顔
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9/9 姫子のセリフを少し追加しました。
お風呂を済ませ、週末の課題を終わらせて。
壁にかけてある時計を見ると、21時を少し過ぎていた。
唯の後にお風呂に入った私が出てきたときはまだ19時過ぎだったので、2時間ほど勉強していたらしい。
普通、友達が家に来てたら勉強に集中なんてできるはずないと思う。けど、唯と一緒だとなぜかめちゃくちゃ集中できた。
かつてここまで集中できたことなんてあっただろうか、なんてのは少し言い過ぎだけれど。
唯が泊まりにくるのが初めてだから緊張してた、というのもあるだろうけど、1番は唯が自分から喋ることがないからだと思う。
でもそんな会話の無い無言の時間も、唯となら特に気になることは無かった。
電車の中とか、買い物中歩いてる時とかよく会話が無くなるけど、苦ではなかった。
ちゃんちゃん軍団の誰かとか、前の高校の友達とかだと恐らくこうはならないだろう。
普段から無言である唯だからだろうか。それとも何か、唯にそんな体質でもあるのだろうか。なんて、そんな変なことを考えていた。
「いやー、うちなんも無いねー」
「……白崎さんの部屋、可愛いものとかたくさんありますよ」
「いやそうじゃなくてさー」
唯は目が隠れているため、顔から感情が読み取れない。
それに声も、綺麗だけど抑揚がほとんどない。
そのため一つ一つの発言にどんな感情が込められているのかが分かりにくい。
だから今の唯の、私の部屋を褒めたのだって、お世辞か本音か、あるいは冷やかしか。
その本質を見極めることは私にはできないが、話の噛み合い具合からおそらく本音だと思う。なんかなんも無いの意味わかってなさそうだったし。
「ほらこう、遊ぶものとか無いじゃん。唯っていつも家で何してるの?」
「……勉強して、たまに本読んで、あとは寝ます」
「えっ! 本って漫画とか小説ってこと?」
「……漫画はあまり読んだことないです。いつも読んでるのは小説です。ミステリーの」
「へー、ミステリーか」
小説はまったく読まない私だけど、ミステリーは少しだけ読んだことがある。
例えば、仮面別荘殺人事件とか。というかそれしかまともな本を読んだことがないし、読む気にならない。だから、少し読んだことがあるなんて言ったけど、実際は冊しか読んだことはない。
それに、仮面の本は姉に勧められたから読んだだけだ。まあそれが意外にも面白かったんだけど。
「私あれなら読んだことあるよ。仮面別荘殺人事件!」
「あ、それ私も読んだことあります。面白いですよね」
「あれしか読んだことないんだけどね! 最後のどんでん返しがなんか、すごいー!ってなったよね!」
「分かります。特にあの死んだ――」
唯は本が、ミステリー小説がかなり好きらしい。なんとなく表情も声も弾んでいる気がする。
私ももっと本読んどけば、さらに会話を広げられたのに……!
私は密かに後悔した。
私は今、タイミングを見計らっている。
唯との雑談の中、いつどこでその顔を見せて、なんて言えばいいんだろう。
多分唯は、頼めば見せてくれるだろう。
でも突然頼んだって変に思われるだけだ。それでも見せてくれるだろうけど、変に思われるのはいやだ。
「……結構昔から父に料理を教わってましたけど、高校に入って、自分でほとんど作るようになってから、上達できた気がします」
「そっかー、やっぱ料理できるっていいよねー。いいお嫁さんになるにはやっぱ料理上手って必須要素だと思うし」
私だって別に、できないわけじゃない。
カレーとシチューなら1人でも作れるし。
「唯のお父さんってどんな人? かっこいいの?」
「……すごく頑張る人で、いつも私の味方で、とても尊敬できる人です。かっこいいかはわかりませんが……」
「ほーん、いいお父さんだね!」
「……はい」
ここだ。絶対にここだ。
今言わなかったらもういうチャンスは無いだろう。別に、やましいことを聞くんじゃないんだ。ごく普通のことを頼むだけだ。そのはずだ。なにも尻込みする必要はないのだよ!
「……あのさ、唯、顔、見せてくれない?」
「……? 顔ですか?」
「そ、そうそう! ま、前にね、一瞬チラッと見えたことがあって! 一瞬! めっちゃ可愛い感じしたからまた見たいなーって!」
唯が不審に聞いてきたので、慌てて変な言い訳をしてしまった。
これじゃかえって不審になっている気がする。一瞬のところばっかり強調しちゃって。
これじゃ嘘だってバレ――
「いいですよ?」
「へっ? ……いいの?」
「はい、別に構いませんけど」
そう言って唯は眼鏡を外し初めて。
えっ、そんな簡単に見せてくれるの?何か深いわけがあって顔隠してるんじゃないの?
若干パニックになってる間に唯は眼鏡を外し、そして前髪を片手で持ち上げた。
「……はい、どうぞ?」
「……」
唯は若干恥ずかしそうに、首を傾けながらそんなこと言ってくる。
前見たときは結構遠くからだったから分かんなかったけど。
唯、可愛いすぎる……。
パッチリとした目にすらっとした鼻。形のいい唇。肌だって化粧してないのにすごく綺麗で、白くて。
私可愛いのに名前覚えてないなんてサイテーなんて考えてた私が、本当にバカに思えるほどに唯は可愛かった。
「……えっと、もういい?」
「……(コクコク)」
声も出せず、ただ無言で頷いた。前の唯みたいに。
唯は再び前髪を下ろし、眼鏡をかけ、ぽかんとしている私を不思議そうに見ていた。
「……なんで、顔隠してるの?」
やっとのことで口から出たのは、そんな言葉だった。もっとこう、可愛いとか美しいとか、心が叫んでることは他にたくさんあるのに。なんでこんなのが出ちゃったんだ!
「……学校で目立ちたくないから。あと、私、この顔好きじゃないから……」
なるほど。たしかに目立ちたくないのはわかる。
唯が顔を出して学校に行ってたら、連日大騒ぎだろう。毎日告白されるに違いない。
でも。
「なんで、好きじゃないの?」
「……それは、ちょっと……」
「そっか。私は好きだけどね。唯の顔」
かなり深いわけがありそうだ。
きっとまだ、私はその話を聞けるだけの仲にはなれていないんだろう。
「もっと私が唯と仲良くなったら、そしたらいつか教えてくれる?」
「……(コクン)」
私がそう言うと、唯は無言で首を縦に振った。
なるほど、仲良くなるための理由がまたできた。
こんな可愛い顔が嫌いなんて、絶対にそこらのミステリー小説以上のミステリーがあるはずだ。私はその謎をいつか、解明してみせる。というか聞き出してみせる!
でも正直、これ以上仲良くなる手段は思いつかない。だからもう、持久戦に入るしかない。
持久戦とは、その名の通り毎日毎日少しずつ仲良くなっていくんだ。
いや、もはやこれら仲を深めるというか、信用を深めると言った感じだ。
3日前に友達になった人と、3年前から友達である人とでは、同じ友達でも仲良し度はかなり差があるし、信用度も3年前の友達の方が断然高い。
つまりそういうことだ。うん。
幸いにして席はとなり。話す機会はたくさんあるし、一緒にいる時間だって必然的に増える。
最初は最悪だと思っていた座席だったが、今では神様に感謝しなくてはならない。
隣の席にしてくれて、ありがとうございます、と。
唯がうとうとしてきたため、布団を敷き寝ることにした。私だけベッドというのも居心地が悪いので私も布団で寝ることにした。
唯におやすみ、というと唯もまた同じく返してくれた。
暗い部屋の布団の中、私は1人考えごとをしていた。
唯は自分の顔が嫌いだと、学校で目立ちたく無いのだと言っていた。
そして、学校での唯の評価は無口でクール。
友達だって恐らくいなかったのだろう。先ほど交換したLINKがそれを証明している。
あんな可愛い子が私と友達。
私だけが、唯と友達。
あの可愛い顔を、私だけが知っている。
あの可愛い声も、私だけが。
なんだか私は、連絡先を交換した時のような、いやそれ以上の優越感のようなものを覚えた。
それと同時に、これからも私だけが友達で、私だけが唯を知っていたい。そんな変な感情もまた、私の中に生まれたのだった。
そんなことを考えているうちに、段々と意識がふわふわして夢現となって。
私は静かに瞼を下ろした。
けど、なぜかわからないけど、間近で見た唯の顔が変に思い出されてなかなか寝付けなかったのは唯には絶対秘密だ。
ちなみに唯は、おやすみって言ってから3秒で寝てました。
不定期に更新します。
最近は姫子視点ばかり書いてますが、これからも恐らく姫子視点が多くなると思います。
次回は唯視点ですけどね!
唯視点はちょくちょく入れます。
評価・感想お待ちしてます。




