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明日、世界のどこかでキミが笑う。  作者: 葵月さとい
第一章 美味しい出会い
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②映えな料理

 ペーガソスのインフルエンサーこと、ルカの最近気になっているもの。

 それは「()える料理」。


「インスタ()えするカフェとかスウィーツは沢山あるし、見るけど、お皿一枚で()える美味しい料理ってあまり出会えないから……」


 そんなルカの要望が叶えられているだろう料理が、五人の前にそれぞれ並べられていく。

 保温のためなのか、それとも演出のためなのか、ディッシュカバーで覆われていて料理の全貌はまだ分からない。


(「()え」を意識してるんだから、まず見た目についてのコメント大事だよな!)


 番組を盛り上げる意味でも、こういう時のリアクションは特に注目されるだろう。

 ミズキは心構えをしておくことにする。


「じゃあ「せーのっ!」で一斉(いっせい)に開けような。いいかぁ〜? せぇーーのっ!」


 トウヤの合図に合わせて、ミズキ達は目の前のディッシュカバーを持ち上げた。


 ――瞳にとびこんでくる色彩。

 ――鼻腔をつく、甘さと、爽やかさと、スパイスの香り。

  

 最初に声を上げたのはレイジだ。


「うまそぉ〜。卵、トロトロ〜」


 楕円の真っ白な大きな皿の上。

 まず目についたのは、チーズが絡んだ半熟のオムライス。


(半熟具合が絶妙――!)


 ちゃんとボリュームもある。

 見た目だけじゃなくて、食べ盛りのお腹も満たしてくれるメニューだ。


「空腹を刺激するいい匂いだね。俺……カレー好きなんだ」


 アイトが目の前の皿を覗きながら、ゴクリと(つば)を飲み下した。

 とろとろオムライスの底を浸すように、カレーが盛り付けらている。

 しかもこれはスープカレーだ。


(この香り。はじめてかも……)


 香辛料や、ハーブといった類だろうが、今までに嗅いだことのない、なんとも刺激的なカレーの香りが食欲を誘う。

 

「カメラさんカメラさん、こっち! もっと寄れる? ほら……すっごく映えてません⁉︎」


 トウヤがお皿を傾けて見せる。


「だってこんなに長くて、きれいなアスパラ見たことないって!」


 オムライスを中心とした皿には、蒸し野菜が添えられていた。

 (つや)やのある緑や白のアスパラガスが、とろとろオムレツの黄色によく映えている。もちろんアスパラガスだけじゃなく、小さなジャガイモや、葉っぱのついた白カブ、赤や黄色のパプリカに、星型にくり抜かれた人参。

 それから――


「これって、もしかしてシャーベット⁉︎」


 ミズキは蒸し野菜の傍らに添えられているココットを持ち上げて言った。

 キラキラした綿のような氷が盛り付けられていて、かすかに林檎(リンゴ)の甘酸っぱい香り。

 てっぺんに乗っかっているミントの葉が、さらに清涼感を出している。


「それに……僕たちの「名前」……」


 ルカが顔を(ほころ)ばせて言った。


(うん。――気づいてた……)


 ミズキは両手で楕円(だえん)の皿に触れる。

 この皿もちょっと変わっている……。幅広いふちに、底の深い皿だ。

 焼物の器のように、表面に凹凸(おうとつ)があって手のひらに吸い付くように馴染んで「あったかみ」を感じる。

 ミズキは指で皿のふちをなぞった。

 そこには茶色のソースで『Pēgasos(ペーガソス)』と文字が綴られていた。

 流れるような文字すら料理の一部のように調和している。

 そして『Pēgasos』の文字の終わりに添えられていたのは、ホンモノの四つ葉のクローバー。


「見た目だけじゃなくて、心まであったかくなるね……」

「そうだな……。良かったなルカ」


 幸運をあらわす四つ葉のクローバー。

 

(――まるで、誰かが俺たちの幸せを願ってくれてるようだ……なんてな)


 オムライスはよくあるメニューのひとつだ。

 だけどこの文字があるだけで、この料理はミズキ達の為だけに用意されたのだと分かる。

 味はどうだろう……。

 見た目だけで、既に美味しい。

 ミズキはスプーンを手に取った。


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