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明日、世界のどこかでキミが笑う。  作者: 葵月さとい
プロローグ 【ペーガソス】
4/43

④ミズキ

 次はミズキの番がやってきた。

 もともと喋ることは嫌いじゃないし、WEB番組の仕事も気にいっているから、他のメンバーに較べてリラックスして臨めている。


「はい! 最近は料理にハマってる川鵜(かわう)ミズキです! みんなのオススメのレシピあったら教えてね〜。今日もよろしく〜!」


 ヒラヒラと手を振ったあと、カメラが近づいてきたタイミングで――アイドルスマイル!


(よし! きまった――!)


 おお〜すげ〜、と他のメンバーがパチパチとまばらな拍手を送ってくれる。

 すかさずトウヤが、トークを繋いできた。


「ミズキって料理うまいよな。……ほら地方ロケの時、俺が風邪引いちゃってさ、お(かゆ)つくってきてくれたじゃん?」

「よく、覚えてるなぁ」

「だって、美味(うま)かったんだもん。あったかくて優しい味がして、すげえ胃に染みた……」

「うわ〜恥ずいよ〜。やめてやめて」


 顔面が熱っぽくなって、ミズキは両手で顔を覆う。


(あんな適当な……料理とも言えないようなモン)


「お粥」ってトウヤは言ったけど、あれは即席の「ご飯汁」のようなものだ。とにかく胃に流し込めればいいだけの代物。


(今思えば、もっと()()()()があったのにな)


 確かあれは、デビュー当時。

 地方でのプロモーションを終えた深夜。もともと風邪っぴきだったトウヤが、本格的に体調を崩して、ホテルで寝込んでしまった時のことだ。


 病院に連れて行こうとしたが、どうやらトウヤは病院嫌いのようで、ベッドの上から(かたく)なに動こうとしない。

 途方に暮れたペーガソスのメンバーは「とにかく薬を飲ませよう」と決めた。薬は丁度アイトが持っていた。


「薬を飲ませるのは良いけど、何かその前に食べないと。トウヤ、食欲は?」


 ベッドの端に座りアイトは訊くが、トウヤはただ首を振るばかり……。

 仕方ないな、とミズキは立ち上がった。


「俺、何か食べやすいもん買ってくるよ」

「ミズキだけじゃ大変……ボクもついてく……」

「おう。じゃあ俺とルカが買い出しで、レイジとアイトは、トウヤ見てて。あ、ホテルに製氷機あると思うから、頭冷やしてあげて」


 その後、ミズキとルカはホテルの近くにあった24時間営業のスーパーに駆け込んだ。

 食べやすそうなヨーグルトやゼリーをカゴに入れていく。


「ね……レトルトのお粥って不味いよね?」


 棚を見上げながら、渋い顔をしてルカが言った。


「確かにな。あっためても、なんつうかプラスチックの味するもんな」

「うん。あ……お粥のこと考えてたら、水炊きとか雑炊が食べたくなっちゃった……」

「はは。夜食になんか買ってこうぜ」


 笑いながら答えたミズキは、ふと「雑炊(ぞうすい)」というワードで(ひらめ)く。

 ホテルに戻ると、部屋に備えられているマグカップに、海苔をはずした「梅おにぎり」を入れてお湯を注ぐ。ほどよく(ほぐ)したあと、電子レンジでご飯がとろっとするまで温めた。


(とにかく胃に流しこめれば、味はどうでも良いよな)


 レトルトのお粥とさほど変わらないかもしれないけど、これなら若干の手作り感はあるし、味もついてるから、まあ……食べられるだろう。


「ほらトウヤ。食欲ないの分かるけど、一口でいいから飲みな?」

「……ん」


 皆に迷惑をかけていることに、リーダーとして罪悪感があるのか、トウヤは素直に起き上がる。

 くちびるを突き出すようにマグカップに口をつけると、ズズ……と吸った。


「……梅味」

「そうそう、おにぎりだからな」

「うまい」

「なら良かった。食べられるぶん食べて、あとは薬飲もうな」


 無事にトウヤが薬を飲み終わり、ふたたびベッドに横になる。

 残りのメンバーは夜食を食べたあと、自分の部屋で寝ればいいのに、枕を持ってトウヤの部屋にくると床に転がって眠った。

 翌朝。

 回復したトウヤに「風邪がうつるだろ! アイドルとしての自覚が足りない!」と、お説教を受けたが、なんだか清々しい気分だったのを覚えている。




(まさか、今この話題になるなんてな……)


 トウヤのことだから「メンバー仲良し」アピールのために、この話を持ち出したのかもしれない。

 けれど、もし本当に「美味い」と思ってくれたのなら――


「今度は、もっと美味しいもの作ってやるからな!」


 顔を赤くしながら、ミズキは言った。


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