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 後輩に、「レズビアンなんですか?」と言われた話だけれど、実は私自身「そうなのかしら」と悩んだ時期があった。

 でも、それは大学生になって、矢和田と付き合ってから、「やっぱり違った」と分かった。

 同性愛を軽蔑視していて、無理にそう思い込んだとかではなくて、単に私はレズビアンではなかったと分かっただけのことだった。ただ、私の中で「友人」と「恋人」の境目は、とてもとても低いものだという自覚にはいたった。

 少し前の話。

「本当に好きな人と『恋人』になるか、『友人』になるかの違いは?」大学で一度、こんな論題で討論したことがある。

「まずは、ときめくかどうかでしょう」何人かの学生は、そう主張した。そんな意見もありだけれど、私はそれだけじゃないのだと思った。

 恋人になれるか、友人になれるかの違いは、「自分が相手と、どんな関係を築いていくかの、方向性の違い」だと思う。

 自分が望む関係を、相手も受け入れてくれる。またはどちらかが相手の意向を尊重して、多少自分の意向とは違うとも、その関係に納得する。それが安定したとき、「恋人」ないし「友人」になる。私はそう思った。

 そんな私の稀有な意見を、教授もゼミの人たちも、いまいち、ピンと受けとってくれなかったらしく、「面白いことを言うね」という、おざなりのコメントで、きってしまった。

 別にいいけど。でも、私はこの意見は変えるつもりはない。だって、経験から、そうとしか思えなかった。香と矢和田と一緒にいて、私には、これが一番しっくりくる答えだった。大好きな親友、香がいて、大好きな恋人、矢和田がいて、二人のことを、くるくる考えていたら、「どうして私はこっちが親友で、こっちが恋人になったのだろう」と、時々困惑することだってあったのだから。

 ま、そうなると、確かに最後の決め手は「ときめくかどうか」になるのかも知れない。でも、香といても、すごく舞い上がっちゃうときもあったし、矢和田といて、すごくすごく落ち着く時間もたくさんある。

 だから、今でも正直、分からない心境になるときもあるの。二人といると。だから、あんな答えが出てきた。

 こんな心境で、人と付き合っているのは、私だけなのかな。みんな「恋人」と「友人」を、ばっさり分けて考えられるのだろうか。分けられるということは、はじめから、「こっちの方が大事にする人」って思っているのかな? 

 たいてい、私の友達は、「恋人よりも、友達が大事。だって友達は一生ものだもの」と言う。じゃあ、恋人とは、一生の付き合いになるかも知れないって、一片の気持ちもなく付き合ってるのかな。友人とは、何が起きても、一生つながっていられると、根拠もなくそう思えるのかな。私には、それが不思議でならない。

 一生の人になってくれる恋人が、どこかにいるかもしれないと思うし、友人の仲だって、突然ぷつりと切れてしまうかもしれない、って、いつもそう思う。友人も、恋人も、当たり前に大事。

「こっち」だから大事、じゃなくて、「その人」が好きだから、私は大事と思いたい。さっきも言ったけど、私は多分、「恋人」と「友人」の境界線が低いんだ。だって私は、つい、その根底に流れる「愛情」に、いつも目を向けてしまうから。恋人とつむぐ「恋愛」も、友人とつむぐ「友愛」も、根本に潜む「愛情」は同じでしょう。私はいつも、愛情を感じながら、探しながら、その人達との関係をつむいでしまう。私はそういう者なのだ。


「……ごめん、香。暇だった?」独りで黙々、考えていては、香との話ができない。私は思考を止めて、目の前の香に意識を戻した。香との思い出話にふける方に、ちゃんと頭を戻して言った。

「登下校の、話なんだけど」

 高校に行くまでの、朝の二十分の徒歩の中で、私は自然に家庭の事情を話すようになった。いつも話す、テレビの話題のひとつのように。香も、別段、驚いた態度は見せなかった。

「こんなことになってるの、どうしたらいい?」じゃなくて、「こんなんなんよ、ホント参るわー」という風に、冗談交じりに、私は話した。冗談交じりじゃないと、話していられなかった。

 香は、そんな私の話に、全部、爆笑していた。本当に、けらけらと笑った。ディープな内容なのに、笑い飛ばしてくれる香はすごい。私は心底、香を尊敬した。それはまだまだ、香が分かっていなかった証拠。私も若かった。

「ほんとにね、『香は心の広い持ち主だ〜』って感心してたんよ」私は、香に言う。もう一度、ここで香がけらけら笑ってくれたら、どんなにか幸せだろうと思う。

 数年後、大学生になってから、香に、このことを話した。

今でも感謝してる、と改めて言ってみたら、「え? ただホントに、けっちゃんの話し方が面白くて、笑ってただけやったのに」と素で言われてしまった。私は、改めて、別の意味で、香に尊敬の念を抱いた。

「天性の図太い神経と、適度な鈍感さを持つ布瀬さん。あなたすごいよ」香の上にかけられてる、布団の端をつつきながら、私はそう、香につぶやいた。

 ほんと、私には真似できないわ。




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