な流れで唯の手を握った。唯は驚いたようで一瞬ビクッとしたけど、それでも振りほどくことはなくそのままでいてくれてる。

 事前にしっかり確認を取ってからでも手を繋ぐことはできただろうけど、なんかそれを口にするのはちょっと恥ずかしかったから無言で手を取ったのだ。解かれなくてよかった。


 そのまま私たちは手を繋いだまま学校へと歩き出した。

 学校の生徒が多くなる、駅とつながる道へと出るまでの間しか手を繋いでいられない。

時間にすれば20分弱だったけど、それだけでもすごい心が満たされるような、そんな幸せを感じられるような時間だった。








 私と唯の関係は変わった。

 でも教室に広がるのはいつも通りの風景だった。まあ当たり前だ。

 私たちが変わったからって誰かが変わるわけじゃないし、そもそも誰にもこのことを言ってないし。

 それに何か行事があるわけでも、テストが近いわけでもないのだから。まあ近づいてきてはいるけれど。


 でももし周りにこの関係が露呈したときは、どうなるんだろう。

 ちゃんちゃん軍団は多分受け入れてくれるかなとは思う。けどその他大勢はどうだろう。

 隣の席の紳堂くんとか、唯の隣の木村くんとか。

 きっといい顔はされないだろう。というか、除け者にすらされるかもしれない。女同士なんて気持ち悪い、と。

 でもそれも仕方ないことなんだろうけど、そう考えると少し怖くなった。


 この世間、というかこの世界では男と女が愛し合うのが普通なんだろう。

 女同士じゃ子供なんて作れないし、結婚だってできない。法律でも、人としての生態でもそう定められちゃってるんだから、きっとそうなんだろう。

 でも、付き合っちゃったものは仕方ない。

 唯が私のことを好きで、そして私も唯と付き合いたいって思ったんだから。


 それにしても今まではしっかり考えてはこなかったけど、私は唯のことを好きなんだろうか。

 そもそも好きって感情がよくわからないから結論は出ないのかもしれない。


 唯は可愛い。声も顔も可愛くて、スタイルもいい。彼女とかそういう贔屓目無しで見ても可愛い。前髪のせいで皆には知られてないけど。

 それに家事もできて、頭もいいらしい。運動は、まあ普通だけど。


 そんな唯の、初めての友達になって私は唯の友好関係が広がるのを見て不満を抱いたことがある。

 いつからかそういうのはなくなったけど、かつては独占欲のようなものを抱いていた。

 あれはもしかして好意だったんだろうか。

 今でも唯の顔は誰にも見せたくないっていう気持ちはあるけど。


 今までの出会いを振り返ってみて、相手にとって私が初めての友達って人は何人かいると思う。

 でもべつに、その子達には独占欲なんて抱いたりしなかった。ならやっぱり私は唯のことが好きなのかな。よく、分からない。


 人を好きになる気持ちってなんだろう。

 1時間目の現代文の授業の間、先生の朗読や解説を聞きながら、私はずっとそんなことを考え続けていた。







「姫子ちゃーん、おはよー」



 朝、そんな声をかけられながら揺さぶられ、私は目を開けた。



「お、やっと起きた」


「おー、やっとですかー」


「流石に寝すぎ」



 目を開ければそこに広がっているのは私の部屋の天井――ではなく、誰かの制服だった。

 寝心地のいいベッドや枕の感触はなく、というかそもそも私は座っているらしい。

 どうやら自分の腕を枕にして寝てしまっていたようだ。

 というか思い出したけど、私は今学校に来てるんだった。そんなことを忘れるなんてもしかして私……



「ついに老化が始まってしまったのか……」


「何言ってるの姫子ちゃん」



 気怠げな頭を上げれば、ジト目をした玲ちゃんが私を見下ろしていた。その両隣には春ちゃんと杏ちゃんも同じような顔でこっちをみていた。

 あれれ、もしかして私、なんかしちゃいました?



「あれ、というか私、寝てたの?」


「うん。ぐっすりだったね」


「ぐーっすりすぎて、起こすのが悪い気がしちゃって休み時間も起こせなかったよー」



 玲ちゃんと春ちゃんがそんなことを言ってくる。起こせなかったって、確かに授業中は席立てないし起こせないだろうけど、せめて休み時間には起こして欲しかったものだ。

 

 …………ん? 休み時間も起こせなかった……?


 それはいったいどういうことなのか。

 聞いてみようと上体を起こしてあたりを見た瞬間、私は聞く前にすべてを理解した。



「……私、午前中ずっと寝てたの?」


「ぐっすりだったね」


「ねー」



 そう言いながらみんなは机を動かして、いつものようにお昼ご飯を食べる体制を整えている。

 寝起きだからか、それとも午前中ずっと寝るとかいう空前絶後のような体験をしてしまったショックからか、私は体が動かなかった。

 いつのまにか隣に唯もきてきて、その口もとは珍しく上がっていた。



「……なんで起こしてくれなかったの」


「いやね、本当に姫子ちゃんが気持ちよさそうにぐっすりだったから」


「先生も苦笑いしながらほっといてあげよーって言ってたもんねー」


「ある意味尊敬」


「起こしてよおお!ぬわああああああん!」



 私は泣き真似をしながら机に突っ伏して、顔を上げずにそのままお弁当を机の上へと取り出した。


 腕をツンツンと触られたためそちらを向けば、唯が可笑しそうにクツクツと笑いながら私の袖をちょこんと摘んでいた。

 ……唯が笑ってくれるならそれでいっか。

 なんて吹っ切れた私は顔を上げてお弁当を開いた。


 気がつけば先週にはあった私たちの間の距離はもう無くなっていて、肩と肩が触れてしまいそうなほどに近くなっている。

 私はその距離感に、なんとなく安心して。

 この先も私の一番そばに唯がいて、唯の一番のそばに私がいたいなって、そう思った。


 ちなみにその後、午前の授業を担当してくれた先生方には謝りに行った。流石に1から10まで寝て通すとかまずいと思ったからね。うん。

 それにしてもなんで私はあんなに寝ちゃったんだろう。寝起きもスッキリしてたし、寝不足じゃないと思ってたんだけどなあ。

 そんな疑問を抱きながら、私は1日を過ごした。

不定期に更新します。


自覚ないのに寝不足だったってことよくありますよね(?)


二章では唯の過去のなんたらを書いていきます。だからちょっと重いシーン(書けるか分からないけど)出てくると思いますが、それでも一章より何倍も甘々にする予定です。



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