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冒険者

 その後フェルトは冒険者ギルドに向かった。

 冒険者として依頼を探すためではなく、逆に、依頼者として冒険者を雇うためだ。


 冒険者ギルドの窓口で、師匠の魔女から預かった金貨の袋を出して、受付のお姉さんに事情を話す。

 フェルトが冒険者登録をしたときをはじめとして、いつもお世話になっているお姉さんだ。


 しかし受付のお姉さんは、フェルトの話を聞いて、困ったという表情を見せた。


「フェルトくんの頼みだし、人命もかかっている話だし、どうにかしてあげたいのは山々なんだけど……多分、ちょっと難しいと思う。一応掲示してはみるけど、毒の湿地の毒竜退治って、このギルドに所属するトップクラスの冒険者たちでも、かなり厳しい仕事クエストだし……」


「そんな……毒竜を倒せる冒険者じゃなくてもいいんです! 毒竜は僕の魔法で倒しますから!」


「えっ、フェルトくんが……? 倒せるの? 毒竜って、A+ランクのモンスターだよ?」


「倒せ──いえ、倒します!」


「うーん……とりあえずそれも、発注書に併記してはおくけど……実力的に目があるとすれば、アディたちとか……」


 受付のお姉さんは、依然として難色を示す。

 しかしそのとき、冒険者ギルドの入口をくぐって、別の冒険者たちがギルド内に入ってきた。


「──あれ、フェルト? そう言えば、冒険者もしてるって言ってたっけ。女将さんの容態は良くなったの?」


 陽気な様子で入ってきたのは、酒場の常連客である冒険者の少女三人組であった。




 受付のお姉さんの話では、彼女たちはこの街の冒険者ギルドに滞在している冒険者パーティの中でも、トップクラスの実力者だということだった。

 フェルトは三人の少女たちに、事情を説明して、協力を仰いだ。


 なお、彼女らの冒険者としての格付けは、三人ともBランク。

 F、E、D、C、B、A、Sと七段階に分かれる冒険者のランクの中で、上から三番目の格付けになるのだが、AランクやSランクといった実力の持ち主は極めて稀有である。

 中小規模の都市の冒険者ギルドであれば、Bランクというのが上位実力者の相場であった。


「──なるほどね、話は分かったよ」


 フェルトの話を聞き終えて最初に口を開いたのは、黒髪から猫耳をひょっこりと生やした小柄な獣人の少女だった。

 酒場ではフェルトにちょっかいを出して楽しむ張本人だったが、今は軽装の鎧を身に着け、腰には左右に一振りずつの剣を提げている。


 彼女は名をアディーラといい、知人からはアディという愛称で呼ばれていた。


「でもそれ、毒の一種なんでしょ? 神聖術に、解毒の魔法ってあったよね、ウィンディ?」


 アディーラは、隣にいる金髪の少女に話を振る。

 ウィンディと呼ばれた少女は、装飾の施された白のプレートアーマーを身に着け、背中には鎧と揃いの白い大盾を背負い、腰には剣を提げていた。


 しかし、アディーラから話を振られたウィンディは、首を横に振る。


「フェルトの師匠の魔女は、毒竜の肝が必要だと言ったのだろう? つまりそれは、簡単な解毒薬では刃が立たんということだ。そのクラスの毒となると、相当高位の神官の解毒術でも、解毒に成功するかどうかは怪しいところだと思う。一応試してはみるが、私やこの街の神殿勤めの神官程度では、まず無理だと思っておいた方がいい」


「ふぅん、そっか。じゃあ毒竜を退治しに行くしかないかな」


「でも、毒竜なんてオレたちで倒せんのかよ?」


 話の流れに水を注したのは、銀髪で褐色肌のボーイッシュな少女だった。

 黒のアンダーシャツの上に革鎧を身に着け、腰には小剣を、背にはロングボウと、その矢を入れた矢筒を負っている。


 リザレットというのが彼女の名前で、友人たちからはリザと呼ばれている。


 すると、そのリザレットに獣人の少女アディーラがすすすっと近付いていって──背後から、彼女の豊満な両胸をわしづかみにした。


「うわぁっ! な、何すんだよアディ!? や、やめっ……!」


「もう、リザは身なりも喋り言葉も男っぽいのに、女の子みたいに心配性なんだからぁ。冒険者なんて元々、生きるか死ぬかの商売でしょ。もっと楽しもうよ~」


 そんなことを言いながら、自分より少し長身の褐色肌の少女の二つの果実をもてあそんでゆくアディーラ。


「お、お前みたいな刹那的快楽主義者と一緒にすんな! 離せよ!」


「あ、ひっどーい! そんなこと言うリザには、もっとこうしてやる」


「ふわあああっ! ば、バカァッ!」


 その様子を、フェルトは顔を赤くしながら見ていた。

 同じく顔を赤らめたウィンディが、アディーラの頭を引っぱたいて止めるまで、その戯れ事は続いた。


「痛った~」


「まったく、馬鹿をやっている場合か。女将の容体は、一刻を争うのだろう?」


「おっと、そうだった」


「そうだった、じゃねぇよ!」


 そうして漫才をする三人に、フェルトはおずおずと尋ねる。


「えっと……それじゃあ、引き受けてもらえるんですか……?」


「うん、もちろん。ボクたちのあずかり知らないところで女将が死んだとかあったら、寝覚めが悪いなんてもんじゃないし。ウィンディとリザもいいよね?」


 獣人の少女の確認に、残る二人の少女もうなずいてみせた。


「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 フェルトはそう言って、力いっぱい頭を下げる。

 こうしてフェルトは、心強い仲間を得ることに成功したのであった。


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