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初仕事

 フェルトが指定された倉庫地帯に行くと、そこでは屈強な男たちが荷運びに精を出していた。

 男たちの中に、周囲に指示を出している壮年の男がいたので、フェルトは彼のもとに行って声をかけた。


「あの、こんにちは。冒険者ギルドで荷物運びの仕事を引き受けてきたんですが……」


「おい、その荷物はそっちじゃねぇって言ってんだろ! ──あん? 冒険者ギルドから来たって?」


 自分も荷物を抱えながら大声で指示を出していた男は、一度荷物を地面に置いて、フェルトの姿を上から下まで眺める。


「ちっ、また弱っちそうなのが来たな。お前その細腕で荷物運べるのか? まあいい。じゃあ、あそこにある荷物を向こうの荷馬車に積んでくれ。急げよ。運ぶ荷物は山とあるんだからな」


 男はそう言って、再び自分の荷物を持ち上げ、運んでゆく。

 フェルトは元気よく返事をして、指示された荷物が積まれている倉庫へと向かった。


 その倉庫には、抱えるほどの大きさの木箱が、たくさん積まれていた。


「──よし」


 フェルトは杖を倉庫の壁に立てかけると、ローブの袖をまくって、荷物のうちの一つを両腕で抱えて持ち上げようとした。

 しかし、


「んんっ──んぐぐぐぐぐっ……! ──はぁっ、はぁっ……だ、ダメだ……」


 たくさんの荷物が詰められたらしき木箱は重く、フェルトの腕力では、わずかたりとも持ち上がらなかった。


 フェルトは少し考えると、壁に立てかけた杖を取りに行った。

 そして荷物の前に立ち、杖を掲げる──が、そこに荷運びの男の一人が通り掛かった。


「おい坊主、そのでかい荷物は、俺達でも二人がかりで運ぶんだ。お前みたいなチビは、向こうの小さい荷物運んどけ」


 そう言って男が指さす先には、フェルトの前にある荷物よりも二回りは小さい木箱が積まれていた。


「でも、僕はこれを運べって言われて……」


「あの人、細かいこと考えてねぇんだよ。怒鳴ってりゃ仕事が終わると思ってる。悪い人じゃねぇんだけどな」


 そう言って男は、自分も小さい荷物のほうへと向かい、その荷物を二個同時に持って、馬車の荷台まで重たい足取りで運んでゆく。

 その背中に、フェルトは声をかける。


「別に、こっちの大きい荷物を運んでも構わないんですよね?」


「……あー、はいはい。できるもんならやってくれ」


 男は荷物を運びながら、振り向きもせずに投げやりに答えた。

 その言葉を確認してから、フェルトはあらためて杖を握りなおし、呪文を唱え始める。


「──の物の重さ、我が命に従い、まやかしと成る──ディクリーズ・ウェイト!」


 フェルトの声とともに、少年が掲げる杖の先から光が発せられ、その光が大きな木箱の一つを覆った。

 そして光が消え去ると、フェルトは再び杖を壁に立てかけてから、荷物を持ち上げる。


 すると大きな木箱は、ひょいと持ち上がった。


 フェルトは軽々と木箱を抱え、倉庫の外の馬車まで持って行き、その荷台に荷物を置いた。

 それを横で見ていた男──フェルトに小さな荷物を運べと言った男が、あんぐりと口を開ける。


「お、お前……どうやったんだそれ?」


「物の重さを減らす魔法を使いました。──あ、すみません、ひょっとして魔法使ったらダメでしたか?」


「ま、魔法ぉ!? 坊主お前、魔法を使えるのか」


「はい。高位の魔法はまだ使えませんけど、簡単なものなら」


 そう言ってフェルトは、倉庫の中に戻って行って、次の荷物に取り掛かろうとする。

 杖を持ってきて、魔法をかけて、杖を立てかけに行って、戻ってきて荷物を運ぶ。

 その様を見ていた男は、耐えきれなくなってツッコミを入れた。


「い、いやいやいや、それなら軽くなった荷物は俺たちが運ぶから、坊主は重い荷物に片っ端から魔法をかけてくれるか?」


「……はい? でも、それじゃあ僕、荷物運びの仕事をしていることには……」


「いや、なるから!」


「え、でも……それで僕、荷物運びの報酬もらえます?」


「もらえるから!」


 そんなわけでフェルトは、指示されるままに、重たい荷物に片っ端から重量軽減の魔法をかけていった。


「うおっ!? 何だこれ、軽っ!」


「うっひょー! 超楽チンなんだけど!」


 荷運びの男たちには、大好評だった。

 日暮れまでに終わらないだろうと目されていた荷運びは、空が夕焼けに染まるよりも早くに終了した。


「お疲れさん。いやぁ、助かったぜ坊主。報酬には色付けて、銀貨四枚だ。機会があったらまた頼むわ」


「はい! 皆さん、今日はありがとうございました!」


 報酬の銀貨を受け取り、ぺこっと頭を下げて、フェルトは倉庫から去っていった。

 それを見送る屈強な男たちが、いい顔でつぶやく。


「……いい子だったな」


「ああ。うちに娘がいたら、婿に欲しいぐらいだ」


「お前、その前に嫁さん探せよ」


「現実を突きつけるのはやめてくれ」


 男たちの瞳には、ほんのりと涙が浮かんでいた。


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