隣の席
これから気まぐれに書いていきます。
よろしくお願いします。
長いようで短い夏休みが終わった。
7月中に宿題を終わらせていた私は、夏休み中特に何をするでもなく、毎日ある程度勉強して、あとは怠惰な日々を過ごしていた。
友達なんていない私はほとんど家から出ることなく8月を見送った。
残暑の残る9月2日の月曜日。
たった2時間程度の、校長の長い話を聞くだけの始業式のためだけに片道30分もかけて学校に行った私は、初めて学校に行って良かった、なんて思った。
黒板に書かれた「白崎姫子」の文字。そしてその前に立つ少女。
整いすぎた顔立ちにすらっと伸びた手足。そして肩下まで伸ばした亜麻色の綺麗な髪がさらにそれらを引き立てていた。
テレビで見たことのある、モデルや女優や芸能人の誰よりもその少女は可愛く見えて。
「初めまして!XX県から転校してきた白崎姫子です!前の学校では――」
彼女の自己紹介はあまり耳に入ってこなかった。なぜだかいつもより早い私の胸の鼓動が、うるさいくらいに聞こえていた。
「白崎さんってさ――」
「白崎さん、姫子って――」
「姫子ちゃんって――」
その転校生は、私の隣の席にやってきた。
窓際の一番後ろの席だった私の隣は、とある事情からずっと空白だった。事情、というか私情なんだけども。
入学からずっと私の隣の席は空いていた。いや空けていた。
自分で言うのもなんだけど、それなりに勉強が出来る私は入学試験の成績は1番で入学した。
そして入学直後のテストでも期末テストでも断トツで1番だった私は、席のことを先生に相談した。
私の席を窓際の一番後ろに固定して隣を空けてくれないか、と。
色々と理由を求められ、その話し合いは30分以上にも渡ってしまった。
理由も何も、ただ隣の席の人と、というか人と喋りたくない、接したくないという身勝手すぎる欲求しかないのだが、集中できない、後ろの方が勉強捗る、など様々な適当な理由をつけたところ、「事情は分かったしこの先もずっと成績を維持できるなら」となんとか納得してもらい、私はこの席を得たのだ。
それが気づいたら、隣に姫がいた。
いや、ちゃんと自分で隣の席に転校生が来るのを了承したのは覚えてる。けど、それは半ば無意識のうちにやってしまったことだ。
突然モデルみたいな人が目の前に現れて私の脳内はフリーズしてしまったのだ。
「赤城さん、姫子さんが隣の席になってもいいかな?」
「……(コクッ)」
先生からの質問だって、ちゃんと理解したのは頷いてから10秒くらい経った後だった。
「……えっ!? ちょっ――」
「えーと、赤城さん、っていうのかな? お隣お邪魔します! これからよろしくね!」
「……(コクッ)」
そして10秒経った後にはすでに席を持った転校生がいて。突然話しかけられた私は、ただただ頷くことしかできなかった。
こんな時に「こちらこそよろしく」とか「分からないことあったらなんでも聞いてね」とか言うことができたら、もしかしたら仲良くなれたんじゃないだろうか。
ただ頷くだけとか第一印象最悪だ。
こんなことになるならちゃんと人とコミュニケーションを取っておけば良かった、と静かに後悔した。
その後の時間もなんとか転校生に話しかけようとしたけど、しばらく父以外とまともにコミュニケーションを取ったことがない私は何もすることができなかった。彼女が可愛すぎて見てるだけで変にドキドキしてしまうから、というのもあるけど。
結局その後、2時間しかない学校はすぐに終わってしまい、転校生はクラスのAグループの女子達と帰って行ってしまった。
ちなみにAグループっていうのは、ただ私が心の中で、クラスカースト上位の女子達の集団のことをそう呼んでいるだけだ。
ちなみに、もちろん私はカースト最底辺。
長い前髪に地味なメガネ。そしていつも必ず文庫本を読んで、これでもかというくらい陰キャぼっち近づくなオーラを発している。
そんなだからきっと話せないし、話しかけてもらえることもないのだろう。
けど、それを変えようとは思わない。これが自分で決めた自分の在り方で、自分の人生なのだから。
だからもしこのまま転校生がAグループに吸収されてしまえば、もう話せることは無くなってしまうだろう。
まあでも、暫くは一番近くで彼女のことを見られるのだ。いいことじゃないか。うん。
……でもなんかあの子のこと気になるし、やっぱり話せる方がいいよね……。
久しぶりに自己嫌悪に陥りながら、私は30分の帰路についた。