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三三話



「優呼に勝った? マジで?」

「ふふん」

 

 食堂であった立花に話すとびっくりされた。

 心外である。


「どうやって? 前の調子だったら絶対無理だと思ったのに」

「絶対って、お前……」

 応援してくれてるのかと思ったのに、なんて奴だ。

「やっほー!」


 そこへ当事者がやってくる。

 持ったトレイには大盛り山盛りのご飯や惣菜。相変わらず凄まじい量の食事。


「優呼、榊に負けたってマジか?」

「マジよ!」


 ほら、と首を伸ばす。

 外傷と違って内出血って残りやすいらしく、そこにはまだ、うっすらと手の痕がある。

 自分で付けといてなんだが、女の子に手を出すというのはあんまり気分のいいものじゃない。

 早く消えてほしい。


「はぁ~、どんな手品使ったんだ? 普通無理だろ?」

「手品って決めつけるのか」

視覚効果だから間違ってはいない。

「私も驚いちゃった! それに女の人だけに効くようなヤツよ。サイテーなの!」


 サイテーといいつつ顔は笑顔。

 こいつの場合、真意が見えない。

 個人的には勝ったというのも面映い。

 策を弄したのにことごとく届かず、偶然に等しい引き分けみたいなものだ。

 まぁ、裂海が認めてくれるのはありがたくはあるが。


「詳しく聞こうか」

 立花が身を乗り出す。


「ダ~メ!」

 裂海は胸の前でバッテンを作る。

「兵法は大事なものよ。個人の財産でもあるんだから! 気安く聞いたりしないの! ねむねむは武士としての心構えが足りないわ!」

「ねむねむって呼ぶなよ。わかった、俺が悪かった」

 立花が素直に頭を下げる。


「榊も悪かったな」

「いや、俺は別に。裂海がそこまでいってくれるなら」

「えっへん!」

 

 もりもりと食べながら笑顔を見せる。

 いいけど、ほっぺたにサラダのドレッシングを付けられたまま威張られても困る。


「それで、勝ったってことは榊は任官したんだろ? 入って、二ヶ月くらいか?」

「もうそんなになるか。早いのか遅いのか」

「十分早いわよ。私なんて一二歳で入って、任官したのは一昨年よ?」

「優呼は年齢的なものだろ? 元服前だったし。俺は実質一年かな」

「二人とも結構経ってるんだな。覚める=近衛だと思ってたよ」

 

 食事をしながら情報収集。

 二人とも正式入隊までは結構時間がかかっているのには驚いた。


「まぁでも、覚めてもすぐには使いものにならないだろ? 知識も実力もそうだけど、礼儀作法や外国語の習得もあるんだから。榊は何カ国語話せんの?」

「何ヵ国語といわれると怪しいけど、会話程度なら英語とドイツ語。あとはスペイン語の単語をつなげるくらいか」


 指折り数える。

 大学でも覚えたし、仕事で資材部にいたときは研修で欧州にも行ったから、簡単ではあるものの話せる。


「トライリンガルってやつ? 凄いわ!」

「知識と外国語はいいわけか。実力も、優呼に勝ったなら十分、あとは礼儀作法くらいか?」

「ヘイゾーって殿下の守護役やってるんでしょ? だったら作法もばっちりじゃない? 殿下の所作って綺麗だし、お手本としてはこれ以上ないくらいでしょ」

「あ、ああ? ああ、午前中とか空いた時間とかな。でも一緒にいるだけで所作とかは……」

 

 二人の言葉に驚く。

 それに、あのチビ殿下の所作が綺麗? 

 思い出せないし、印象にもない。まさか、鷹司はそれも含めて守護役に? まさか。

 

 それに二人の殿下、で思い出してしまった。

 殿下に勝った報告をしてない。

 助言をもらったことを考えればした方が良いのだが、これから行くのも手続きが大変だ。

会ったときで良いだろう。


「ヘイゾー? どうしたの?」

「い、いや、あまりに自然すぎて、綺麗とか思う暇もなかったな」

「わかる。殿下は指先まで自然に作法が行き届いてるもんな。見てると勉強になるし、こっちの心も引き締まるってもんだ」

 

 行き届いてる? 

 勉強になる? 

 それは考えもしなかった。


 今度見てみよう、覚えてたらの話しではあるが。

 それよりも重要なのは外出許可だ。

 正式入隊、任官して明日が初めての外出。

 正直楽しみで仕方がない。


「なぁ、二人とも」

「ん?」

「なに?」

 

 立花は白身魚のフライをかじりながら、裂海はパンを一斤かぶりつきながら同時に首を傾げる。

「二人は外に出たとき、どんなブランド買ってるんだ? 近衛御用達みたいなものはあるのか?」

「ブ、ブランド?」

「御用達?」

 二人が食べるのを止めて微妙な顔をする。


「な、なんだ? 少ない休みに外へ出たら買い物でストレス発散は当たり前だろ?」

「う、う~ん、私はあんまりしないかなぁ」

「俺もあんまり外にはでないな。だいたい寝てるし」

「なんで? 山ほど稼いでるだろ?」


「稼いでるけど、使う先がないのよ。ほとんど貯金になってると思うわ」

「俺も。趣味で買うのは刀の鍔とか鞘かな。実用にもなるし」

「え、そうなのか?」 


 二人の質素ぶりに驚かされる。

 使う先なんてそれこそ山ほどあるだろうに。


「じゃあ私服とか小物は?」

「私、通販!」

「俺もアマ○ン」

「外食は?」

「食堂で十分よ。とっても美味しいし!」

「同じく」


「……で、貯金額は?」

「一二〇億くらい」

「八〇億前後」


 ば、化け物並なのに、なんと勿体ない。

 欲がなさ過ぎる。


「投資とかしたらいいだろ! あとは儲かりそうなベンチャー支援とか!」

「う~ん、そういうのって関心がないと垂れ流しになって良くないと思うのよね。お金って大事だし!」

「投資とかよくわかんねーし、とりあえずはいいかなって」


 一〇代の裂海が思った以上に考えているのに、二〇を越えた立花は頭にお花畑が広がっている。

 こんなのが当主で大丈夫か、立花家。お義姉さんが手綱を握った方がいい気がする。


「ああ、なるほど、榊は明日休暇なんだな。俺たちのことなんて気にせず楽しんで来いよ」

「そうそう、有意義な使い方があるなら後で教えてくれればいいから」

「おう、任せとけ」


 応援されて気合いが入る。

 二人の事は気になったものの、あまり気にせず、それよりも外出が楽しみで仕方がなかった。

 この時は、まだ。


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