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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
20/32

確信

気づいたらブックマーク100超えてました。ありがとうございます。

 下から話す声が聞こえ、少しした後玄関のドアが開かれる音がした。

 そしてドアが閉まり、さらにそこから数十秒経ってから、私は目を開けた。

 手と足で肩まで被っていた布団を押しのける。


 ――好きって言われた。






 ドアがノックされ、またお母さんかと狸寝入りしてたら、なんと入ってきたのは唯だった。


 唯が木村くんと付き合ってると知ったあの日、なぜかひどくショックを受けた私は1人で雨の中濡れて帰り、当たり前のように風邪をひいてしまったのだ。

 熱自体は昨日の時点で引いていたが、今日はなんとなく学校に行くのが、唯に会うのが躊躇われたため休んでしまった。

 それなのに、休んだ理由の張本人が来てしまうなんて。


 動揺を悟られないように、寝たふりがバレないように、私は目を閉じること、動かないこと、そして静かに呼吸することを今までないくらいに意識した。


 そろりそろりと唯は近づいてきて、ふと止まったかと思ったらベッドが沈み体が少し傾く。

 唯が私の頬に触れ、瞼の裏のかなり近くに何かの気配を感じた瞬間、私はようやく唯がベッドに腰掛けたのだと理解した。


 かなり顔を近づけているらしく、唯の吐息が感じられるほどだ。

 そんなに顔を近づけて何をしているんだろう。目を開けて確かめてみたい。

 はっ、もしかしてキスでもしようとしてるんじゃないだろうか。彼氏もいるんだし、いくら友達でもそれは――



「好き」



 突然囁かれたその言葉に、私は思考を一瞬で停止した。

 近すぎる唯から意識をそらすために色々と雑考していたが、そんなことどうでもよくなるくらいの衝撃を与えられた。

 えっ、と危うく声を上げそうになったがそこは鋼の精神で堪えたけど。


 唯はそういうとそそくさと離れていき、少しドタバタしてから帰っていった。

 もしかしたら唯が帰ってくるかもしれないと思い、唯がこの家から出るまで私はちっとも動かなかった。

 顔が熱くなるのはどうしても抑えられなかったけど。





 私も唯が好きだ。

 可愛いし、声もいいし、自分から話すことは少ないけど私が話してるのが好きってのもあって話してて楽しいし。

 でもその好きは友達としての好きだ。

 まあ友達の中では1番好きではあるけど。

 でもそれなら玲ちゃんだって、春ちゃんだって、杏ちゃんだって好きだ。


 だからおそらく唯も、そのつもりで言ったんだろう。唯には木村くんがいるし尚更だ。

 けど、あのシチュエーションで好きなんて言われると、流石に疑わざるを得ない。

 友達に対して、寝てる(フリだけど)時にかなり顔を近づけ好きだなんて普通言うだろうか。


 おそらく言わないだろう。けどわからない。

 長年1人無口でいたいらしい唯のことだ。そこらへんの価値観が私とは違ったりするのかもしれない。


 だから私は知りたいと思った。

 唯のあの好きにはどんな意味があるのか。

 ただ友達として好きなのか、それともそれ以上の想いがあったりするのか。


 でも1つだけ確かなのは、私は唯に好きだと言われる程度にはよく思われてるってことだ。

 流石にどんな人でも寝てる人に顔を近づけ、その場にいない自分の想い人に対しての想いを囁いたりなんてしないだろう。

 だから明日からはもっと唯に近づいてもっと仲良くなって、起きてる時に伝えちゃうくらい好きにさせてやろうなんて思った。


 もし唯の想いの丈が友達のそれを超えていたらどうするのか。

 なぜ私は唯が付き合ってショックを受けたのか。

 なぜ私はこんなに唯のことを気にしてるのか。

 そんないくつかの疑問もあったが、私はそれらに目を向けることはなく、すぐに霧散していった。


 明日が土曜日であることからは流石に目をそらすことはできなかったけど。







 月曜日の朝、下校の時に私と唯が分かれる交差点で、私は唯と待ち合わせた。

 今までは、私が毎日お父さんの車に乗って行っていたため朝は一緒に行っていなかった。

 けど昨日、私が唯に連絡して一緒に行くことにしたのだ。

 理由は単純明快、唯ともっと仲良くなるためだ。


 今までは唯と席が隣だったから、嫌でも一緒にいる時間が長かった。嫌なんて思ったことないけど。

 しかし席替えをした今、私の席は唯の席とかなり離れてしまった。

 そして唯の隣は彼氏である木村くん。

 こうなったら、木村くんに対抗するには学校外での時間を多く一緒に過ごすしかない。


 それでも1日の授業は最低でも6時間はあるため、それほど対抗できてはないかもしれないけど、何もしないよりはマシだ。

 なんで木村くんに対抗してるのかは分からないけど。



「あ、唯! おはよう!」


「……おはようございます、白崎さん」



 そうこう考えてるうちに唯がきた。

 朝に弱いのか、なんだか眠そうだ。

 いや、前に私の家に泊まりにきた時は私より起きるのは早かったし、それに私が起きた時には朝から勉強してたっけ。

 まあそんなことよりも。



「ねえ唯、今週末だけどさ、またうちに泊まりに来ない?」



 突然になっちゃったけどしょうがない。

 案の定、私の突然の誘いに唯は固まってしまったが、学校外の時間をさらに長く一緒に過ごすには、これくらいのことしか思いつかなかったのだ。

 月曜の朝に言えば、木村くんよりも早く予定を入れられるかもという作戦でもある。



「あ、もしかしてもう木村くんとの予定があったりした? ……なら別に、また今度でも大丈夫だよ」


「……なんでそこで、木村くんが出てくるんですか?」



 固まっていた唯が口を開いたかと思ったらそんなことを言い出した。

 私も少し唖然として唯の方を見る。



「なんでって、唯の彼氏でしょ? もしかしたらもう予定が入って――」


「彼氏なんかじゃないです!」



 私の言葉を遮って、唯は叫ぶように言った。

 初めて聞くような唯の大きな声に私は驚いた。

 私を見つめる僅かしか覗いていないその目には、怒気が孕まれているように見えた。



「え……彼氏じゃないの?」


「ちがいます」


「え、そうなの?」


「先週もそう言ったはずですが」



 唯は冷たく簡潔にそう答えた。

 いまだに信じられない気持ちもあったが、ここまで言われれば流石に分かる。

 本当に唯は木村くんと付き合ってないらしい。

 なんで呼び出された内容を言えなかったのか、木村くんとそういったオーラが出ていたのか、いろいろ訊きたいこともあったけど。



「そっかぁ」



 よかった、と思ったがそこまでは口には出さなかった。流石に不審がられるだろう。

 これで、今まで私を貶めていた懸念が晴れた。いや、もとからそんなものはなかったということか。

 なんにしてもうれしい限りだった。


 朝から私は上機嫌になり、いつも以上に口数が多くなった。

 唯は相変わらずあまり喋らなかった。

 先の質問でもしかしたら気を損ねてしまったのかもしれなかったけど、普通に相槌をうってくれてるので大丈夫だろうとおもい気にしなかった。



「じゃあ唯、週末待ってるからね」



 そんなことを笑顔で言いながら、他愛もない話をしながら私たちは学校へ向かった。







 あ、そうだ。木村くんに直接聞いてみればいいんだ。


 そう思いついたのは2時間目の途中だった。

 古典の文章をひたすら目に入れていた時、ふと思いついたのだ。

 そんなことまったく考えてなかったのに。


 ともかく私は、その時間が終わってすぐ木村くんを呼びにいった。

 木村くんはたいそう驚いていた様子だったけど、素直についてきてくれた。


 その時、隣の席の唯と目があったため、手だけ振っておいた。まあそこまで気に留められることはないだろう。

 廊下を抜け、階段を上がり、人気のないところへとやってきた。

 転校したばかりの頃にちゃんちゃん軍団に教えてもらった場所だ。



「急に呼び出してごめんね。率直に聞くけどさ、木村くんって唯と付き合ってるの?」


「唯……って赤城さんのこと? 俺は今、誰とも付き合ってないよ」


「あ、そうなの!」



 再びここでよかった、と口に出しそうになったけど留めた。もし口に出してしまえば色々と誤解を招く恐れがあるからだ。



「前に木村くん、唯のこと呼び出したでしょ? その時に付き合ったのかどうか、ずっと気になってたの」


「そ、そっか。あれは単に、俺が相談に乗ってもらっただけだったんだ。俺の好きな人についてだったんだけど、まあ、結局乗ってもらえなかったけどさ」


「そうなんだ。じゃあ私、先教室戻るね」


「ま、待ってくれ!」



 話も終わって聞きたいことも聞けたし、もう教室へ戻ろうとした時。

 木村くんに大声で呼び止められた。

 そちらを振り返ればなにやら熱い眼差しで私を見つめている。

 これは……



「えっと、なにかな?」


「白崎さん、その、俺の好きな人ってのは白崎さんなんだ! 転校してきたその日からずっと白崎さんのことが好きでした! 俺と、付き合ってください!」



 告白されてしまった。

 いや、その前の空気から若干察することはできたし、転校する前もそこそこな人から告白されてきたけど。

 この学校に来てから初めてだからか結構緊張した。



「……ごめんなさい、私は木村くんとは付き合えないです」


「っ! そ、そっか。ごめんな、突然こんなこと言っちゃって」


「いえ……、じゃあ、私、先に戻るね」



 そう言って私は教室の方へと向かった。

 もう後ろから呼び止められることもなく、そして私も振り返ることはなかった。

 木村くんには申し訳ないけど、でも彼とは付き合えない。だって私は、彼のことが好きじゃないから。


 でも告白されたこと自体は嬉しかった。

 人から好意を寄せられることは私は普通に嬉しいし、それに木村くんが私に告白したことで、彼が唯と付き合っていないと確信できたからだ。

 告白されてこんなことを考えるなんて、かなり性格が悪いのかもしれないけど。

 しかし最近ずっと私を悩ませていたことなのだから、こう考えてしまうのも仕方ないとも言えよう。


 ……それにしても、私もいつか告白するような相手が現れるんだろうか。

 それは一体どんな相手なんだろうか。

 そんな先を見れない未来のことを考えながら私は教室へ戻った。

不定期に更新します。


評価・感想お待ちしてます。


誤字報告ありがとうございます……。

恥ずかしいけど助かってます。

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