⑤ルカ
「テレビの前のみんなも準備はいいかなぁ? 「せーの」で、いくからねぇ〜」
ルカを紹介するときには決まりごとがあった。
トウヤの掛け声に続いて、ミズキ達は思い切り叫ぶ。
「――せーのっ!」
『ルカルカ〜〜〜っ!!』
「はーい。呼んでくれてありがと……」
――茅鳥ルカ。
愛称、ルカルカ。
ルカは抱きしめているヌイグルミの手をつかんで、ヒラヒラと振る。
ちなみにこのヌイグルミ。
名前は「ペーガくん」と言ってルカのお手製である。――【ペーガソス】のマスコットキャラクターで、真っ白なクルクル毛糸で覆われたボディ。背中には空を翔ける「天馬」を象徴した翼が付いている。
ペーガくんをデザインしたのもルカだった。
「ボク、今日の収録楽しみだったんだ」
そう言ったルカは、はにかむような笑顔を見せた。
ちらりと八重歯がのぞき、中性的な可愛らしさが垣間見える。
レイジは王子様的な容姿で注目されているが、ルカにはルカで熱狂的なファンがいた。
――女を思わせる顔立ち。
日焼けしてない真っ白な肌に、瞳を強調したメイク。
格好だってパンクロックがベースだから、そういうのが好きな子にはウケている。
(それに、この脱力感満載なキャラだしな〜)
決して不真面目なわけではない。
ルカだからこそ、どこか気怠げな口調や態度が逆に面白さとなっていた。
普段からルカはこんな感じだった。
生命力が欠如したような雰囲気と、それとは逆に強さを押し出すようなファッション。それは……どこかチグハグにも映った。
さらにルカには複雑な事情があった。
――身体の性別は「女」。しかし心の性別は「男」だという事情だ。
ペーガソスのメンバーと、事務所は周知している。
ただ公にはしていなかった――。
ペーガソス結成前、はじめてメンバー同士の顔合わせがあった。
ルカの抱えている事情をマネージャーの賢太郎が説明し、最後にこう言った。
『――もし誰か一人でも異議を唱えるようなら、ルカくん以外の4人でデビューということになるけど?』
その時のルカは可哀想なくらい、縮こまっていた。
ミズキはただただ呆気にとられていたが、その横にいたレイジがすぐに声を上げる。
『オレはぁ〜、歌えるなら誰とでもいいぜ〜』
その後すぐにアイトが『俺も。逆に俺なんかが居て申し訳無い……』と、苦笑いを浮かべながら言った。
ミズキはすぐに言葉が出なかった。
――嫌なわけじゃない。
ただルカのことを全く知らない自分が、何て声を掛けてあげたらいいか分からなかった。
だって所在なさげにしているルカの様子から、これまで色々と辛いことがあったのが想像できたから。何か元気づける言葉を言ってあげたかった。
大丈夫だよ……と。
『俺は……、ルカが一緒で良いと思う……』
口をついて出てきたのは、簡単な言葉だった。
するとトウヤも、すんなり頷いて冷静に語り始める。
『ルカはこのグループに必要だと俺も思う。俺たちは誰一人キャラが被ってないのがいい。レイジは美形で歌が上手いし、アイトはミステリアスだ。ミズキはダンスに魅力があって元気なイメージがあるしね。俺は……そうだな、お茶の間にウケるキャラづくりをするよ。だからルカ――君は、君という個性をここで存分に発揮してくれればいい』
そして……ルカが顔をあげた。
その真っ黒な瞳には強い輝きが見てとれた。
『じゃあ、決まりということで。ルカくんのことは事務所でも全力でサポートしていくよ! ……弱小だけどね……ハハ……』
賢太郎の言葉は頼りなかったけれど、不思議と不安はなかった。
「守らなければ」と思う共通のものが出来たことと、一人じゃないということが力を与えてくれている気がした。
――ルカは今、生き生きして見える。
ルカが笑ってくれているだけで、ミズキ達は和むのだ。
「今日のコーナー楽しみだったんだ。……ね、はやく、次いこっ!」
ペーガくんを抱きしめたルカは、声を弾ませて言った。
プロローグ終了しました。
ひとつひとつが短くて、更新も遅いなか、
ここまで読んでくださり有難うございます!