表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のとなりに姫がきた  作者: さへ
第1章
10/32

ショッピング

ブクマ21件、ポイント99pt!ありがとうございます。

読んでもらえて嬉しいです。

 9月14日の土曜日。天気は晴れ。いい天気です。

 今日は赤城さんと遊ぶ日であります。正直かなり緊張しております。

 昨晩もなかなか寝付けなかったし、今だって緊張で口調が……


 まず赤城さんがきてくれるかどうかが心配だ。誘った時はうんって言ってたけど、赤城さんいつもうんしか言わないから。

 もしかしたらいつも話聞いてなくて適当にうんって言ってるんじゃないか。だから誘ったのも適当に聞き流してて適当にうんって言ったんじゃないかって、すごく不安になってしまう。


 待ち合わせ時間は朝の10時で、場所は駅だ。

 改札前って言ってあるし、この駅は改札が一つしかないから大丈夫なはずだけど。

 もう9時50分。あと10分で待ち合わせ時間だ。

 ちなみに私は1時間前からここで待っている。

 もちろん今までそんなに早くきたことはない。今回それほど緊張してるってことだ。

 あと9分。秒にすると540秒。数字で見るとそこまで多くなさそうだけど、実際数えると結構長い。でも何か作業をしてると9分なんてあっという間だ。

 時間って不思議だ。捉え方によって――



「……おはようございます」


「はうわ!?」



 突然話しかけられたため乙女にあるまじき声が出てしまった……びくりした……。

 声をかけてきた主の方を向くと、なんとそこにはJKがいた。ほんとうに、JKがいた。

 だって、ほんとうにJKなんだもん。



「赤城さん、なんで制服なの……?」



 赤城さんは土曜日なのに、買い物行くだけなのに学校の制服を着てきた。

 ……もしかして、寝ぼけてたんだろうか?



「やっぱり変ですよね……」


「いや、別に変じゃないよ!」



 俯きながらそう言った赤城さんを慌ててフォローする。買い物に制服は若干変だけど、でも全然許容範囲内だ。世の中には夢の国に制服着てく人だって大勢いるんだから。


 それにしても、今の、赤城さんの初トークじゃ?今までうんしか言ってこなかった赤城さんの初音声では!?

 なんて貴重な……!あ、くそ、録音しておけばよかった!



「取り敢えず仕切り直して、おはよう! 赤城さん! 今日はよろしく!」


「……うん」



 あああああああああああ!

 録音しておけばよかったあああああ!






 突然ですが、わたくし白崎姫子、赤城さんの攻略方法見つけちゃいました。


 まず私は、今までの会話を省みて、さっきの会話と今までの会話の違いを見つけました。

 それはズバリ、私の話す内容!

 さっきの私は「なぜ制服なのか」と問いかけました。

 しかし!

 今までの私は同意を求めたり自分の近況を報告したり、目で見たり耳で聞いたりしたものをそのまま口に出したりしかしてませんでした!

 つまり、何が言いたいかというと。

「うん」では対応できない会話にすればいいのです。


 それを思いついた私は、早速電車の中で使ってみたのです。



「ねえねえ赤城さん、今日って何か買いたいものとかある?」


「……服、ですかね」


「服かー。赤城さんって白い服とか似合いそうだよね!」


「そうでしょうか……」


「絶対そうだよ! だからあとで買おうね!」


「……はい」



 よっしゃきたああ!赤城さんと会話しちゃった!

 誰も到達したことのない領域へと足を踏み入れてしまったあ!

 これはもう、私の勝ちといっても過言ではないでしょう。ふっふっふ……。


 そしてその後も私は色んな会話をした。好きな食べ物の話とか、動物の話とか。結構ありきたりな話だけど、それがすごい楽しくて、嬉しかった。

 でもひとつ気がかりなことが。


 私、赤城さんの名前知らない……。


 自分が名前を覚えられてないときは散々文句を言ったくせに、自分は覚えてないとか最悪な人間だ……。

 でも聞いてもいいだろうか。嫌われたりしないかな……。

 でも、さらに仲を深めるためには、名前呼びしかないと思うんだ。



「あの赤城さん、今更で悪いなーとは思うんだけどさ、名前、教えてくれない?」


「……唯」


「ゆいちゃん?」


「……うん、唯一の、唯。だけど、ちゃんはやめてほしいです」


「あ、ごめん! じゃあ唯って呼んでいい?」



 踏み込み過ぎだろうか。でも、唯ちゃんがだめなら唯さんか呼び捨てしかないと思う。

 でも、名前にさん付けはやだ。名前呼びになれてもさん付けなら苗字呼びと大して変わらない気がするから。


 赤城さんは数秒固まった後に、静かに首肯してくれた。

 やったあ!!これで更に仲良くなれる!

 私の予想というか、作戦でいくと、今日の帰りには連絡先を交換している予定だ。

 今日は本当に誘ってよかった。正直早すぎるかなとは思ったけど1日でこんなに仲良くなれるなんて。

 自称友達多いってのも結構伊達じゃないのかもしれない。


 唯、ユイ、ゆい。それにしてもいい名前だと思う。お父さんにもお母さんにも大事に可愛がられてそうだ。

 それに、顔だって絶対に唯って感じの顔だと思う。まだ1回しか、それにちょっと遠目からしか見れてないけど、絶対そうだと思う。

 今からでももう、その顔を見るのが楽しみになってきた。

 ふっふ、その顔を露わにする日も近いぞ、唯!






「唯ー、この服なんてどうかなー?」


「……可愛いと思います」


「だよねー! じゃあこれは?」


「……(フリフリ)」



 ショッピングが始まってからわかったのだが、唯は結構しっかり意見を言ってくれる。

 前の高校にいた時、友達と行ったり、妹と行ったりすると、どっちも可愛い、とか全部似合ってるみたいなことしか言われなくて結構買うのに迷うことがあった。

 でも、その点唯は可か不可かをしっかり伝えてくれる。

 こちらも人は見た目によらず、といったところか。



「唯はこれなんかいいんじゃない?」


「……それは私より、白崎さんの方が似合うと思います」


「そっかなー?」


「………………姫子」


「っ!!??」



 心臓が、跳ねた。

 突然名前で、それも呼び捨てで呼ばれたもんだからめっちゃ驚いてしまった。

 それに、唯って結構声がイイから、なんか妙に色気があるというか、なんというか、少しドキッとした。



「え!? なに、唯! なに、もっかい言って!」


「……やだ、無理。ぜったい無理」



 めっちゃ拒否された。やはりまだ壁は厚いようです。

 でも正直、もう壁は1枚くらいしかないと思う。多分2枚は既に崩壊したと思う。

 私の蹴りとタックルによって。



「えー、まあもっと仲良くなったら、ぜひ呼び捨てにしてね!」


「……頑張ります」



 ぜひ頑張っていただきたいところです。






 帰りの電車の中、私は肩に人肌を感じています。隣の唯は疲れてしまったのだろう。私の肩を枕にして寝てしまった。結構歩いたし、たくさん買っちゃったもんな。

 全然重くないからいいんだけど、あと1駅で降りることになる。けっこうすやすや眠ってるので、起こすのがなんだか申し訳なくなる。


 ふと、あることを思いついた。

 思いついてしまった。

 今ならまた、唯の顔を見れてしまうのでは?

 あの夕陽に染まったあの顔をもう一度――


 と、手が前髪にかかったところで私は急いで手を引っ込めた。

 だめだ、だめだ。しっかり仲良くなってから、自分の意思で見せてもらうんだから。こんな風にしたってだめだ。こんなのは負けと同義だ。私は邪な自分を戒めた。





「雨が、降ってる……」



 唯を起こし電車から降りて、改札を抜けると、外は雨だった。しかもけっこう強めの雨。

 もちろん私も唯も傘なんて持ってきていない。手にあるのは大量の買い物袋だけだ。



「どうしよう……」



 親を呼ぼう。そう思い電話に手を伸ばした所で思い出した。

 連絡先交換してない!



「ねえ唯! 連絡先、交換しようよ!」


「……ごめんなさい、私、チャットのアプリやってないんです」


「ええ!」



 まじか!今時これをやってない高校生なんていたのか。

 全国探してもやってないのなんて唯しかいないんじゃないだろうか。それくらい現代高校生にとってLINKは必要なのに。



「そっかー、じゃあ入れといてよ。また今度交換しようね」


「……わかりました」



 よっしゃー!連絡先交換の予定ゲット!

 着々と仲良くなっている気がする。後は名前で呼んでもらえれば完璧だと思うんだけど。



「あ、そういえば、唯はこっからどうするの?」


「……走ります」


「ええ! 風邪引いちゃうよ! いいよ、私が送ってってあげるから」


「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


「おっけー!」



 そういって私は携帯でお母さんの連絡先を開いて――



「ねえ唯、この後うちにこない?」


「……うち?」


「私の家! 夕飯くらい食べてこうよ! あ、もしかして家族待ってたりする?」


「……いえ、今日は1人なので待ってる人はいないですけど……、悪いですよ、そんなの」


「いいのいいの! ね? 私の家、誰も迷惑なんて思わないし、男もお父さんしかいないから大丈夫だよ!」


「でも……」



 私はお母さんの電話番号を押して電話をかけた。



「もしもしお母さん? 今日友達泊まりきてもいい? ……うん、うん。わかった! あと、今から駅迎えきてー。うん。うん。はーい。……唯! いいって!」


「でも……」


「もう、でも禁止! 今日うち泊まってかないなら車乗せてってあげないからね!」


「そんな……、……わかりました、お邪魔させて、いただきます」


「おっけーいー!!」



 そう言って唯は頭を下げた。かなり強引になってしまったけど、でもこれで連絡先も交換できるし、お泊まりとかめっちゃ仲良い証拠じゃん!

 というか今日、もしや唯の顔見れてしまうのでは……?

 やば!よく誘ったよ私!頭の回転いいぞ私!


 私は自分のことを褒め称えながら、そしてこの先のことに想いを馳せながら母の車を待った。

 ちなみに唯は、となりでなぜか恥ずかしそうにしていた。

不定期更新です。


評価・感想お待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ