②愛されないのではなく……。
幼い頃、ミズキは遠く離れた両親のことが恋しくて仕方なかった。
両親もまた「早く日本でミズキと一緒に暮らしたい」と、いつも電話越しに語りかけてくれた。日本に帰ってきたらどこに行きたいかとミズキが問えば、「日本の夏祭りに行きたい」と母は返事をくれた。
――じゃあ、一緒に行こう!
赤提灯がぶら下がる神社の境内。
立ち並ぶ露店。浴衣姿で下駄の音を鳴らしながら一緒に歩いて、お腹が空いたらフランクフルトとか、焼きそばを買って食べればいい。お腹が空いてなかったら、ちょっと値段は高いけど綿飴を買って一緒に食べよう……。
ミズキは想像して、両親が帰る日をずっと心待ちにしていた。
叶わないまま、大人になってしまったけれど……。
「ミズキ、哀しいことがあったんだね」
ルカがぽつりと言った。
その台詞と一緒に、ミズキの瞳からも一粒の涙が落ちた。
「ごめん……俺、泣いたりして……馬鹿だな……」
手の甲で何度か目元を拭うが、すぐに視界はぼやけてしまう。
「そんなことない。馬鹿なんかじゃないよ……」
アイトが言った。声音は力強かった。
レイジは「そうだぜ。俺は馬鹿だけど、ミズキは馬鹿じゃないぞ」と何故か胸を張って言うから、ちょっと笑いが溢れた。
トウヤがミズキの頭をくしゃりと撫でた。手のひらの温かさが心地良かった。
ルカはルカで、お菓子を片手に持ったまま、隙あらばまたミズキの口に突っ込もうと様子を窺っているし……。
(もう、何なんだよ、こいつら……)
喧嘩はしないけど、別段仲が良いわけでもない仕事仲間が、揃いも揃ってミズキの事を気遣ってくれている。
「俺さ……」
もう完全にミズキの負けだった。
「……世の中には、願ってても上手くいかないことがあるって、ちゃんと解ってる……」
ミズキの漏らした言葉に、他の四人は深く頷いた。
「だから……父さんと母さんが離婚しても、仕方ないんだろうなって思う。何年も一緒にいりゃ、嫌気がさすことだってあるだろうし、子供がウザくなる事もあるかもしれない。――でもさ……っ」
心の中に溜まっていた澱を吐き出す。
これは両親から無視され続けた……ミズキの哀しみだ。
「だったら……ちゃんと言って欲しかった! 目を逸らすんじゃなくて、俺のこと信じてちゃんと言って欲しかった! ……他に大事な人ができたんだって……だから「もうお前とは一緒にいれない」んだって……、言……って……ほし……」
涙が頰を伝うたび、心が引っ掻かれたような痛み覚える。
(そうだよ……俺は、きっと、ずっと前から……)
「――愛されてなかったんだよな……」
言葉にした瞬間、足元が覚束なくなる。
真っ暗な谷底に放り出されたように、周りのもの全ての輪郭を見失った気がした。
けれど――
「ミズキ! そうじゃない!」
「ミズキ!」
「しっかりしろっ!」
「ミズキッ……!」
頭の上で声がした。
折り重なるように名前を呼ぶ……これは、仲間たちの声だ。
「ミズキは、愛されていないんじゃない!」
ひときわ大きく耳に響いた声。
……トウヤだ。
いつもペーガソスの事を一番に考えている頼もしいリーダー。
「――ミズキは愛される存在だよ。もし愛されないって思うんなら、それは……むこうの「愛する力」が足りなかっただけだ!」
「トウ……ヤ……」
見上げると、そこにはトウヤの瞳。
まるで「大丈夫だよ」と言ってくれるみたいに揺るぎのない強い輝き。
「…………って、顔近っ!」
視界いっぱいのトウヤのドアップ顔に、思わずツッコミを入れるミズキ。
それだけじゃない。
突然、全身を包む大きな質量。
「ちょっ……くる……苦し……いっ……!」
気付けばミズキは、仲間たちの熱い抱擁を受けていた。
どうやら、放り出された暗い谷底にも、こいつらは平気で飛び込んでくるらしい……。
(そういえば、俺たちは――Pegasus――だった……)
ペーガソス。
神話に出てくる、鳥の翼をもつ天馬。
必要な時に、必要な場所に、その両翼でどこにでも駆けつけることができる。
ミズキの心の暗闇のなかだって、軽やかに、何も傷つけることなく飛び回れるのだろう。
コン、コン……
「入るよー。……え? ……どういう状況⁉︎」
控え室に入ってきたペーガソスのマネージャー、賢太郎が驚いて目を丸くする。
無理もない。
現役アイドルとはいえ、男五人がおしくらまんじゅうのように抱き合っているのだから……。
「……賢ちゃん……ヘルプ……」
輪の中心からミズキは声を上げる。
(……俺……大丈夫かも……)
心の痛みが消えたわけではないけれど、今は仲間の存在を支えにして、ちゃんと歩いていこう……そうミズキは思った。
いつも、読んで頂き有難うございます!
ちょっと仕事が忙しくて余裕ないですが、ちまちま書いていきます。




