①「気になる☆ペーガソス」
「んじゃ、ルカルカのお待ちかねのこのコーナーいっくよ〜。『気になる☆ペーガソス』〜!!」
ヒューとレイジが指笛を吹いた。ミズキ達も拍手をする。
ルカは腕にずっと抱いていたヌイグルミ……「ペーガくん」を、いったん目の前のテーブルに座らせ、ワクワクした瞳で手を叩いていた。
拍手が収まるとトウヤの説明が始まる。
「気になる☆ペーガソスは、ペーガソスのメンバーが最近「気になっている話題」や「気になるアイテム」をピックアップし、紹介していくコーナーでーす。先週はミズキのリクエスト『ドローンで撮影がしたい!』だったけど、面白かったよな〜」
「すっっごかった!! ご協力頂いた企業様、本当に有難うございました!!」
先週の収録の時を思い返しながら、ミズキは頭を下げる。
そう……先週はミズキが気になっていたドローンについて、実際に発売元である企業の販促担当者が来てくれて色々と教えてもらった。
しかもスタジオの中で、実際に操作をしながらだったので、収録中だというのも忘れて夢中になってしまった。
「しかもさ……協力してくれた企業様が「もし良かったらどうぞ」ってプレゼントしてくれてさ……」
「えっ⁉︎ ……ドローンをっ⁉︎」
「そうだよ! すっげー嬉しかった! ……実際に自分一人で色々試してみたけど、ほんとに丈夫だし高性能! まじでオススメ!!」
ミズキ自身、まさかドローン本体を貰えるとは思ってなかった。
驚いたのはそれだけではない……。
もともと番組自体、お金の掛かる企画はいつも省かれてきた。
今まで実現してきた企画ほとんどは、企業に直接交渉し、番組のなかで宣伝をするかわりに必要な機材や商品を無償でリースできたものだけ――。
国民的な芸能人ならまだしも、ペーガソスは底辺中の底辺アイドルだ。
なのに、今回の企画はスムーズに決まったらしい。
(それに、ディスられても構わないっていう……あの姿勢がね……)
先週、ミズキが一番印象に残ったこと。
それはドローンの商品説明のために快く番組に出てくれた、三十代半ばくらいの販促担当の男と、収録前に交わした言葉だ。
『――宣伝はお願いしたいんですけど、それよりもリアルな声が欲しいんです。気になった点や、使いづらいと感じたことを率直にお聞かせください』
「わかりました。では、収録が終わったらお伝えさせていただきますね」
『いえ……収録中にで構いませんよ』
「収録中に、ですか……?」
思わず、ミズキは訊ねてしまった。
すると青年は微笑んで頷いた。
『ええ勿論です。頂いた声は、我が社にとっては今後の道しるべになりますから。貴方たちのような若者がメディアで発言する事で、同調した消費者の発言がネット上にも少なからず載っかってくるでしょうし……。なので、できれば盛大にディスって頂けると、』
「いえいえ、そんなそんなっ……」
『はは。確かにスポンサーの顔色を窺う気持ちも判りますが、我々はよりリアルな声を求めているので……そこを是非! なんとかっお願いします!!』
「……わかりました。そこまで言うなら、思いついたことは声に出すように意識してみます!」
ミズキはそう答えたが、結果として収録では「ちょーすげえ!」とか、「俺これ欲しい!」しか声に出してなかった気がする……。
でも、あの男とした会話は何故だか心に留まって、ミズキを思考させる。
――もしもこれから先、ペーガソスが盛大にディスられたとして、それを前向きに受け止められるだろうか。
(今の俺は、文句しか言えないかもしれない)
仕方ないだろ、とか、お前に何がわかるんだ、とか、こっちだって一生懸命にやってんだよ、とか……「じゃあ、どうすれば良かったんだよ?」とか……。
そんな風にしか思えない気がする。
あの男のように、社会人としての経験を積めば、そう思えるようになるのだろうか。
所詮、ミズキはまだ社会のことをよく知らないまま、事務所やトウヤの采配のもと守られて仕事をしている。
(なら俺もいつか、誰かを守るような日が来るんだろうか……)
隣でルカが笑っている。
生まれながらに、どうしようもない事情を抱えてしまったルカ。ペーガソスのなかで、一番に守らなければいけないのは「彼」かもしれない。
ルカはふたたび、ペーガくんのヌイグルミを抱き寄せるとカメラ向かって言う。
「今日は僕のリクエスト聞いてくれて、ありがと……。僕のリクエストは『映える料理』だよ」
――映え……。ルカらしい……。
スタジオの入り口が開いて、スタッフがワゴンを押してやってくるのが見えた。
読んで頂き有難うございます!
ブクマ、評価してくださった方、本当に有難うございます!
次回。
「映える料理」