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私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
13/32

前進

ブクマが50なってました。

正直こんなに読んでもらえるなんて思ってなかったのでかなり驚いてます。

そして滅茶苦茶嬉しいです。

ありがとうございます!


唯視点です。

 自宅のベッドの上で私は、ただただぼーっとしていた。

 先程までのまるで夢のような時間が勝手に反芻されてしまい何も手がつかないのだ。

 日曜日の午後で何もやる気が起きない、というのもあるけど。


 土曜日、勇気を振り絞って行った白崎さんとの買い物。

 友達と買い物に行くなんて初めてだったから。前日に考えたりもしたけど、何を買えばいいのかよく分からなくて。

 でも白崎さんはそんな私をリードしてくれて、沢山の服を買うことができた。

 正直、私なんかに似合うのかなっていう服もいくつかあったけど、白崎さんにオススメされたため買ってしまった。

 まあでも、楽しかったから良かった。それにかなり普通に喋ることができるようになったと思う。

 白崎さんを見ることで早くなってしまう鼓動はどうにもできないけど。


 ちなみに、沢山の服を買えたのはいいけど、着る機会が無いことに気づいたのはついさっきのこと。

 まあいつか、いつかは機会が生まれるだろう。本当にいつかの話だけど。






「やるなぁ唯。初めてのお出かけで泊まりまで済ませちゃうなんて」


「……うるさいです」



 夕食時、父に事細かに事情を聞かれた私は、顔を赤くしながら説明した。

 どこにどう買い物して、どんなことを話したのか。泊ままた感想なんて聞かれた時には顔から火が出そうだった。

 別になにかあったわけじゃないのに、なんとなくやましい気持ちになった。



「はっはっは! それでお前、いつも通り早寝早起きしちゃったって? ははっ、まあ失敗なんて誰でもあるさ。まあそれにしても、はは。寝付きが良すぎるのもある意味問題なのかもな?」


「……うるさいです」



 白崎さんと互いにおやすみ、と言ったことは覚えてる。でもそのあとも普通に話したいと思ってたし、そうする予定だったのに、なぜか気づいたら外は明るみ始めていて。

 私の横では白崎さんが目を閉じてすやすやと眠っていた。

 私は休日でも平日通りに寝て起きる。けれどお泊まりくらいは夜更かししようと思ってたのに。

 今思い出しても後悔しかない。



「……それと、私の顔が好きだと言ってました。可愛くて」


「……おう、そうか。まあ唯の顔はやっぱ普通に可愛いからな」


「でも私は、好きにはなれないです」


「……そうだろうな。けどさ、あんな事なんてもう絶対起こらないと思うぞ? あれは偶然に偶然が重なって起きてしまった事故のようなものなんだからな」


「確かにもう同じようなことは起こらないと思いますけど……。でも、あれは事故なんかじゃないです」



 中学生の時に起こった事件。そのせいで、私は私が、私の顔が嫌いになった。

 父はたまたま起きてしまった事故のようなものだというけど、私は絶対にそうは思わない。


 どんなに自分の顔が嫌いでも整形するお金も勇気もない私は前髪を伸ばして眼鏡を付けて、人から顔の全部を見られないようにしたのだ。

 でもそんな顔を、白崎さんは好きだと言った。言ってくれた。


 好き。私の顔が、というのは理解してるけど、その言葉を言われるだけで、私の心臓は破裂しそうなくらいに激しくなる。

 今まで心の中で密かにその言葉を呟いてきたし、中学の時にも何度か言われたことがある。それに父にだってよく言われる。

 でも、それで私の心臓が昂ぶることはない。白崎さんだけが特別なのだ。



 ピロンッ



 携帯が鳴った。父のではなく、私の携帯が。



「お前の携帯が鳴るなんて、明日は雪でも降るのか?」



 9月に雪が降るわけがない。でもそれくらい、私の携帯が鳴るなんて珍しいことなのだ。というか今まで一度も鳴ったことなどない。



『また遊ぼうね!』



 顔文字や絵文字なんか使われていない簡素な一言のメッセージ。

 でもそれだけで私は鼓動が早くなるのを感じた。

 白崎さんはずるい。たった一言で私をこんなにドキドキさせる。



『うん』



 私も一言メッセージを送って携帯を閉じる。

 ずるい。心の中で呟かれた言葉が表に出ることはなかった。






「ねえ唯! お昼ご飯私たちと一緒に食べない?」



 そう声をかけられたのは、翌日の月曜日の昼休みが始まってすぐのことだった。

 声をかけてきたのは白崎さんだ。

 白崎さんに誘われた。それだけで気分が高揚する。心臓がうるさくなる。


 でも、今まで私は自分で作ったお弁当を自分の席で1人で食べていた。

 たまに外に出ることもあるけど、ほとんど自分の席で食べる。



「……私たち、って……、白崎さんとふたりじゃないってことですか?」


「? そうだけど、無理だったかな」



 だから、正直なところ、断ってしまいたい。

 白崎さんとは仲良くなれたけど、他の人たちとはまだ喋ったことすらない。

 それに今までずっと1人でいた私が突然Aグループに入ってきたりしたらきっと。



「……他の人たちが、嫌がると思います」



 私が入ることで場の空気が白けることなんてわかりきってることだ。



「大丈夫だって! さっき聞いてきたけど、大歓迎って!」



 そのAグループの人たちは私とは正反対の、クラスの右前にいる。

 私がそこに視線を向ければ、笑いながらこちらに手を振ってくる3人の姿があった。



「……本当にいいんでしょうか」


「いいのいいの! むしろ来てって感じ! てかこっちが誘ってるんだからいいに決まってるじゃん!」



 そこまで言われたら逆に断るのも何様だ、という話だ。

 歓迎されてはいるらしい。けどやはり、怖いものは怖い。

 こんなこと言うのはみっともないし、ズルイとは思うけど。



「……白崎さんが、そばにいてくれるなら、ご一緒させて欲しいです」


「ふふっ、分かったよ。大丈夫だから。さあ、行こっか!」



 白崎さんははにかみながら、手を差し出してきた。

 私は片手にお弁当を、そしてもう片方の手で白崎さんの手を掴んだ。





「え! 赤城さんお弁当自分で作ってるの!?」


「すごーい」



 そう言ったのは、古谷さんと宮川さんだ。


 白崎さんが仲介役となって私と3人は自己紹介し合った。

 今更自己紹介? とは思うだろうけど、おそらくクラスメイトの名前を覚えてない私を、白崎さんが気遣ってくれたんだと思う。

 私のことを考えてくれてる嬉しさと恥ずかしさとで、私は顔が熱くなった。



「……料理は昔から得意なので」


「料理上手なJKとか強いよね」


「私も料理うまくなりたーい」


「ははは、絶対無理でしょ」



 白崎さんの言葉に皆が笑う。

 気を使ってもらってるのかもしれないけど、Aグループの人たちはかなり話しやすくて、居心地も良かった。



「ふぅー、まんぞく」



 そう言ったのは、今までずっと一言も喋らず黙々とお弁当を食べていた霧島さんだ。

 全く喋らないのでこの人はやっぱり私のことをよく思ってないのかな、なんて思ってたけど、それは違ったみたいだ。



「あんたほんと、ご飯食べるのだけは早いよね」


「食べることこそ、生きがい」


「あー、それ太るやつだーや


「太りませーん。カロリー全部姫子ちゃんに送ってるから」


「え、嘘でしょ!?」



 そう言って白崎さんは立ち上がりお腹周りを触りだした。

 そんな白崎さんの様子に3人は笑い出す。

 白崎さんが可笑しくて、私も3人つられて笑ってしまった。


 3人が物珍しそうに、白崎さんはなぜかキョトンとして私を見ていた。



「赤城さんって、笑うんだ……」


「私も人間ですよ」


「これは貴重だー」


「私のおかげ」


「え、いやいや私でしょ!」



 なんだか揶揄われてる白崎さんが可笑しくて、3人の空気が面白くて、また私は笑ってしまった。


 学校で笑う日が来るなんて思ってなかった。

 確かにこれは、貴重なのかもしれない。


 そんな私の笑いにつられてしまったのか、4人も皆笑い始めた。


 左後ろにある私の席とは真逆の、窓から離れた教室の右前で、5人の笑い声がこだましていた。

不定期に更新します。


そのうちシリアスパートも書く予定なんですけど、私の力で書けるかどうか……

次回から心理描写多めでお送りしたいと思います。できるかわかりませんが。


評価・感想お待ちしてます。

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