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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
17/32

敵と仲間と激白と

ブクマが80いってました……。

感謝感激、幸せの極みです。

 異性に放課後呼び出されるなんて、あれしかないじゃないか。

 高校に入ってからこんなことになったのは初めてだ。


 そもそも、異性と話したことが初めてだった。いや、昨日一応挨拶のようなものをしたから初ではないのかな……?

 いや、細かいことは置いといて、とにかく初めてのトークが放課後の呼び出し。

 白崎さんと話すのすらいまだに若干緊張している私が、呼び出しに緊張しないはずはなくて。

 なんで私なんだろう、なんて答えればいいんだろう、どう断るのが正解なんだろう。

 いろんな考えが頭を巡って、朝から放課後までの記憶が曖昧となるほど私は緊張していたのだった。







 いや、でもまだ告白だと決まったわけじゃないし……。

 でもそれ以外だとしたら一体なんだろう。

 そう考えてみると、私はカツアゲ以外思いつかなかった。

 うぅ、カツアゲされたらどうしよう……怖い……。


 私はビクビクしながら、指定された中庭へと足を運んだ。

 まあ中庭、といっても場所的には全然真ん中じゃなくて、逆に端っこの方にあるため人通りは全然ない。

 一年のはじめの頃にそこでお昼ご飯を食べるのもいいかも、と思って行ってみたけど、遠いしなんか暗い感じがして嫌だったのでやめた。

 そんな中庭に、そろそろ着く。着いてしまう。


 呼び出された相手は、この度の席替えで隣になった、木村くんだ。

 正直昨日が初めての面識だったし、顔だって今まで見たことなかった。人の顔をあまり見てこなかった、というのもあるけど。


 でも見た感じだと、顔は結構イケメンなんだと思う。いや、イケメンかは分からないけど、とにかく不細工だとは思わなかった。

 爽やかで、親切そうな人だと感じた。

 この人なら、白崎さんに言われた通り仲良くなれるかもしれない、って思ったのに。

 もしこれが本当に告白だったら明日から絶対気まずくなって、仲良くなんかなれるはずなくなってしまう。

 ごめんなさい、白崎さん……もしかしたら白崎さんに言われたこと守らないかもしれないです……。




 



「赤城さん! 俺に、白崎さんを紹介してください!」



 私は一瞬、耳を疑った。

 頭の中でその言葉を何度も咀嚼して、そしてようやく理解した。

 告白ではない。そのままの解釈だけど、木村くんは白崎さんと仲良くなりたくて、最近白崎さんと一緒にいる私に声をかけたのだ。

 


「え……、なんでですか?」



 わざわざ呼び出す必要はあったのか。聞きたかったのはそんなことだったはずなのに。

 私の口から出た言葉は、なんで、だった。

 その理由なんて火を見るよりも明らかなのに、なぜか口に出てしまったのだ。



「なんでって……、白崎さんが気になるからだよ」



 当たり前だ。気になってない相手になんて近づきたいと思うはずがない。

 私だって、白崎さんのことが気になったから頑張って歩み寄ろうとしたのだから。

 まあ私のしたこと悉くは失敗して、結局白崎さんが話しかけてくれたから仲良くなれたわけだけど。


 ……ん?まてよ?

 気にならない相手には近づこうとは思わないけど、白崎さんは私に進んで話しかけてくれて、一緒に買い物したりお泊まりしたらなんかしてくれて……


 ……ん?ということは?つまり?


 ――はっ、まさか白崎



「なあ、なんか言ってくれよ。それで、どうなんだよ」



 こ、こいつー!!

 あと少しで、あと少しでなにか重大な大切なことが分かりそうだった気がするのに!



「絶対、イヤです」


「なんでだよ!?」



 そんなのし決まってるじゃないですか。今この瞬間、あなたが私の思考を邪魔したからです。それにそもそも



「私も白崎さんが好きなので、敵に情報なんか与えたくないです」


「――えっ!?」


「えっ」



 なにか、まずいことでも言っただろうか。



「それって、友達として好きってこと? それとも恋愛として好きってこと?」


「……えっと、なにがでしょうか」


「だから、赤城さんが白崎さんを好きって言ったけど、どんな好きなのって!」


「えぇ!!??」



 まさか私、声に出てた……?

 考えを邪魔されたから嫌って言ったつもりだったんだけど……。


 やばいやばい、こんなことがクラスや学年の人に知られれば、冷たい目で見られるに決まってる。

 それじゃ中学の二の舞だ。なんとかして誤魔化さないと……



「べ、べつに、私白崎さんのこと好きじゃないです。あなたがなにか聞き間違えたんじゃないですか?」


「いーや、そんなことない。俺は確実に赤城さんが白崎さんを好きって、俺が敵だって言ったのを聞いた。密かな自慢だけど耳だけはいいんだからな!」


「いや、あの、それは言葉の綾というか、なんというか」


「言葉の綾? なら赤城さんはなにを言おうとしたんだ? あれでどんなことを伝えようとしたんだ?」


「それは……」



 どうすれば、私が言ったらしい好きと敵を誤魔化せるのか、私にはもう分からなかった。

 もうあんなことになるのはごめんだ。これ以上達に迷惑なんてかけられない。

 私は両膝を、額を地面にくっつけた。



「……お願い、します。このことは、他の人には話さないでくだ、さい……」



 怖い。つらい。苦しい。悲しい。

 いろんな感情が胸の中を暴れまわり。

 私は涙を堪え切ることができなかった。

 でも、醜態を彼1人に見せるだけで今の生活が守られるなら。それくらい我慢しようじゃないか。



「あ、赤城さん! なにしてんだよ! 頭上げろって!」


「はなざ、ない、で、くだざ、い……」


「いや頭上げろって! ぜってー話さないから! 土下座なんかすんなよ!」



 そう言いながら木村くんに肩を掴まれた。

 私は一旦土下座をやめて、俯きながら彼の方を見た。



「ごめん! 赤城さん! 俺のせいで怖い思いしたんだよな、ほんとごめん! べつに誰かに話したりしないし、もう話さなくていいから! 嫌な思いさせてまじすまんかった!」



 そう言って木村くんは、私と同じように土下座を始めた。



「え、えっと……あの……」


「ごめん! 赤城さん!」


「あの、もういいので……頭をあげてください」



 私はそう言いながら、木村くんの肩を叩いた。

 土下座をされると何故か自分まで申し訳なくなって、居たたまれなくなった。

 土下座をされたことは初めてだったから、あまり深く考えずに土下座をしてしまったけど。


 木村くんは恐る恐る顔を上げた。

 その顔には誰が見てもわかるほどに申し訳なさが滲み出ていて。



「私は、白崎さんのことが好きです。多分、恋愛感情として。今まで人を好きになったことが分からないので正解かどうかも分かりませんが、おそらくは……」



 私は自然と、そう言葉を紡いでいた。

 土下座をされた申し訳なさから言ったのか、と聞かれればそうではないとは言い切れない。

 でも、木村くんの今の顔を見て、彼ならきっと大丈夫だろう、とそんな気がしたのだ。


 木村くんは数瞬の間ぽかんとして、その後彼の顔には喜色が浮かび上がった。



「そっか、そうだったんだ。ありがとう話してくれて。もちろん他の誰かに話したらなんて絶対しない。そこは安心してほしい」


「……ありがとうございます」


「あと白崎さんのことだけど。俺、自分で頑張ってみるよ。赤城さんが敵だった、ってのもあるけどやっぱこーゆーのって自分の力でやってこそじゃんって思ったんだ」



 木村くんはどこか清々しさを感じされるような声でそう言った。



「……分かりました。ごめんなさい、力になれなくて」


「いいのいいの、中々いい話聞けたしさ。それに他人の力を借りようとした自分が馬鹿だったんだよ」


「絶対話さないでくださいよ。話したら呪い殺しますから」


「ははっ、呪いはこえーな。まあ死んでも話さないから安心して大丈夫だよ」


「あ、そういえば白崎さんの隣の席はサッカー部の人だと伺いましたけど――」



 そんな感じで、私と木村くんは主に白崎さん関連のことで雑談しながら校内へと戻り、そして昇降口を出た。



「じゃあな赤城さん」


「はい、それではまた明日」



 そう言って、私と木村くんは別々の方向へと帰っていった。


 結局呼び出されたのは告白でもカツアゲでもなかったけど、白崎さんに言われた通り隣の席の子と、木村くんと仲良くなれた気がする。

 中庭を出たあたりからはほとんど緊張なく、気兼ねなく話すことができていた。

 仲良くなれたと言えるだろう。まあ、敵であることに変わりはないけど。


 今日のこれも、直接ではなくとも白崎さんが仲を取り持ってくれたようなものだ。

 白崎さんからはたくさんのものをもらっている。

 古谷さんたちとのことだったり、昼休みのことだったり、そしてこの初めての感情だったり……。

 なのに私はなにも返せてあげられてない。

 私は白崎さんに深く感謝するとともに、何か返せてあげられないだろうか、なんて考えながら帰路に着いた。


 ……白崎さんって何が欲しいんだろう。

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