表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/227

二二話



 刀を手に入れ、とんでもない殿下のお供にも慣れ始めた頭の中を埋めていたのはたった一つ。


「限界なんです!」


 ダメだ、もうだめだ! 

 買い物がしたい、現金にさわりたい!

 毎日毎日、訓練と殿下のお守りばかりでは発狂しそうになる。

 せっかく金持ちになったのに、それを実感できないようでは持っている意味がない。


「私にどうしろというのだ?」

「どうしたら外へ出れますか? 金を使えるんですか?」


 気が付けば、鷹司に懇願していた。

 今、俺の命運を握っているのはこの女だ。

 朝、執務室に押し掛け、半分眠っていたのを叩き起こすことになったが、知ったことじゃない。


「……そう、だな。正式所属となれば可能だ。外出許可もだそう」

「どうやってなるんですか?」

「顔が近い、離れろ。まったく……」


 鷹司がやれやれ、と首を振る。

 振りたいのはこっちだ。


「条件は筆記と模擬戦だ。両方合格したら正式所属となる」

「今すぐしましょう!」

「筆記は今でも構わんが、模擬戦は難しいな。相手を選ばねばならんし、みな忙しい」

「じゃあ筆記だけも今しましょう」

 とりあえず一つでもクリアしておきたい。

 すこしでも心を楽にしなければ砕けてしまいそうだ。

「わかったわかった。すこし待て」


 鷹司が糸のように細い眼のまま部屋を漁り始める。

 バサバサと本や積んであった書類を撒き散らすのも気にしない。


「……あったぞ」

 端々の折れた紙束を取り出す。

「制限時間はないが、参考書の持ち込みは禁止だ。本当に今するのか?」

「えっ、ダメですか?」

「構わんが、渡した資料や本から満遍なく出題されるぞ?」

「いいですよ。もう全部読みましたから」

「ほぅ、頼もしいな。では見せてもらおうか」


 鷹司の視線を受け流しつつ紙束を受けとる。

 暗記程度なら楽勝、ナメんな。



                           ◆



「模擬戦の相手は私よ!」


 道場でふんぞり返るように立つのは裂海。

 いつも通りの白い制服姿、手には凄まじいまでに長い一振りの刀と、腰にも一振りさげている。


「今現在、優呼しか空いてない。お前にとってもやり易かろう?」

「そう、ですかね」

いや、切られたり殴られたりとロクな思い出がない。

「模擬戦とはいっても死なない程度にはやる。条件は、そうだな、優呼が使えるとおもったら、にしようか」


 鷹司がイヤらしい顔をする。

 なんだその使えるという曖昧さは。


「副長、私の基準で良いんですか?」

「構わんさ。お前に認められて否定できるものなど、そうそういない」

「はーい!」


 お子さまは元気一杯だ。

 それだけの実力を認められているということでもある。

 気を引きしめてかからなければならない。


「模擬戦は一発勝負ですか?」

「いや、何度挑戦してもいい。それとも、一回で勝つ自信があったのか?」


 確認程度で聞いたつもりだったのに、鷹司はせせら笑い、裂海が腹を抱えて転げ回る。

 へっ、それなら楽もいいところだ。

 なめられてたまるか。


「隙アリだ!」


 刀を抜いて斬りかかる。

 何度も、というならこの場でもいいはずだ。

 後悔させてやる、馬鹿どもが!


「なに、それ?」

「……ぐっ?」


 完全に不意を突いたはずなのに、俺の喉には切っ先が浅く刺さっていた。

 気道と動脈を避けて、出血も痛みもほとんどない個所に、いつの間にか抜刀した雨乞いの太刀、その先端が食い込む。

 背筋が凍った。


「声に出すとか、落第ものよ?」

「二階級特進だ、榊。よかったなぁ、給料が増えるぞ」


 女が二人、薄ら笑う。

 一筋縄ではいかない。


「期間は、どうする? 優呼」

「いいですよ。寝ていても食べていても、いつでも、どこでも」


 刃が引かれ、喉から抜ける。

 思い出したかのような痛みに思わず後ずさった。


「榊、よかったな。いつでもいいらしいぞ」

「あーでも、お風呂はイヤかな! だって、せっかく綺麗なお風呂をなんだから、血はちょっと」

 

 悪戯を思いついた顔で口角を上げる鷹司に、裂海が悪乗りをする。

 これじゃあ不意を突けといわんばかりだ。


「ふ、風呂なんか行くかよ」

「あれぇ、ヒントだしてあげてるのにぃ~?」

「い、今に見てろよ!」


 逃げるようにその場を逃れる。

 くそ、何が何でも勝ってやる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ