1 それぞれの選択
「ふう、やっと街に着いたか」
転移された場所から当てもなく走ってたら街が見えた
途中、魔物に襲われてる人達が居たけど全スルーした
大きな街だな
石畳やら馬車やらで文明の低さは否めないが、ここなら取りあえず暮らしていけるだろうか
「ちょっと貴方!」
ん?誰かに声をかけられた
誰だよ?学校の誰かか?
一番乗りだと思ったのにそうじゃなかったのか
「貴方!私がモンスターに襲われて助けを求めているのに無視したでしょ!!」
ああ、さっきの
確かに無視しましたけど?
「な、なんてひどいヤツ!そもそも貴方、『勇者』じゃないの?」
「酷いって言われても、俺は武器も何も持ってないんだよ?どうやって戦えって言うの?」
「で、でも、無視する事無いじゃない!」
「危ない場所に行くならそれなりの準備をするべきだよ、自分の不注意で魔物に襲われた挙句、その尻拭いを人にやらせようっての?酷いのはどっちだよ」
「う、うぐぐ」
「自己責任でしょ?逆に声をかけられたらこっちは気まずい思いをするんだよ?人の迷惑も考えろっての!!」
「な・・・」
何故か呆然とする女の子
良く見ると可愛いな
ん?街行く人が渋い顔でこっちを見つめてる
なにこの女、有名なクレーマーなの?
「し、信じられない」
「はあ?こっちのセリフだよこの野郎、初対面でいきなり助けてくれだぁ?しかも武器も持ってないのに死ねって言うのか?お前の為に命をかける義理が無いだろうが」
「うう・・・」
「危ない場所に行きたきゃ勝手に行けよ、でも自己責任で行け!助けてもらえるなんて甘い考えなら行くな!人を危険に晒すな!迷惑なんだよ!」
「ぐ、ううう・・・わ、解ったわよ」
わかりゃ良いんだよ、このビッチが
チョロインみたいな顔しやがって
どうせ助けでもしたらホイホイ付いて来るんだろ?
こっちは新生活が始まって、これからの事を考えなきゃいけないんだからそれどころじゃないんだよ
「な、なによ、『勇者様』なら、助けてくれたら家に泊まって貰おうと思ったのに・・・」
「お前な?そう言う事は早く言えよ、大丈夫だったか?痛いとこ無いか?」
「へ?きゅ、急に一体・・・」
「俺の名は優成、呼びにくかったらユーセーで良いからな」
「え?何?家に来ようとしているの?」
「お前な、思わせぶりな事言っといて今更無かった事にする気か?自分の言葉に責任持てよ」
「え?でも、助けてくれたらって・・・」
「人には無償の労働を期待するくせに、自分が助ける時は条件があるんだな」
「ぐっ・・・!」
「まったく、泊める気が無いなら最初から言わなきゃいいのに」
「わ、解ったわよ!泊めれば良いんでしょ!泊めれば!」
よし、取りあえずの宿確保
綺麗だと良いなあ
俺、羽毛布団じゃないと寝れないんだけど大丈夫?
「ついて来なさい!」
なんか荒れてるな
いや待て、彼女は魔物に襲われて混乱しているのだろう
酷い話だ、魔物ってヤツはこれだから
これから泊めてもらう俺の立場も考えろっての、魔物め
居心地悪かったらどうしてくれよう
その時は許さないぞ、魔物
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「そっちの建物を使いなさい、用があったらメイドを呼ぶと良いわ」
「・・・は~」
「じゃあね」プイッ
広大な土地、その中にそびえ立つ煌びやかな宮殿のような家
彼女はお金持ちだったみたい
俺は敷地内の隅っこにある、こじんまりとした建物を宛がわれた
木造だけど悪くないな
キッチンとリビングと寝室があるだけか
パッと見、庭師とかの使用人が住み込みで使うような家と言った感じ
広くは無いけど十分だ
水道は無いのか
家の横に小さな井戸があった
ここから汲めって事?
嫌だな、清潔なのかなこれ
虫とか浮いてないかな
ん?そういやメイドを呼べって言ってたな
今は特に用事無いけど、どこに居るんだ?
居るとしたらあの宮殿のような建物の中かな?
・・・こんな、辺鄙な場所まで来てくれるのだろうか
「お呼びでしょうか?」
「うわあ、びっくりした」
振り返ると、ショートカットの可愛いメイドさんが立っていた
「初めまして勇者様、ローズと申します」
「ああ、よろしく、今は別に用もないんだけど・・・」
「解りました、それでは失礼します」
ローズは帰って行った
良く解らんけど来てほしいと思ったら来るようだ
あ、さっきの女の名前、そう言えば聞いてないな
まったくこっちは自己紹介したのに失礼なヤツだったな
まあいいか
「さて、取りあえず寝るか」
この街まで走って来たし疲れた
色々調べるのは明日で良いや
優成はベッドに横になり、いびきをかき始めた
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僕の名前は直人
この度、学校ごと異世界に転移して来た・・・らしい
「みんな、落ち着いて、具合の悪い人は居ないかい?」
生徒会長であり、先生の信頼も厚い僕
顔もイケメンだ
「先導者のスキル・・・」
僕が神様から貰ったスキル
具体的にどういう物なのかは、まだ解らない
それよりも、今はこの状況を把握する事が先決だ
「直人君!美保が・・・」
「どうしたんだい?うわ!」
「おぶぉえ~~~~~」
げっ、学校一のブ・・・個性的な美保さんが吐いてしまった
精神的な物だろうか?
急におかしな世界に来て気分が悪くなった者は少なくない
何せ僕らは、過保護に育てられた少子化の世代
過酷な状況に慣れてない
「ねえ直人君、これから私達、どうすればいいの?」
「神様はどこに行ったんだろう?」
僕らをこの世界に呼び寄せ、漠然と世界を救ってくれとだけ言ってスキルを与え、神様は居なくなった
随分不親切と言うか・・・
「とにかくここに居ても仕方ない、どこか街を探そう」
直人とその一行、数十名は、優成とは反対の方向へ歩き出した
「真央さん、本当なの?男の人に襲われたと言うのは」
「飯島先生!本当なんです!」
「急に抱きつかれて・・・」
私は飯島恭子
2年F組の担任
「私、魅惑というスキルを貰っちゃったもんだから」
「じゃあ男と接触するだけで?」
「解りません・・・怖いです」
可愛い教え子が震えている
わ、私が守らないと
「取りあえず先生のコートを着て目立たないようにしなさい、フードも付いてるから」
「は、はい」
「でもどうしましょう?男と接触できないんじゃ街にも・・・」
「お困りのようですね、勇者様」
「きゃあ!・・・お、男?」
「あ・・・ひょっとして・・・エルフ?」
突然現れた謎の美男子
エルフ?
エルフってあの、ファンタジーに良く出て来る・・・
「なるほど、魅惑のスキルをお持ちですか」
「は、はい、貴方は何ともないですか?」
「ご安心ください、僕たちエルフには、魅惑のスキルは聞きません」
そうなの?
良く解らないけど・・・
「良かったら僕の村に来ませんか?人間の街は危険でしょう」
「え?」「・・・どうする?」「どのみちこのままじゃ・・・」
「私、このお兄さんに付いて行きたい・・・」
一人の生徒が顔を赤らめ、そうつぶやいた
いきなり見知らぬ人に付いて行くのは・・・
・・・でも、選択肢も無い
「・・・解りました、皆さん、この方を信じましょう」
「はい」「やったー」「エルフの村ってどんなとこかな?」
飯島先生と他、女生徒十数名は、エルフの村へと向かった
・・・ここは、この世界の交差点
異世界から来た者達が、四方八方へ散らばって行く
ある者は魔王を倒すために、またある者は自分の私利私欲の為
時に交わり、時に憎しみ合い
この世界に大きく影響を与える転移者達
彼らの旅はまだ始まったばかりである