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おばさん達は、昨日からずっと病院につめているらしいから、私なりに日常生活で要りそうなものを買っていった。
「何も出来ないけど、これだけでも」私が、タオルや靴下の袋を渡したら、おばさんは、ありがとう、と嬉しそうに微笑んでくれた。病院内の喫茶室で、おばさんは、今の香の状況を細かく教えてくれた。
「昨日より、体に反応も出てきたみたいで、このまま良好だったら、あさってには普通病室に入りましょうか、って」おばさんは、ほっとした表情で話していた。昨日より顔色もいいし、そんなおばさんを見て、私も少しほっとした。今日は晃君と、香の親戚が面会するから、私は香には会えなかった。 ICUには、一日二人だけ、十分間の面会だと決められているのだそうだ。
「明日は、私とお父さんが会うから、あさって、普通病室に移ったら、また香に会ってもらえる?」
「もちろん。病室が変わったら、また教えて欲しいです」私は鞄から、メモ帳とペンを出した。
「私の電話番号と、ついでにアドレスも」急いで書いたら、雑な字になっちゃった。けど、読めるだろう。
「晃君も確か私の番号、知ってると思うし」
「ありがとう、連絡するわ」おばさんは丁寧に、バックの内ポケットに私の渡したメモをしまった。 病院の、面会時間終了に近づいたので、私はおばさんと別れて病院を出た。おばさん達は、今日も家族控室にいて、夜遅くまで香を見守る。
家族だからできるんだなぁ。いいなあと正直思った。私も香の側に、もっと居たかった。見多氏は、まだ香と家族じゃないから、病院には長くいられないのだろうな。私はこんなときにしか、多分思い出すこともないだろう、あの、見多氏の姿を思い出した。見多氏も私みたいに、もどかしくしているのだろうな。
その夜は、矢和田と私は、行きつけの和食のお店に行った。鳥の照り焼き定食を口に運びながら、私は香の状況を話した。
「そっかあ、よかったなぁ」矢和田も、ほっとした表情を浮かべた。
「うん、ちょっと安心した」焼酎を少し飲んで、私は微笑んだ。
「これから、もし、香の入院費とか、経済面で、おばさんが苦しいなら、そっちの方でもサポートしようと思って」お昼に考えていたことを、報告として矢和田に言った。
矢和田がちょっと言葉に間を作った。
「香ちゃんの治療費、敬も払うのか」
「おばさんは何も言ってないよ。私もまだ話してないし」私は言った。
「もし、そんな状況になったら、いつでも援助したいってこと」私は、添え物のおひたしをつまんだ。
矢和田は返事しない。
「何」矢和田が黙るから、少し不安になった。
「いや、敬は、ほんと友達を大事にするんだなぁ、って思ってた」矢和田が口を結んだまま、笑って、「いいな」と付け加えた。私は何だか照れてしまった。そのまま二人で、何気ない会話をつづりながら、楽しい夕食を過ごした。