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明日、世界のどこかでキミが笑う。  作者: 葵月さとい
プロローグ 【ペーガソス】
5/43

⑤ルカ

 

「テレビの前のみんなも準備はいいかなぁ? 「せーの」で、いくからねぇ〜」


 ルカを紹介するときには決まりごとがあった。

 トウヤの掛け声に続いて、ミズキ達は思い切り叫ぶ。


「――せーのっ!」


『ルカルカ〜〜〜っ!!』


「はーい。呼んでくれてありがと……」


 ――茅鳥(ちどり)ルカ。

 愛称、ルカルカ。


 ルカは抱きしめているヌイグルミの手をつかんで、ヒラヒラと振る。

 ちなみにこのヌイグルミ。

 名前は「ペーガくん」と言ってルカのお手製である。――【ペーガソス】のマスコットキャラクターで、真っ白なクルクル毛糸で覆われたボディ。背中には空を()ける「天馬(てんば)」を象徴した翼が付いている。

 ペーガくんをデザインしたのもルカだった。


「ボク、今日の収録楽しみだったんだ」


 そう言ったルカは、はにかむような笑顔を見せた。

 ちらりと八重歯(やえば)がのぞき、中性的な可愛らしさが垣間見える。

 レイジは王子様的な容姿で注目されているが、ルカにはルカで熱狂的なファンがいた。

 ――女を思わせる顔立ち。

 日焼けしてない真っ白な肌に、瞳を強調したメイク。

 格好だってパンクロックがベースだから、そういうのが好きな子にはウケている。


(それに、この脱力感満載なキャラだしな〜)


 決して不真面目なわけではない。

 ルカだからこそ、どこか気怠げな口調や態度が逆に面白さとなっていた。

 普段からルカはこんな感じだった。

 生命力が欠如したような雰囲気と、それとは逆に強さを押し出すようなファッション。それは……どこかチグハグにも映った。

 さらにルカには複雑な事情があった。

 ――身体の性別は「女」。しかし心の性別は「男」だという事情だ。

 ペーガソスのメンバーと、事務所は周知している。

 ただ(おおやけ)にはしていなかった――。


 ペーガソス結成前、はじめてメンバー同士の顔合わせがあった。

 ルカの抱えている事情をマネージャーの賢太郎(けんたろう)が説明し、最後にこう言った。


『――もし誰か一人でも異議を唱えるようなら、ルカくん以外の4人でデビューということになるけど?』


 その時のルカは可哀想なくらい、縮こまっていた。

 ミズキはただただ呆気にとられていたが、その横にいたレイジがすぐに声を上げる。


『オレはぁ〜、歌えるなら誰とでもいいぜ〜』


 その後すぐにアイトが『俺も。逆に俺なんかが居て申し訳無い……』と、苦笑いを浮かべながら言った。

 ミズキはすぐに言葉が出なかった。

 ――嫌なわけじゃない。

 ただルカのことを全く知らない自分が、何て声を掛けてあげたらいいか分からなかった。

 だって所在なさげにしているルカの様子から、これまで色々と辛いことがあったのが想像できたから。何か元気づける言葉を言ってあげたかった。

 大丈夫だよ……と。


『俺は……、ルカが一緒で良いと思う……』


 口をついて出てきたのは、簡単な言葉だった。

 するとトウヤも、すんなり頷いて冷静に語り始める。


『ルカはこのグループに必要だと俺も思う。俺たちは誰一人キャラが(かぶ)ってないのがいい。レイジは美形で歌が上手いし、アイトはミステリアスだ。ミズキはダンスに魅力があって元気なイメージがあるしね。俺は……そうだな、お茶の間にウケるキャラづくりをするよ。だからルカ――君は、君という個性をここで存分に発揮してくれればいい』


 そして……ルカが顔をあげた。

 その真っ黒な瞳には強い輝きが見てとれた。


『じゃあ、決まりということで。ルカくんのことは事務所でも全力でサポートしていくよ! ……弱小だけどね……ハハ……』


 賢太郎の言葉は頼りなかったけれど、不思議と不安はなかった。

「守らなければ」と思う共通のものが出来たことと、一人じゃないということが力を与えてくれている気がした。


 ――ルカは今、生き生きして見える。

 ルカが笑ってくれているだけで、ミズキ達は和むのだ。

 



「今日のコーナー楽しみだったんだ。……ね、はやく、次いこっ!」


 ペーガくんを抱きしめたルカは、声を弾ませて言った。



プロローグ終了しました。


ひとつひとつが短くて、更新も遅いなか、

ここまで読んでくださり有難うございます!



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