関係
明日からはお昼に更新できなくなると思います。
その代わり夜にたくさん更新できるように頑張ります。
「あー、白崎さん! えーっと、その、名前で呼んだりしてもいいかなー? なんて。ははっ!」
可笑しいほどに挙動不審になりながらそう伝えてきたのは、隣の席の紳堂くんだった。
3時間目が終わった途端いきなりそんなことを言われたものだから普通に驚いてしまった。
「別にいいよ? 私呼び方なんて気にしたことないし、紳堂くんの好きな呼び方にしてくれて構わないよ」
「えー……じゃあ、さ、姫子、なんて呼んでもいいのかな?」
正直なところ、踏み込みすぎでは? と思う所はある。
同じクラスだったとしてもほとんど面識はなかったし、席替えしてからまだ1日しか経っていない。
それなのにいきなり名前を呼び捨てにするのは馴れ馴れしすぎる感じがしなくもないけど。
「うん、いいよ?」
「まじ! やったあ! 改めてだけどこれからよろしく、姫子!」
でも、名前呼びを許すだけでより親しい仲になれるというなら、そんな不快感なんて安いものだ。
「うん、よろしくね。紳堂くん」
こうやって仲のいい人を増やしていけば、より充実していると感じられるようになるのだろうか。
前に進めてるって思えるんだろうか。
その答えはまだ分からない。
「なーんか姫子ちゃん、隣の席の子と雰囲気良さげじゃない?」
「あーなんかわかるー。結構お似合いなんじゃなーい?」
お昼休み。席替え前と変わることなく、私たちはクラス右前で、5人でお弁当を食べていた。
お弁当も食べ終わり、雑談タイムに入った瞬間、玲ちゃんと春ちゃんがそんなことを言ってきた。
見れば杏ちゃんも頷いたりなんかしちゃってる。
「えーそんなことないって。ただの隣の席の友達だって。確かに紳堂くん親切そうだしかっこいいとは思うけど」
もしかしたら向こう側は私に気があったりするのかもしれない。
突然名前の呼び方を、しかも呼び捨てに変えたのだから、そこまでは無いにしろ、少しくらい気はあるんだろう。
でも、私にとっての彼はただの友達だ。
他の男子よりは仲がいいだけの隣の席の友達だ。それ以上でもそれ以下でもない。
紳堂くんがゆうくんになることはない。
「……白崎さん、その人と付き合うんですか?」
突然、横から声がかかった。
今まで静観していた唯が、こちら向いて、そしてどこか不安そうにしながら聞いてきた。
「いやいや、ないって。もし向こうにそんな気があっても私にはないから」
「……そっ――」
「えーないの?だってさっきかっこいいとかって言ってたじゃん!」
「いや、それはあくまで世間的な感想というか、私目線じゃなくて他の人から見たらそう見えるんだろうな〜みたいな……」
「えー、じゃあ本当にないの?つまんないのー」
「つまんなーい」
「つまらない」
唯の言葉は途中で玲ちゃんに遮られちゃったけど、多分そっか、とかそうなんだって言おうとしてたんだろう。
その証拠……かどうかは分からないけど、私の答えに満足したような安心したような、そんな感じのオーラが唯の周りに漂っていた。
唯は、私が紳堂くんと付き合うのが嫌だったんだろうか?
昨日唯は、自分の友達は私だけいればいいみたいなことを言っていた。
なら、紳堂くんに私がとられてしまうことを危惧してたんだろうか。
もし、そうだとしたら。
なんて、なんて愛やつなんだろう。
なんだか暖かい気持ちになった私は、心の中で微笑んだ。
……それにしても。
「人の関係をつまんないとかゆーなー!」
「えーだって何にも無いなんてつまんないんだもん」
「つまんないんだもーん」
「もん」
「こいつら〜!」
昼休みももう後5分で終わるといった頃。
私は唯の席へと向かっていた。
「ねえ唯、今日の放課後さショッピングセンター行って遊ばない?」
なんとなく、今日は唯と遊びたい気分になったのだ。
ショッピングセンターは2駅となりで行くだけでも往復30分以上はかかるけど、今日はいつもより1時間早く学校が終わる。だから遊ぶ時間には余裕があるのだ。
「……ごめん、白崎さん。今日はちょっと……」
どこか歯切れが悪そうに、唯はそう言った。
「そっかー。もしかして今日バイトだった?」
「……(フリフリ)」
「えー? じゃあ、特売?」
「……(フリフリ)」
なんだろう。一向に正解が出てこない。
部活に所属していない唯の放課後が潰れることといえば、バイトと特売くらいしか思いつかないんだけど。
うーん、と悩んでいると、唯が顔を寄せて、と手招きしてきた。
珍しい仕草だな、なんて思いながら顔を近づけると。
「……今日、放課後、木村さんに呼び出されたんです」
「ええ!?」
耳元で囁くようにそう言われた。
コソコソ言った意味が無くなってしまうけど、私は思わず声を上げてしまった。
そのせいで、周囲からいくつもの視線を感じる。
でも流石に驚くななんて言われても無理だ。
木村とは、今唯の隣の席であるサッカー部の人だ。確か、木村ゆうき。
紳堂くんと名前が似てるなって感じで覚えてた記憶がある。
いや、そんなことは今はどうでもいい。
「え、いつ呼び出されたの?」
私も唯と同じように、耳元に口を寄せて小さな声で聞いた。
「……今日の朝、学校へ来たらすぐに言われました」
「昨日はなんか話したの?」
「……いえ、ただ互いに挨拶しただけです」
「じゃあ前から気を持たれてたってこと?」
「……そう、なのかもしれないです」
本当はもっと聞きたいことがたくさんあったけど、授業の始まる時間が迫ってきたため仕方なく自分の席に戻った。
5時間目の現代文の時間。
その間私は、ずっと唯と木村くんの、というか主に唯のことを考えていた。
彼は、クールで無口だった唯をずっと思っていたってことだろうか。
それとも、ここ最近の少し話すようになった唯のことを見て惹かれていったんだろうか。
なんで、前髪が長く目見えない、眼鏡をかけたままの地味な唯を好きになったんだろう。
もしかして、唯の顔をどこかで見たんだろうか?もしかして、唯が見せたりしたのかな。
でも正直、唯はすごくモテると思う。
あの顔を抜きにしても、勉強はできるし声も可愛い。それにほぼ1人で暮らしているということは家事だってできるってことだ。
もしそれを木村くんが知っていたら好きになってしまうのも当たり前なんじゃないだろうか。
そんな憶測を語り続けていたらきりがないが、とにかく確定しているのは木村くんが唯のことを好きで、そして今日告白するということだ。
なら、唯はどう返事するんだろう。
唯のことだ。まさか付き合ったりなんてしないだろう。
けど、世の中何が起こるかわからない。
長い前髪と眼鏡の奥に可愛い顔を隠した地味な女の子だってこの世界にはいるんだ。
もしかしたら唯も前から、私がこの学校に来るよりも前から、密かに木村くんのことが好きだったとかあるのかもしれない。
この2ヶ月、たくさん唯と話してきてそんなことを言われたことはないから恐らく無いとは思うけど。
でもよく考えてみると、私たちの間にそういった色恋話が上がったことは無い。
もしかしたら唯はまだ私のことを信用しきれてなくて、そんな話をするのを避けていたのかもしれない。
私が勝手に1人で仲良くなれたって思ってただけかもしれない。
でも昨日、唯は私がいればいいって言ってくれた。
ならかなり仲良くはなれてるんじゃないのだろうか。いや、でも――
私は唯との関係が酷く曖昧なことに気づき、あてもなく不安になった。
今までこんなこと考えたこともなかったのに。友達なんて、言葉にしなくても自然になれてるものだと思ってた。
唯だって同じように、自然に友達になれるんだと思ってた。
でも違ったんだろうか?
分からない。でも友達にはなれてたと思う。ごく普通の友達のように、仲良く喋れていたはずだから。喋ってくれていたはずだから。
それなのに何故、私は今こんなに唯のことを考えているんだろう。
今までの友達だって、その人のことを知らないことなんてたくさんあった。知らない間に付き合い始めていたことだってよくあった。
なら唯だってその人達と同じじゃないのか。
わからない。分からない。
唯は私をどう思ってるんだろう。そして私は、唯に何を求めてるんだろう。唯にどうなって欲しいんだろう。
考えれば考えるほど不安は大きくなっていって。自分のことなのにもっと分からなくなっていって。
「――なんで貴方は私の事を知った気になっていたの?』女はそう、男に告げた。男は涙を流しながら――」
今は現代文の授業中。
ふと耳に入った、生徒が音読している小説の一節が、私の心を更に掻き立てた。
私は唯のことを知った気になっていたけど、ほんとはなんにも知らなかったんじゃないか。
一度抱いた疑念は消えることなく、私の頭に残り続けた。
唯のことをもっと知りたい。無性にそう思った。
不定期に更新します。
文章書くのって難しいですね……
もっと自分が満足できるものを書けるようになるため日々精進して参ります。
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