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 私の家庭内は、あまりいい環境とは言えなかった。でも昔は―私が中学生の頃までは―あったかい家族だった。でもそこからは、私の家庭は、坂道を転げ落ちる老人のようだった。

全身を強打しながら、どん底まで転がり落ち続ける、老人。坂道を転げ落ちる老人を、誰も、何も止めることはできなかった。

 お父さんとお母さんの仲を壊したのは、間違い無く、お父さんとお母さんだ。でも、きっかけや、それを増長させたのは、お父さんの一族と、家の周りの隣人の人達だったと思う。

 お父さんには、もともとお父さんの一族が薦めていた、『見合い相手』がいた。お父さんの一族は、医者の一族で。大病院の後継ぎのパートナーは、『しっかりした人』をと、しきりに圧されていたそうだ。しっかりした人。権力と経済力を持った女性のこと。お見合い結婚と言うより、政略結婚だった。そんな中で、お父さんは、お母さんと結婚を果たした。恋愛結婚で。

 出会いは、おじいちゃんの病院の職員控室で。お父さんは、その頃、見習助手を、お母さんは、アルバイトで受け付け・会計をしていた。

 どうやって結婚までいったのか、詳しいことは知らない。親の恋愛話は、何となくきくのが照れる。とにかく、大恋愛ではあったらしい。結婚することを、お互いの両親に報告したとき、両家とも、あからさまに反対した。お父さん側は「上流階級の息子には、上流階級の娘を」、と。お母さん側は、「医者の長男の嫁は苦労する」、と。

 それでも二人は結婚した。反対されたまま結婚したのではなく、お互いの両親を何とか説得して、気持ちいい結婚式を行ったらしい。結婚式の写真を見ると、ウエディングチャペルの下、タキシードとウエディングドレスの二人は、とても幸せそうな顔をしていた。お母さんはとても綺麗だった。

 そして一年後に私が生まれた。そのとき、お父さんの一族の人達が、私が女の子だったことに不満を漏らしていたらしい。それから、子供は生まれないで、私は一人っ子として育った。お父さんの一族が、「男の子がよかった」と、そんなことを言っているのをきいたとき、私は、なぜだか、悪いことをしてしまったような、妙な罪悪感を持った。それが無くなると、今度は「遺伝子操作はされないだろうか」と、本気で怖がった。小学生の頃だ。カワイイ思い出だ。

 家族が嫌な雰囲気になりだしたのは、私が中学生の頃から。

 お父さんの病院で、ある看護婦が医療ミスをして、人一人、死なせた。

 お父さんの病院は、テレビに映され新聞にも大きく載った。病院の信用は一気に崩れた。近所の人達は、私やお母さんを見て、ひそひそと話をするばかりだった。内容はきこえないけれど、しぐさがあからさま。いやらしい虐めだと思った。その看護婦を雇ったのは、確かにお父さんだ。だからといって、お父さんや、私やお母さんを、犯罪者扱いで見るのは、どうなのだろうか。何か矛先を間違えていたような気がする。

 今だから、あの頃の隣人の態度についても、客観的な見方ができるけれど、その頃の、情緒不安定な時期の中学生の私には、隣人のそんな態度は、ただ理不尽に苦しくて、耐えがたいものがあった。

 私だけじゃなく、そんな環境は、お母さんにも大きな悪影響を与えていた。

 お父さんは、隣人よりも、病院やマスコミからのクレームで、相当心身を殺がれていたみたいだった。

 家の中で、二人が口論する頻度が増えた。内容は、何で? と思うような、つまらないこと。日常生活の些細なことから、喧嘩。相手のちょっとしたしぐさに対して、言い合い。ぴりぴりした空気が出てきたら、いがみ合う予兆だ。

 ほんとにつまらない内容で、二人は口論していた。つまり、それらは、言い合う為の『理由』じゃなかったわけだ。それらは、言い合う為の『口実』であって、『理由』じゃない。「病院での一件からの、環境の変化に対するストレスのはけ口が欲しかった」、これが喧嘩の『理由』じゃないかな。私は、まだ中学生で、病院の経営がかなり危うくなっていたことや、裁判の問題とか、そんな詳しい話は、知らされていなかった。お父さんの一族の心無い誰かが、「あんたじゃなくて、見合い相手だった人と結婚してたら、経済面での援助が得られたのに」と、電話でお母さんに不満を漏らしたことも、その頃は全く知らされていなかった。




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