実験的短編企画 榊の顛末書(四)
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一二月三一日
鷹司霧姫殿
氏名 榊平蔵
処理番号 二八七
顛 末 書
一二月二五日、近衛寮で発生した火災報知器の作動につきまして以下の通りご報告いたします。
記
1.状況や内容
日時:一二月二五日二二時頃
場所:近衛寮 三〇二号室
2.経緯
当該日は西洋圏における降誕祭であり、わが国にも根付く文化であることから簡単な宴席が設けられることとなりました。ケーキにロウソクを立て、火を付けたところ花火が混じっていたことから発火、煙が立ち込める事態となりました。
3.原因
昨今では余興用としてロウソクに近い形の花火が市販されており、その存在を誰も認知していなかったことが挙げられます。
近衛寮に設置してある煙感知器はかなり感度の高いものが採用されており、わずかな煙でも反応してしまったと考えられます。
4.再発防止策
しばらくの間、近衛寮内での火気は厳禁といたします。
また、火気取り扱いに関する要綱を作成し、周知徹底を行います。
以上
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一二月三一日
鷹司霧姫殿
氏名 榊平蔵
処理番号 二八八
顛 末 書
一二月二六日、日桜第一皇女殿下の写真が一部週刊誌に掲載された件につきまして以下の通りご報告いたします。
記
1.状況や内容
日時:一二月二六日
場所:近衛府 駐車場
2.経緯
※処理番号二八七参照のこと。
同宴席には日桜殿下もご参加いただいておりました。
煙感知器がなったことから万が一のため、日桜殿下には近衛府の駐車場まで避難していただきました。その際、消防と一緒に付近に事務所を構える週刊誌の記者が紛れ込み、撮影を行ったようです。
3.原因
日桜殿下のプライベートは原則的に非公開となっていますが、新聞や雑誌が取り上げた場合の罰則事項はありません。
宴席参加のため、日桜殿下は特別な衣装をお召しになっておられました。
同日は赤と白を基調とし、非常に目立つものであったことから被写体となってしまったものと考えられます。
4.再発防止策
消防、警備関係者と連携し、非常時における人員管理の徹底を行います。
また、出版社や週刊誌とも話し合いの場を設け、今後についてを検討して参ります。
以上
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一二月三一日
鷹司霧姫殿
氏名 榊平蔵
処理番号 二八九
顛 末 書
日桜第一皇女殿下の写真を掲載した週刊誌並びに出版社への対応につきまして以下の通りご報告いたします。
記
1.状況や内容
日時:一二月二七日一五時頃
場所:近衛府近衛本部 第四会議室
2.経緯
※処理番号二八八参照のこと
日桜殿下を撮影、週刊誌に掲載した出版社並びに雑誌編集長、記者を召喚し、ヒアリングと今後について検討を行いました。
皇族、特に第一皇女殿下がメディアに露出することは非常に稀であるため反響が大きく、出版社、編集部としては日桜殿下の姿を追う企画として継続したい旨、申し出がありました。
根本的に日桜殿下の撮影、掲載は問題ないことは伝えましたが方法に問題があったため、当該データの提出を求めましたが拒否されました。
3.対応
話し合いはこちらの主張が受け入れられなかったことから平行線となりました。
同週刊誌はたびたび問題行動を起こしていることもあり、政治家の城山英雄先生を通じて警察から圧力をかけていただきました。
4.今後について
当該データは回収できたため、これ以上の拡散はないと考えられます。
警察による出版社の監視も継続されることから事態は収拾したものと思われます。
以上
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帝都では珍しく雪が降っている。
鷹司の執務室からは中庭しか見えないが深々と積もる光景は悪くない。
執務室には俺と裂海優呼の二人だけ。
俺は仕事だが、裂海は床の上で正座をしている。理由は彼女の名誉のために言うまい。
「ねぇ、今日って大晦日よね」
「そうだな」
「もう一週間なんだけど。そろそろこれ止めない?」
「俺にいうな。処分を決めたのは副長だ。文句はそっちにいってくれ」
「ふぐぅ」
近衛屈指の使い手が妙な鳴き声を上げる。
彼女にとって正座よりもこの空間と環境は十分な苦行になるらしい。
「諦めろ。原因はお前だ」
「私はみんなを楽しませようとしただけよ!」
「善意があれば許されると思うな。誰がこの件を処理していると思ってんだ」
頭をぺしぺし叩く。
自覚があるのか猛獣は睨みこそするものの、襲い掛かってはこない。
「ヘイゾーのくせに! 弱いくせに! あのとき助けてあげたのに!」
「はいはい。ありがとうございました」
「誠意がこもってないのよ!」
負け犬ならぬダメ犬の遠吠えを聞きながら仕事を続ける。
この一年は色々あった、という感慨に浸る間もない。
ふと肩が重く感じたのは気のせいではない。
自分で自分の肩を揉もうとして、止めた。原因と手ごろな生贄は目の前にいたからだ。
「なによ?」
裂海は露骨な警戒色を出す。
こうした嗅覚はさすがだ。
「優呼、正座はやめていいぞ」
「えっ、ほんと?」
「その代わり肩を揉んでくれ」
「え"っ?」
嬉しそうにしたのも一瞬、すぐに猛烈に嫌そうな顔をする。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
だが、俺の肩がこる原因の一つはこいつだ。
「正座よりいいだろ? お菓子も食べていい」
「……いいわ」
立ち上がって後ろに回る。
妙に素直だと思ったのだが、疲れていた。
そのあと首を絞められたのは言うまでもない。