実験的短編企画 榊の顛末書(二)
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九月二二日
鷹司霧姫殿
氏名 榊平蔵
処理番号 一二九
顛 末 書
九月一四日に発生した、日桜第一皇女殿下の水着着用並びに密着の件につきまして以下の通りご報告いたします。
記
1.状況や内容
日時:九月一四日一四時頃
場所:神奈川県三浦郡葉山町御用邸 管理区海岸
2.経緯
私、榊平蔵は九月一二日まで京都、朱膳寺家にて皇位継承権第一九位、朱膳寺千景殿下護衛任務にありました。
日桜殿下は千景殿下の立場、境遇を憂慮されておられましたので私が知りうること、出生から今日までの事柄について僭越ながらご説明いたしました。
私が朱膳寺家へお仕えした二ヶ月間、特に同家の別荘で過ごした期間や朱膳寺広重氏の入院(※別紙京都報告書参照のこと)もあり、朱膳寺邸で千景殿下と二人で過ごしたことをお話させていただき、様々お尋ねいただいたことにお返しすると「不公平」などと意味の分からないことをおっしゃいました。また「埋め合わせ」と称しての外出を希望されました。
3.原因
日桜殿下ご自身のコンプレックスが大きいと考えます。
日桜殿下が千景殿下の特徴についてお尋ねになられたので容姿、身長や体型、胸部や臀部の大きさまで事細かくお教え致しました。
4.再発防止策
千景殿下がとても同い年には見えないことをお伝えしたことは反省すべき点です。
日桜殿下や次代のためにも忌日などという悪しき風習を撤廃し、健全で健康な肉体と精神の育成に取り組むべきとご進言申し上げます。
以上
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「榊、なんだこれは?」
「ご要望のあった殿下の水着着用の顛末書です」
正直に話したにもかかわらず鬼の形相で睨まれる。心外だ。
「馬鹿、これでは殿下が我儘をおっしゃったように見えるではないか」
「実際言われたのですから仕方ありません」
「こういうときは従者が泥を被るものだろう。書き直せ」
「これ以上好意的に書けませんよ。あの時は副長だって「埋め合わせ」に同意されたではありませんか」
「むっ!?」
鷹司が顔を顰める。
そう、この人も日桜殿下の言に乗っかり、俺を批判していた。
自分でけしかけて、通行人に水着を見られたからと顛末書を要求したのも鷹司だ。
「それに、副長だって一緒になって水着を着て喜んでいたではありませんか。あんな布の面積が少ないものを殿下にお勧めしながら、自分は囚人服みたいな柄を選ぶのはどうかと思います」
「で、殿下の瑞々しいお体は究極の芸術といっても過言ではない。それを隠すなど……」
「いいですけどね。そこまでおっしゃるなら顛末書を書き直します」
「そ、それでいい」
渋面になる上司を睨み、
「一つ貸しですよ?」
一方的に告げて仕事に戻る。
やれやれ、誰のご機嫌取りをしているのか分からない。
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九月二三日
鷹司霧姫殿
氏名 榊平蔵
処理番号 一二九
顛 末 書
九月一四日に発生した、日桜第一皇女殿下の水着着用並びに密着の件につきまして以下の通りご報告いたします。
記
1.状況や内容
日時:九月一四日一四時頃
場所:神奈川県三浦郡葉山町御用邸 管理区海岸
2.経緯
日桜殿下がテレビをご視聴されていたところ、沖縄のまだ青い海に感動されておられました。かねてよりご気分の優れなかった日桜殿下に葉山の美しい海を見ていただきたいと思い立ち、海岸までお連れした次第です。
日桜殿下がなれない波際に足を取られたので、お支えしたとき、図らずも体に触れてしまいました。
3.原因
私、榊が気分転換を具申したことに起因します。
九月半ばではありましたが海水温も高く、鷹司副長も同行していたことから気分転換に水際に入ることをご進言申し上げ、それならば普段お忙しい日桜殿下の思い出作りに、と水着の着用を提案した次第です。
4.再発防止策
全ては私の軽率さが招いた事態です。
今後は一層の研鑽に励み、側役としての任を全うする次第です。
以上