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四九話



「手薄な訳がないか」

 

 鷹司の指示により、操舵室へ向かってみたものの、近づくほどに警備は厳重になる。

 今は排気用のダクトの中から様子を伺っている。我ながら鉄板のような位置取り。

 

 自動小銃、いわゆるアサルトライフルを携帯した船員がチームを作って警戒にあたっている。

 勿論、自動小銃は怖くない。

 裂海には散々撃たれたし、いくら訓練を受けた連中がいても物の数ではない。が、大きな不確定要素がある。


「二人いたら厄介だな」

 今現在、大陸版の覚めたものというのが傷男、虎だけであるという確証がない。

 下手に仕掛けてしっぺ返しを食らうとそこで計画が終わってしまう。


「かといって、機関室と船尾が手薄な理由がない」

 操舵室がダメなら機関室でエンジンそのものを止める。

 それもダメなら船尾でスクリューを壊す。どれも一定のリスクがある。


「一人だとどうにも手が足りない。定石でいえば囮か陽動がほしいところだ」

 もしくは、人手を動かさざるを得ない状況を作る。

「……考えろ。こういうのは得意分野のはずだ」


 少ない材料、危機的な状況、頼れるものは自分の知識と度胸だけ。


「基本に戻ろう。サラリーマンの基本は相手の意表を突くべし」

 ダクトを抜け出し備え付けの消火器をいくつか回収、操舵室の近くで作動させる。

 辺りが真っ白い煙で塗りつぶされ、目まで痛くなる。


「     !」

「   !」


 警備をしている連中からも苦悶の声があがるが、警報は鳴らない。

「えほっ、うへっ、目が痛いな。でも、思った通りか」

 

 船といわず建物にはほぼ全て火災に備えての煙感知器がついている。

 が、動作が二種類あることはあまり知られていない。

 一つは従来の熱感知型、もう一つは廉価版の煙感知型。

 高性能なのは前者で間違いない。が一つだけ欠点がある。それがこの熱を伴わない煙には反応しないことだ。


「はぁー、ふうっ!」

 

 大きく息を吸い込み、壁伝いに走る。

 途中でせき込む船員たちを殴り倒すのも忘れない。

 何人かをはり倒しながら一直線に操舵室の扉を蹴破る。


「    !」

「        !」

 乗り込み、発砲の前に昏倒させる。

軍人相手とはいえ、このくらいなら俺にもできる、と思ったのもつかの間、警報を鳴らされてしまった。

「早めに済ますしかないか」

 ぐずぐずしていては団体が押し寄せてきてしまう。

 

「まずは航路の修正だな」


 銃を握りつぶしてから、船の舵をゆっくりと回す。

 急に変えれば気付かれて修正されてしまう。

 焦らずにゆっくり、円を描く舵を傾けて一定の角度で回し続ける。


「これで、たぶん回頭はできたはずだ。あとは、位置と海図が分かれば……」

 位置はすぐに分かった。

 現代の船はほぼGPSが完備されている。

 これなしでの航海はあり得ない。小型の漁船でさえ積んでいるほどだ。


「まだ日本の領海内か。出航してから三時間、携帯もつながったくらいだから案外進まないもんだな」


 モニターには海図とこの船の位置を示すアイコンがある。

 船はまだ佐渡島の横を過ぎ、能登半島との中間あたりにいた。

 携帯を取り出し、鷹司へコールする。


『どうだ?』

「現在は経度三八.一六九九一〇 緯度一三七.二八一三五二付近を航行中です」

『分かった。まだ近い位置にいるな。よし、佐渡に駐留する帝国空軍から偵察を飛ばしてもらう。優呼も今新潟に向けて進行中だ。あと三〇分ほどで到達する』


「三〇分? そんなに早くですか?」

『横須賀からF-15に乗せてもらったらしい。燃料費はお前の給料から天引きだ』

「……ご厚意、痛み入ります」

 

 俺一人のために戦闘機まで動かすとは大盤振る舞いもいいところだ。

 大丈夫、大丈夫だ。

 戻ると誓ったのだから、実現させてみせる。

 胸を叩き、自分を鼓舞する。

 こんなのは窮地ではない、敵を一網打尽にできるチャンスだと思えばいい。


『……さかき』

 間が空いたかと思ったら殿下の声がする。

「暗示は大丈夫ですか? 病院へ行った方がいいですよ?」


 俺よりも自分の心配をして欲しい。


『……あの』

「どうかしましたか?」

『……だいじょうぶ、ですか?』

「護身刀もありますし、何より敵はこちらの情報を持っていません。楽勝ですよ。殿下こそ大丈夫……」


 話している途中で目眩に襲われ、ケータイを落としてしまう。


「な、んだ? これ」

 世界が回るような、急激な目眩。それに吐き気。


『……さかき、さかき!』


 ケータイからは殿下の慌てた声が聞こえる。

 音だけを頼りに拾い、耳に当てる。


「大丈夫、ですよ。少し、船が揺れただけです」

『……うそです』

「少し忙し、くなり、そうです。切りますよ」


 話しているのも億劫になり、通話を切る。

 床に座り込み、深呼吸をしていると少し楽になった。


「遅行性の毒か?」

 覚めている以上、急な病気とは考えにくい。

 壁にあった時計を見て納得した。

「……なるほど、熱量切れだな」

 

 もう五時間以上食事をしていない。

 覚めていると膨大な量の食事、熱量を必要とする。

 放出するエネルギーが大きい分、補給もかなりの量が要る。

 なのに、補給もなく覚めた状態のまま動き続ければ結果は明らかだ。


「まずは食い、物だ。機関、部は、その、後でいい」

 最後に、体を引きずりながら護身刀で舵を軸ごと切る。

 航路を修正しても戻されたら元も子もない。


「うっ……」


 動くとまた目眩がしてくる。

 遠くから聞こえる声から逃れるように操舵室をでるしかなかった。




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