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序章


「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。驕れる人も久しからず、ただ春の世の夢のごとし。猛き者も遂には滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ」

 

 平家物語、冒頭の一説。

 おそらく、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

 小学校の教科書にも掲載されているこの一説を十数年ぶりに思い出したのには、それなりの理由がある。



「ちょっと、なにボーっとしてるのよ」



 朱雀門を前に腰に手を当て、こちらを見据える幼女。

 赤みがかった髪が肩口で揺れ、大きな瞳が糸の様に細くなる。

 薄い唇は横に引き結ばされて不機嫌さを隠そうともしない。


「失礼しました。少しばかり考え事をしていまして」

「ふーん……」

 

 すらりと伸びた手足、はっきりとした目鼻立ちは少し大人びてみて見える。細身のデニムに黒いシャツという格好もそれを助長している。

 もう一人、ちんちくりんな方を知っている身としては、到底同い年とは思えない。

 俺の知る幼女はかなり小さい。並べたらさぞかし不機嫌になるだろうと思うに至り、少し笑ってしまった。


「女ね」

「はい?」

「他の女のことを考えていたでしょう? 人がせっかく案内をしてあげているのに」

「まさか、ご冗談を……」


 こうした勘の鋭さも驚かされる。

 比べるものではないが、あの子にも少しは備わってほしいものだ。


「平家物語の一節を思い出していました。千古の都に史跡の数々、日本人なら誰しも感慨を抱いてしまうものです」

「……いいわ、そういうことにしておいてあげる」

「ありがとうございます」

「じゃあ行きましょう」


 彼女は朱膳寺千景(しゅぜんじちかげ)

 現在のご主人様である。


「平蔵、どうしたの? 貴方が市内を見たいっていうから案内してあげてるのよ」

「はい、只今」


 心の中で嘆息しながら後に続く。

 帝都を離れ、京都へ異動になってから早一週間。

 こうなるには複雑な前置きがあった。



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