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Episode2.「MRO-Missing Research Office-」



 礼央についていくまま家の玄関にでると、玄関の前に、黒のセダンが停まっていた。


「乗って。」


 そういうと、助手席のドアを開け、中へと千里を誘導する。

 千里も黙ってそれに従い、中に乗り込むとシートベルトを締めた。



「立派な車ですね・・・暁さんの私物なんですか?」

「ああ、主に仕事で使ってる。」


 それだけ答えると、礼央もシートベルトを締め、2人は礼央のいう“事務所”へ向かった。





 車で15分くらい経った頃、車はとある大きなビルの目の前で停まった。


「着いたぞ。降りて、ついてきて。」



 車からすばやく降りるとそそくさと中へと足を進める礼央に、また慌ててついていく千里。


(なんだかそっけない人だなあ・・・ちょっとくらい待ってくれてもいいのに。)



 エレベーターに乗り込むと、礼央は9階を押した。

 気まずい空気に耐えられなくなった千里は、礼央に話しかける。


「あ、あの・・・暁さんはおいくつなんですか?」

「22。君の二つ上だ。」


(自分から聞いておいてなんだけど、死神にも年齢があるんだ・・・ってか22って思ってたよりも若くない!?よく見ると若くて綺麗な顔してるけど・・・落ち着いてるし、何より話し方が堅苦しいっていうか・・・ってか、そもそも22歳があんな立派な車を・・・!?)




「言い忘れていたが・・・君と同じ大学に在学している、4年生だ。」

「え!?」


(死神って大学も通うの!?しかも同じ大学!?)



 なんだか頭が困惑している千里をよそに、いつのまにかエレベーターは9階で静かに停まった。



「事務所は奥にある。ついてきて。」


 またつかつかと先に進む礼央に、千里も早足でついていく。



「ここだ。」


 そういって立ち止まったのは、「MRO」と書いてあるドアの目の前だった。よく見ると、下の方にルビが振ってあり「Missng Research Office」と書いてあった。


「行方不明?・・・調査、事務所?」



 なんだかよくわからないが、本当に普通のオフィスのようだ。

 千里が怪訝そうにじっと見つめていると、ガラス張りになっているドアの奥にはなにやら人影のようなものがみえる。


 そんなものには目もくれず、すぐさまドアを開ける礼央。



「帰ってきたぞ。長江千里も一緒だ。」


 そう言いながらドアを開けた先には、本当にどこかのオフィスのような立派なデスクに、来客用のような立派なソファー。


 そして、そのソファーに座りながら煙草を吸っている美女がいた。



「あら、早かったのね。・・・あなたが千里さん?」


 千里をみつけると、すぐさま近寄り話しかけてきた美女。

 千里も間近に見る綺麗な顔に戸惑いながら、必死にうなずく。



「かわいい子ね。レオ、お茶だして。あたしから説明するわ。」

「いや、もうあらかたの説明は済ましてある。意外と理解が早くて助かった。」


 そう言いながらも、頼まれた通り奥へ行ってお茶を持ってくる礼央。その光景を見ながら、千里はなんだか笑ってしまう。




「おい、何がおかしいのかぜひ聞きたいな。」


 それに気づいた礼央が千里を見て眉間にしわを寄せる。


「いえ!な、なんでも!ないです!はい!」


 千里にはあんなにつっけんどんな態度だった彼が、目の前の美女の頼みは嫌な顔一つせずに受け入れているのがなんだか可笑しかったのだ。


 その光景をみて目の前の美女もクスクスと笑い始めた。



「あら、レオが押されてるの久々に見たわ~。

自己紹介が遅れたわね。私は、青井あおい 優希ゆうき。」


 そういうと、千里に手を差し出す。

 どのへんが押されてたのか詳しく教えて欲しいところだが…緊張こそしてたものの、人懐っこそうに笑顔で挨拶する彼女に、美人なことも相まって好感がもてた千里も、笑顔で握手する。



(優希さんかあ~綺麗な人だなあ・・・頼りになるお姉さんって感じ!)


「よろしくお願いします、優希さん。知ってるかもしれないですけど・・・あたし、長江千里って言います。」


「もちろん知ってるわ。こちらこそよろしくね、千里。あと、さん付けはなしにしましょ。

だって私たち同い年なんだから。」



「・・・へ?」


 千里はまさかの事実に固まる。


「大人っぽくみえるが、ユウキはこう見えてまだ20歳だ。そして、僕と同様、君と同じ大学に通う2年生だ。」



あら、それって老けてるって意味かしら?なんて、礼央に厭味ったらしく言っている優希を見て、この人たちは年齢にそぐわなすぎる、と思った千里だった。





 年齢詐欺の二人の言い争いが終わるころ、先ほど優希が座っていたソファーに座らされ、目の前には優希。そしてその奥にある立派なデスクには礼央が腰かける。

デスクには“所長”と書いたプレートが置いてある。


 なんだか面接のような雰囲気に圧倒される。

緊張した面持ちで千里が固まっていると、優希が、そんなに緊張しないで。と笑いながら、話し始めた。



「レオからもう聞いてるとは思うけど、もう一度基本的なことから話していくわね。

少し長くなると思うけど・・・頑張って理解しながら聞いてほしい。


まず、千里の母親である長江結子さん。彼女は、残念だけど・・・2日前に亡くなっているわ。」


「!?・・・2日も前に・・・?」



死んでしまったことはもう覆せないことだろうし、その事実も先ほど受け入れたばかりの千里。

だが、母親が2日も前に死んでいて・・・自分はこの2日間何も不思議に思わず笑って過ごしてきた。

そのことを考えると罪悪感がまた押し寄せてくる。



「いい?まだ真相はわからないけど、千里が落ち込んでいても状況は変わらない。

今あなたにできることは、私たちと一緒に結子さんの魂を救うこと。いいわね。」


同い年であるはずなのに、やはり年上にしか見えない優希の、厳しく、それでいてどこか優しい言葉になだめられ、千里は静かにうなずく。


(そうだよね・・・しっかりしなくちゃ。)




「話を続けるね。


結子さんは亡くなった。だけど、その遺体の場所はおろか、死んだ理由もわからない。なぜなら、結子さんの死は私たちにとって予定にはなかった。

これはあなただけじゃなく、結子さんにとっても、とても危険な状況なの。」



「もしかして・・・悪霊になるってこと・・・?」



 先ほど礼央から聞いた話を思い出して、礼央をみながらいう千里。

 それを見た礼央も、静かにうなずく。



「その通り。本当に理解が早いみたいね、助かるわ。


レオが話したと思うけど、私とレオは死神なの。つまり、死んだ魂をあの世へ送るのが仕事。


死神は基本的に“死神協会”という、この世とはまた隔絶された、特殊なコミュニティに在籍しているの。

死神協会の中にもたくさん部署があるんだけど・・・あたしとレオは“死因調査課”ってところに配属されてる。仕事の主な内容は、あなたの母親のように、その時死ぬ予定になく、私たちの管理外で死を遂げた行方不明の魂をあの世へ送ること。



死んだ人間の魂をあの世へ送るには、3つのルールがある。

1つは、その人間の遺体の場所を把握していること。

もう1つは、その人間の死んだ原因を把握していること。

そして最後の1つが、その魂の同意。


この3つの条件をクリアしないと、魂はあの世に行けないままこの世界でさまよい続ける。

そのまま長い年月が経つと、その魂は死した時の怨念に支配されてしまうの。怨念に支配されて自我を失った魂は、悪霊となってこの世に残る。


悪霊となった魂は、自分の家族や恋人、そうでなくても、とにかく生きている人間を殺して自分の仲間に、つまり悪霊にしようとするの。


悪霊になってしまうと交渉は困難。ほとんどの場合、もうあの世へは送ることができない。

悪霊の行為を止めるにはもう、魂ごと殺してしまうしかなくなる。つまり、もう2度と、生まれ変わることも叶わなくなるの。」


 

 それを聞いた千里は固まった。このままだとお母さんが危ない、すぐにそう思った。

 悲しそうな顔をしている千里をみて、優希も困ったような顔をして話を続ける。




「そんな顔しないで。それを止めるために私たちがいるの。

・・・さっきの話に戻すわね。


厳密にいうと、さっき言った条件の中で一番大事なのは2つ目。つまり、死因を把握していること。他の2つは、レオの“ちから”でどうにでもなるから。」



「力?」


「ええ。千里も見たと思うけど・・・レオには魂と会話できる力がある。


死んだ人間の魂は、だいたい自分の遺体の近くから離れようとはしないの。だから遺体の場所さえ分かれば、レオの力で、本人から自分の死体の場所を聞き出すことができる。」



「じゃあ・・・同意は?」


「そのままわけのわからない、居場所のない世界でさまよい続けていたい人なんて、なかなかいないでしょ?

むしろ、自分の理解者にあえた安心感で、喜んであの世へいってくれる魂がほとんどなの。



ただね、問題はここからなんだけど・・・。

2つ目の条件・・・死因については、集めた手がかりをもとに私たちの力で見つけていかなければいけないの。


さっきレオが小さい女の子を送っていったでしょ?

あの子の場合、その森林にハイキングに訪れていた人によってすぐに遺体が発見されて、全国ニュースになってた。だから、遺体を探すのに時間も手間もかからずに魂をあの世へ送り出せた。


でもあなたの母親の場合、そうはいかない。

遺体が見つかっていないってことは、世間では行方不明、もしくは夜逃げか蒸発にしかならない。

今は、結子さん本人か・・・加害者がいるなら、その人にしか真相はわからないの。


だから、私たちはスムーズに手がかりを見つけ出すために、娘であるあなたに協力を要請したの。」



「加害者ってことは・・・やっぱりお母さんは誰かに」


 先ほどまでよぎっていた辛い想像が頭の中でぶり返す。

 母親が誰かに殺されたのではないのか・・・と。しかし、そんな千里の言葉は礼央によってさえぎられた。



「それはまだ分からない。

僕らの管理しているスケジュール外で死人が出る場合、大体にわけて2つのパターンがある。


1つは、さっきの少女のように何者かによって殺害された場合。殺人事件はもちろん、交通事故もこれにあたる。


そしてもう一つが、自殺だ。自ら命を落とす、という想定は基本的にできない。死ぬ日は、人間が生まれる前にすでに決まっていることだ。この世界で生きてから、感情的な変化で生まれた自殺願望は、僕らにだって前もって把握できるものではない。」




「じゃあ・・・お母さんは自殺かもしれないってこと・・・?」


(もしそうだとしたら、原因は・・・?)




 また思考がネガティブになろうとしている千里をみかねて、さっきまで話していた雰囲気とは打って変わって、明るい雰囲気で優希が話し出した。



「千里、お腹すいてない?なにか食べに行きましょ!」


「へっ?」

「腹が減ってはなんとやら!って言うでしょ?続きはご飯を食べながらでもできるしね。さ、近くにファミレスがあるの。そこに行きましょ!レオも、ほら行くわよ~」



「全く、君はいつも唐突だな。」



 呆れたような顔するものの、やはり黙って言うことを聞く礼央。そんな姿を見て、またおかしくて笑う千里。


 千里の腕を引っ張って歩く優希を先頭に、ファミレスへと3人は歩いた。






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