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薬草

「はぁっ、はぁっ……あった、これだ!」


 街を出て、魔女の住む山まで早歩きで急ぐこと数十分ほど。

 山の上り道に差し掛かってすぐのところ、木々の間に雑草がこんもり生えた地帯の一角に、目的とする薬草が群生しているのを発見した。


 フェルトはそのうちのいくつかを摘んで、持ってきた布袋に入れる。

 師匠である魔女が体調を崩したときは、フェルトが魔女の指示でこの薬草を取りに行って、自らの手で煎じたこともあるので、この薬草の使い方は分かっている。


 フェルトは目的の薬草を手に入れると、わずかの間だけ名残惜しそうに山の上を見て、それからすぐに踵を返して街へと戻った。


 帰りの道でフェルトは、自分が取ってきた薬草で女将が元気になる姿や、女将やマスターが自分のことを褒めてくれて、頭をなでてくれる未来を想像した。

 その上で、そういった想像をして嬉しくなっている自分に気付き、ぶんぶんと首を横に振る。


「褒めてもらいたいから、やってるんじゃないってば。これは、女将さんに元気になってほしいから採ってきたの!」


 自分に言い聞かせるようにそう言いつつ、フェルトは街へと急ぐ。




「ただいま! マスター、小さいお鍋貸してください!」


 宿に着くなり、フェルトは酒場の厨房に入って、薬草を煎じる準備を始めた。

 フェルトの要望に応じてマスターが土鍋を用意すると、フェルトは魔法で水を作り出して土鍋に入れ、さらにかまどに魔法で火をつけて、土鍋を火にかける。

 そしてその中に、採ってきた薬草を細かくちぎって入れ、ぐつぐつと煮詰めていった。


 数十分ほど煮込んでいると、薬草を入れた水は半分ぐらいの量に減る。

 フェルトはそれを、料理用のし布で濾して薬草のカスを取り除き、そうして澄んだ液体をさらにしばらくの間、煮詰めてゆく。


 そうすると、やがてお椀一杯ほどの、どろどろとした液体ができあがった。

 フェルトはそれを、ベッドで寝ている女将のところに持ってゆく。


「女将さん、これ飲んでください」


 フェルトから渡された液体を見て、においを嗅ぎ、女将は露骨に顔をしかめる。


「す、すごい匂いね……」


「おいフェルト、これ本当に大丈夫なのか? すごい色してるぞ」


 女将の横で看病をしていたマスターも、お椀をのぞき込んで不安そうな声を上げる。


「はい。すっごくまずいですけど、すっごく効きますよ」


 フェルトがにこにこしながらそう言うので、女将は覚悟を決めて、渡されたお椀の中身を一気に喉に流し込んだ。

 どろどろとした液体が、こくりこくりと嚥下えんかされてゆく。


「──ぷはっ! うえぇ、ひどい味ね……」


「あはは。僕、白湯さゆを持ってきますね。それまでほかに何も飲まないでください」


 そう言ってフェルトは、女将が飲んだ後のお椀を持って、寝室を出て行こうとする。

 フェルトが部屋の扉に手をかけた、そのときだった。






「うっ……げほっ! あっ……かはっ……!」






 女将の尋常ならざる呻き声がして、次にびちゃびちゃっという音がした。


「えっ……?」


 フェルトが振り向く。

 そこには、床に思い切り吐血した、女将の姿があった。


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