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一応、主人公のエクメアとリラの登場です
数十年目から解放されたままでもはや門としての機能を疑われるようになった門は現在ではこの国の出入り口だけでなく、観光名所として周辺の国々に知られている。
今まさに、その門をくぐった2人の男女を迎えたのは、人と人が絶えず動き続ける人の波といくつもの言語が飛び交い、隣に立つ人と会話をすることすら困難な雑多な喧騒だった。
「いつ来ても騒がしいなここは」
この人込みの中では数人は確実に同じような恰好をしているであろう旅装に身を包んだ男――エクメアはすこし引き攣った顔であたりを見回しながらぼやく。
「エクは人込み、ニガテだもんねー」
エクメアの小さなぼやきに律儀に返事を返す女――リラはのんびりとエクメアの後をついていく。
傍から2人を見れば、周りの人々よりも少しばかり小柄なリラが人込みをかき分けて進むエクメアを絶賛、盾にしているようにも見える。
そんな2人がいま現在、人込みをかき分け目指しているのはこの国の中央――魔法使い統括協会の本部であった。
「なんでいきなりこっちに呼ばれなきゃなんねーんだよ」
「まあ、師匠のことだし。何かしら頼み事でもあるんじゃない?」
「はぁ、あのババアの頼み事とか、絶対めんどくさいことじゃん」
「ふふッ、エクからしたら大抵のことがめんどくさいことでしょ?」
「まあ、それもそうなんだが」
2人は息の合った掛け合いをしながら、特に人の密度が高かった門周辺を抜け、ようやく人が並んで歩けるくらいに人の空いてきた街並みを歩く。
そんなどこにでもいるような2人であるが、その実、どちらも魔法使いである。ありきたりな旅装と丈夫そうな鞄を背負った2人の腰に下げられたただの小さな枝のようにも見える杖が何よりの証拠だ。
「で? 呼ばれた理由に心当たりはあるか、リラ?」
「んー、特にないんだよねー。強いて言えば、3年前の修理代?」
突然吹いた風に乱れた髪をリラは手串で直しながらエクメアの問いかけにのんびりと返事をしつつ小首をかしげる。
彼女は地味な旅装ではあるが整った顔立ちと小柄ながらバランスの取れた姿態、そして何よりも目立つのが日の光を浴びて煌めくようにも見える銀髪。そんな美少女然としたリラを道行く人々が男女問わず、思わず振り返って二度見をしてしまうのは仕方ないのかもしれない。
「あー、あれか」
「エクと師匠が無駄に暴れるから」
「俺は悪くない。全部悪いのはあのババア」
「もう……、またそうやって、師匠のせいにする」
もはや何度繰り返されてきたかわからない掛け合い。エクメアは隣を歩くリラと同じ歩幅でこの街に来た3年前にあった事件のことを思い出すのだった。