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七話



「……牛若丸こと源義経や武蔵坊弁慶など、歴史を遡れば覚めたものに類する逸話が散見される。一説によれば鵯越や仁王立ちも覚めたものである資質の一端だったのではないかとされる。後年では元寇での神風も覚めたものの介入が指摘され、国を二する戦い、対外勢力の侵略など国難に際して現れるともいわれる」


 座学、座って学ぶと書くものの、実態はお勉強に他ならない。

 初日ということで学ぶことになったのは歴史。

 教師よろしく鷹司がホワイトボードに書き連ねているのは覚めたものが歴史の表舞台に登場したとからしい。


「幕末から近代にかけては譜代武家から多くの覚めたものが輩出され、今に至っていることは……」

まぁ、内容はいいとして女教師を気取るなら近衛の制服ではなくスーツにタイトスカートくらいはしてほしい。

「つまり、現代の近衛に求められる素養とは……」


 ジリリリリリ、と前時代的な音が割ってはいる。

 音源は鷹司の執務用机の上。


「……少し待て。私だ」


 受話器を取った鷹司の眉は不快を示すように寄る。

 しばらく話すと受話器を叩きつけるように本体へ戻した。

 鷹司の顔が苦いものを噛んだように歪む。


「ちっ、所用ができた。自習だ」

「自習ですか?」

「仕方がない、これを読んでいろ」

「はぁ、どうも。近衛活動録?」

「大戦後の混乱期に活躍した隊士が残されたものだ。当時の情勢が細かくかかれている、いわば裏の歴史といえる」

「へぇ、裏の歴史、ですか」

 ハードカバーほどもある分厚い本を受け取る。


「著者は裂海迅彦、裂海?」

「うむ、迎えにいかせた裂海優呼の祖父殿だ。五〇年前、迅彦殿が南西諸島へ赴任した際に現地で書き記したものを基にしている。我ら近衛の教科書とも言えるな」


 祖父が近衛で、孫も近衛。

 だとしたら父親が近衛にいても不思議はない、のか。

 近衛は思った以上に世襲や血縁が強いのかもしれない。


「迅彦殿は近衛として、また武家としても立派な方だ。お前も模範とするように努めろ。では行ってくる」

「お気をつけて」


 鷹司は刀を取り、格好を整えると行ってしまった。

 一人残され、肩の力が抜ける。


「見事に旧字だらけだ。えーっと、なになに、この活動録は共和国勃興期の様を後生に遺すべく記すものである、か」

 ページをめくるとそこには成立したばかりの共和国の勢力図、指導者や軍隊の動きが年代別になって載っている。

 軍部の動きや抵抗勢力、シャム王国との具体的な戦闘経過まである。


「へー、統一共和国って結構過激にやらかしてるなぁ。もうちょい賢いのかと思ってた」

これは思いの外ではあるが面白い。知らなかった歴史の裏側を見ているような感覚になる。

「ふぁ……」

 が、長く続かない。

 十頁もめくるころには欠伸がでてきた。


「おかしいな」

 時間的には十分寝ている。

 目頭を押さえて眠気を振り払おうとするが、ページをめくるうちに瞼が重くなる。

 午前も始まったばかりだというのに、意識はいつの間にか消えていた。


次回更新は17時です。

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