エピローグ
白が見えた。
もう何度目か、同じ光景を見ていると自分が置かれた状況を知ることができる。
最後の記憶は、エリザヴェータを説得したところ、ではない。そのあとで裂海にたたき起こされ、応急処置を受けたところまでだ。
エリザヴェータと雷帝、親衛隊の面々が亡命できただろうか。こうして病室にいるということは、計画通りことが運んだのだろうと自分を納得させるしかない。
もう一度眠りたかったが激痛がそれを許してくれず、もうろうとした意識の中で何度も夢を見た。途中、誰かに話しかけられたような気もしたが、覚えていない。
どれくらいの時間が過ぎただろう、痛みも和らぎ、明瞭になった視界に入ったのは宵闇に沈む病室だった。
周囲に人影はなく、ベッドの周りには林のように林立する点滴を吊るしたスタンドだけ。腕を持ち上げれば包帯が巻かれ、表面には体液が滲んでいる。火傷によって引きつっているのか思うように動かない。
「痛ぅ……」
声は出る。が、いつものことながらよく生きている。いや、死ねないのか、もはや分からない。
どうしたものかと思っていると、足音が聞こえた。
だんだんと近づいてきて、ここからでは見えない部屋の入り口でピタリと止まる。こんな夜中にやってくるのは、人目を避ける必要があるからだろう。
「やぁ、これはまた……ずいぶんな格好だね」
入ってきたのは案の定、城山英雄。
紺色のスーツに白いシャツ、窓から入り込む月明かりに照らされた顔には疲れが浮いていた。
「元気……には見えないね。ミイラかと思ったよ」
「雷による火傷……です……動くと、痛いです」
「聞いているよ。ふつうならば死んでいると。しかし、君は生きているんだね」
「……死んだ、ほうが……よろしかったですか?」
「私は皇族を敵に回したくないんだ。君のことで心証を悪くしたくない」
城山が諸手を上げる。
「先生……私のことよりも……ロマノフ皇帝の長子や、雷帝たちは……どうなりましたか?」
「彼らは、君の計画通り奥尻に駐留していた海軍が保護した。君や裂海君の帰還よりもずっと早かったから、今はもう仮となる住居に移ってもらっている」
「……よかった」
どうやら計画通りいったらしい。
あの後、エリザヴェータや雷帝たちは船で出港し、翌日には北海道付近の領海に到達、偶然にも待ち構えていた海軍に保護される手はずになっていた。
俺たちは別ルート、万が一、何かあっても言い逃れができるように白凱浬が用意した船に乗り南下し、日を空けてから戻ったはずだ。
しかし、気がかりもある。
「付近の海には……米軍が展開していたはずですが……」
「偶然にも、彼らの行動を察知したロマノフ海軍と鉢合わせになり、両軍ともにらみ合いになったみたいだよ」
朗らかに笑っている。
なるほど、キナ臭いとは思っていたが、そういうことか。
「どこまでが……先生の、計略、ですか?」
「それは、君がどこまで予測しているかにもよるな」
タヌキ爺め、どこまでも食えない。
こちらは喋るだけでも辛いのに、よくもいろいろと仕掛けてくれる。
表情を顔に出すこともできないまま、推論を頭の中で組み立てる。
「……米軍へ取り計らったのは先生でしょう、同時に私が首謀者であるという情報を流したのではありませんか?」
「外れてはいないが、種明かしには遠いかな」
政治家はわざとらしく肩を竦める。
白々しさに臍を嚙む。
だが、考えることをやめるわけにはいかなかった。
「……米海軍が、ロマノフ領海ぎりぎりまで接近していたことで……ロマノフ海軍は、私たちの追撃よりも対米軍へ、動かざるを得なかったのならば……偶然にしては出来過ぎです。彼の地でも、米軍の諜報は接近こそしても……接触まではしてこなかった。彼らの目的が接触ではなく……調査にあったのではないか。そして、私たちの正確な位置、目的を知っていたのは誰か……」
言葉にするとつながる。
城山は、俺の言葉を引き継ぎ、口を開く。
「私には免罪符が必要だ。忠犬であること、彼らに協力的であることの証明のためにね」
「……」
「日桜殿下の側役に、榊平蔵という男がいる。小賢しくも嗅ぎまわり、ロマノフ内の情勢を掴んでしまった。近衛であるというのに、方々に手をまわして協力を取り付ける。殿下からの信任も厚い、とても厄介な存在だ。あまつさえ、私にまで交渉を迫る。とても困っている、と。ここまでで訂正はあるかな?」
「……ありません」
「私は、米国とやり合うには時期尚早だと思っている。経済も、軍事も、人口も届かない。それに、米国は、皇族のことを快く思っていない。彼らが声を上げれば、日本人を操ることができないからだ。皇族が存在する限り、日本国民は米国の傀儡にならない。しかし、そう思わせてはいけない。米国にとって私たちは金払いの良い客……鴨であると思い続けてほしい。少なくとも準備ができるまではね」
一旦言葉を切り、俺の顔を見る。
目には決意の色があった。
「だから、今回の騒動も榊平蔵という一人の近衛の独断であることが望ましい。実際に、彼らも調査をして危険だという判断がなされた。米国は皇族よりも、榊君の方が危険と判断してくれたよ」
嗤う。
これだから政治家は手に負えない。
いくら釘を刺しても、目的のためなら手段を選んでくれず、それでいてこちらの意向を無視したわけでもない。きっと、政治家という人種は物事の盲点を見つけるのが上手なのだろう。
「怒らないのかい?」
「今は、作戦の成功を喜んでいるところです」
「ふっふっふ、そうだろうね。きみは、そういうタイプだ。望む結果を得られるのならば、自己の犠牲や評価など気にしない。私たちは似た者同士だ、これからも仲良くやっていきたいものだ」
政治家の意識がわずかにそれる瞬間を見逃さず、激痛苛む体を動かして政治家の胸倉をつかんだ。
未だ修復し終わらない表皮、包帯から体液が飛び散り、上質なスーツを汚す。
「自らの姿を晒し、種明かしをしてみせる。どういうお積もりかは存じませんが、不用心が過ぎるのではありませんか?」
「ふっ、君が殺人を忌避するのは知っている。そして、私という存在を感情のままに殺すことをしない確信がある」
「……先生は恐れるがゆえに自ら顔を出し、種明かしをなさった。顔を見せれば殺されはしないと高を括ったのではありませんか?」
「ふふふ、そうかもしれない。だが、私にとって重要なのは榊平蔵を使い、国が最大限の利益を得たという事実だ」
その通りなのだろうが、簡単に利用できると思ってもらっては困る。
精一杯の敵意を籠めて政治家を睨んだ。
「私を使う分には構いません。ですが、それ以上を望むのならば、一計を案じさせていただきます」
「私は榊君がどのような存在かを承知している。だが、今回の件で君の名前は知れ渡った。日桜殿下の側役という金看板というだけではなく、米国の脅威としてもね。内外から監視されることになる」
「……」
息を吐く。
掴んだ手を放し、ベッドに横たわった。
正直に言えば、呼吸をするのも辛い。
そんな俺に、城山は懐から封筒を取り出す。
「頑張った榊君へ、私からのプレゼントだ」
「……受け取ったら収賄になりませんか?」
「君は存在しない人間だよ。私は封筒を落としただけだ」
「……拒否権はなさそうですね」
受け取りはしたが両手とも包帯だらけなので開けることができない。
あまり見たくもないので枕もとに投げる。
「それじゃあ、私は失礼する。榊君、お大事にね」
にこやかに笑い、政治家は行ってしまった。
背中を見送り、自問自答をする。
これで、良かったのだろうか、もしかしたら、すべては誰かの掌の上だったのか、と。
タヌキ爺に化かされた気分になる。喋ったことで疲れ、目を閉じる。いつの間にか眠ってしまった。
◇
再び目を覚ましたのは日もだいぶ高くなってから、体にふれる感触によってだった。
「あ、起こしてしまいましたか?」
手足の包帯を替えてくれるノーラと、その手伝いをしている千景がいる。
「副長から伺って来ました。本当に良かったです」
「心配をかけたね」
「本当です。少し反省してください」
努めて朗らかにしてくれるノーラと、眉間にしわを寄せ、明らかに怒っている千景が対照的だ。
「伊舞さんが点滴を減らしても大丈夫だとおっしゃっていました。良かったですね」
そうか、夢うつつで話しかけてきたのは伊舞だったのか。
毎度のことながら頭が上がらない。退院したら菓子折りでも持っていこう。
あと、気になるのは裂海のこと。いつもは真っ先に見舞いに来るのに、今回は姿を見せていない。ロマノフではケガをしたように見えなかったが、なにかあったのだろうか。
「ノーラ、優呼はどうしている?」
「……集中治療室です」
「アイツが? ケガらしいケガはしていなかったはずなのに……」
「固有を使い過ぎて生命力が低下しています。でも、裂海本家から皆様がいらしていますから、大丈夫とのことです」
「そんなに消耗していたのか……」
いつもの天真爛漫な彼女がベッドに横たわっている状態が想像できない。
固有を使い、獅子奮迅に立ち回り、歩けなくなった俺に肩を貸して最後まで叱咤してくれた横顔を思い出して悔やむしかなかった。
「もう、ヘイゾウさんだって、最初は集中治療室にいました。全身の火傷に神経系の麻痺、脳が無事だったのが不思議なくらいです!」
「す、すまない」
もっと自分を大切にしてください、と物凄い剣幕で詰め寄られ、謝ることしかできない。
「でもよかったです。無事に戻ってきて……」
「勝算は……あったからね」
六:四といったところだろうか、分が悪かったわけではない。
ノーラと話しながら、千景を見る。先ほどから一言も発せず、黙ってノーラの手伝いをしていた。こういう時は何かを我慢している時だ。
「千景様、どうかなさいましたか?」
目だけでこちらを見る。
視線は、俺と包帯を行き来して、諦めたように口を開いた。
「……自分が、子供であることを実感しているのよ」
「それは……殊勝なお心がけです」
「っ!」
軽口を叩けばすさまじい形相で睨まれる。
藪蛇だったらしい。
「ヘイゾウさん、千景さんは悩み苦しんでいるのです。誰のためか、わかりますね?」
「ノ、ノーラ」
「私も千景さんと同じ気持ちです。見送り、無事を祈るしかできない我が身を呪うのです。せめて、何か力になれたら、と……」
真剣な眼差しにどう答えたものかと思案する。
人にはそれぞれ見合った使命というものがある。誰かに強要されるものでも、増して、誰かの影響を受けていいものではない。結果としてそうなるとしても自らの意志で決めることが大切だ。そうならなければ、人は必ず後悔をする。
しかし、二人に話したところで理解してもらえるかは未知数だ。子供のころは、ただでさえ人の影響を受けやすい。俺の言葉ならなおさら鵜呑みにしてしまいそうだ。
「見送ることが、祈ることが、無力の証明のように思わないでほしい」
慎重に言葉を選ぶ。
どうしたら二人に伝わるだろうか、と。
「勿論、神頼みを信じているわけじゃない。二人が祈って、そして俺が知っていることが大事なんだ」
言葉にすれば、ノーラは優しく微笑んでくれる。
千景の目は厳しいまま、逡巡を繰り返してから意を決したかのように口を開いた。
「私の祈りも、願いも、知っているの?」
「……知らない、とは申せません」
視線から火花が出そうなほどに凝視され、
「……なら、いいわ」
と、言葉を切る。
そのまま黙々と包帯を替え、千景はノーラの袖を引いた。
「また来るわね」
振り返ることもせず行ってしまう千景に、ノーラは笑い、
「お気遣いには感謝しますが、私も千景さんも殿下だってきっと同じ想いです」
そう囁いて行ってしまった。
彼女たちについてもどうしたものかと考えていると、一際大きな足音が聞こえた。こんな無遠慮で尊大な足運びは一人しかいない。後に続く二つをかき消してしまいそうだ。
「邪魔をするぞ」
ノックをすることもなく入ってきたのは鷹司、その後ろには殿下と直虎さんもいる。
「機密もありますので、まずは私が……」
「……はい」
律儀にも殿下に断りを入れ、鷹司はずかずかとやってくる。
ベッドの横に立つと包帯だらけの体を睥睨してから、しゃがんで顔を近づける。
「喜べ、概ね貴様が図った通りになった」
「それは良かったです」
「だがな、全てというわけにもいかん。いくつか懸念事項ができたことも確かだ」
「昨晩、城山先生から伺いました」
人物名を口にすれば、鷹司は苦々し気に顔を歪める。
「……なるほど、油断ならない御仁だ。どこまで聞いた?」
「米国に私を売った、そのおかげで日本と政権は最大限の利益を得た、と」
「!」
鷹司が驚いた顔をしている。
普段はなんとも思わないが、こうしたときの顔は悪くない。つんと澄まして、不機嫌そうにしているよりも人間味がある。
「政権に近い誰かからのリークとは思っていたが、まさか本人からとは……」
「副長がおっしゃるように、油断ならない方です。今後は、あまり近寄らないようにします」
「……今更遅い。が、反省は良いことだ。優呼と一緒にしばらく休んでいろ」
「っ!?」
人差し指で弾かれた頬が痛い。下手な銃撃よりも強力そうだ。
あまり腕が動かないので摩ることもできず、耐えるしかできない。
「優呼は大丈夫ですか?」
「“残弾”を使い過ぎて、一時的には危なかったらしいが、実家の協力もあって今は回復した。声をかけてやれ」
「……分かりました」
「お前は……大丈夫なのか? 真皮上層の火傷に全身の筋肉の断裂、保護されたときは虫の息だと聞いたぞ」
「この通りです。ノーラが言うのには皮膚が再生してきたらしいので問題ありません」
「もう無茶はしてくれるな」
「状況次第ですね」
「バカが、こんなことになってまで首を突っ込みたがるのはお前だけだ」
「望むものが分不相応ですから、致し方ありません。副長こそ、これからが大変と存じます。お力添えをお願いします」
「このツケ、どこかで清算してもらうぞ」
「私でできることなら如何様にも」
「……安請け合いばかりしおって。覚えていろ」
髪をぐしゃぐしゃに掻きまわされる。
立ち上がった鷹司は部屋の入り口まで戻り一礼する。
「殿下、お待たせしました」
「……きりひめ」
「ははっ」
「……あまり、さかきにむりをいっては、いけませんよ」
「殿下がそのように甘やかすから榊がつけ上がるのです」
「……さかきは、そういうしょうぶん、なのです。おおめにみるのが、わたしたちのつとめです」
背筋を伸ばす殿下に、鷹司が閉口した。
こんな偏った理論を持って、殿下のそばにいるのは一人しかいない。
「直虎、お前は一体なにを殿下に何を吹き込んだ?」
「め、滅相もありません。ただ、母の教えを殿下にもお伝えしたまでです」
「……それを偏っているというのだ」
放蕩と剣術に明け暮れた男の妻と娘の言葉は、不必要なほどに重い。
呆れとも、諦めともつかない溜息をして鷹司は直虎さんの首を腕で抱え込んだ。
「お前には、少し教育が必要だ」
「き、霧姫様、どこへ?」
「うるさい、少しばかり付き合え」
「私も、平蔵殿のお見舞いを……!」
「後にしろ」
引っ張って連れて行ってしまった。これも、鷹司なりの気遣いなのかもしれない。
二人の声が聞こえなくなるのを待って、殿下がとことこやってくる。
ベッドの横まで来ると俺の手を握る。
「……さかき、このたびは、まことにたいぎでありました」
「ありがとうございます」
「……いろいろ、たいへんでしたね」
「はい。今回の件で、様々なことを身につまされる思いで見てきました。彼の国々の行く末を、どうしても日本と重ねてしまいます」
「……そう、ですね」
「心配になってしまいました。この国は、大丈夫なのだろうか、と……」
心情を吐露すると、殿下は朗らかに笑い、
「……きめるのは、われらではありません」
「殿下……」
「……わたしのねがいは、こくみんのあんねいです」
「その結果として自らが、立場を追われることになっても、ですか?」
「……そのときは、よろこんでしりぞきます」
「お強いのですね」
この方はそうだ。
いつも俺の予想なんて軽々と超えて、遥か先にいる。
何も心配することはないのだと思えた。
「……」
「殿下、どうかなさいましたか?」
「……いたかった、ですか?」
笑っていたはずの、殿下の瞳から涙が落ちていることに気付く。
「……さかきは、またけがを、しました」
包帯で巻かれた俺の手を取り、自らの頬に寄せる。
「……わたしは、あなたに、むりばかりをしいます。つらく、くるしいやくめ、ばかりを……」
「殿下……」
「……あなたはきずつき、わたしは、のうのうといきるのです。けっかをきょうじゅするばかりなのです」
「……」
「……わたしに、なにができますか? どうしたら、あなたに……」
「殿下、ご自身を責めるものではありません」
「……ですが……」
苦しそうだ。
実際に苦しいだろう。自分の言葉で、人の一生が左右されるかもしれない。そこに責任を感じない人間などいるだろうか。
この子は果てしない重圧を孤独のままに耐えている。それを口にすることもできず喘いでいた。
弱音を吐いた自分を恥じる。
それができない子の前で、大人がなんと情けないことか。
「っく」
「……さかき、いけません」
静止も聞かず、上体を起こす。
殿下の心の痛みに比べたら、体なんてどうでもいい。
「殿下、こちらへ」
手を伸ばす。
「……よいのですか?」
「痛みで気が変わりますよ。お早く」
「……はい」
小さな、それでも、出会ったころと比べて少しだけ大きくなった体を抱きしめる。
震えているのが分かり、背中を摩った。
「殿下、先ほどは失礼しました。私の弱さを許してください」
「……よわさなんて……」
「誰も、あなたの孤独を、重圧を代わって差し上げることはできない。それがもって生まれたものの務めでありましょう。ですが、あなたばかりに苦しい思いはさせない。そのために私たちがいるのです」
「……はい」
「どうか頼ってください。無理を言ってください。困らせてください。あなたの苦しみを、私にもください」
「…………」
「決して、一人になどさせません」
「……さかき」
声を出すこともなく、二人の時間が流れる。
どれくらいの時間が経っただろうか、どちらからともなく体を離し、殿下はベッドの上に正座をした。
「……さかき、これからは、もっとたいへんになります。さまざまなことが、おこるでしょう」
「はい」
「……これからも、わたしのために、つとめてくれますか?」
「勿論です」
言葉はするりとでる。
「……おつかれさまでした」
「ありがとうございます。殿下、慰労くださるのは有難いのですが、忘れているものがあります」
「……?」
可愛らしく首を傾げる。
小動物のような愛らしさだ。
「私は今回、とても苦労しました。お言葉はいただきましたが、別に賞与をいただきたく存じます」
「……しょうよ? ……!」
逡巡し、すぐに思いついたのだろう。
ベッドの端まで移動すると、枕をどかして俺の頭を膝の上に乗せる。
「……がんばりました。ぼーなす、です」
「恐縮です」
「……いいこです」
細い指が髪を撫で、頬に触れる。
殿下が笑ってくれるなら、それでいい。
束の間の幸せを噛みしめながら、身を任せた。
了
今回で第五部は終わりです。
お付き合いありがとうございました。
少しでも残るものがあれば嬉しく思います。
これからですが、とりあえず来週は前に書いた短編でも載せようかと思っています。
そのあとは未定です。
短編を載せるのか、今後はどうするのか、迷っています。
次週の掲載までに結論を出したいと思います。