鳥とカゴ
あれから冬扇の血は研究に研究を重ねられ結果、新たな細胞が見つかった。それは公表され世界は驚愕した。
ついにガンが完璧に治る時代がやってきたのだと。冬扇の血を輸血するだけでガンは治るのだ。しかし問題もあった。それは冬扇の血液型だ。AB型のRhマイナスの人にしか輸血出来ないというものだった。しかしそれもいずれ解決するだろうと世界の医師は発表した。その細胞のみを取り出すことが出来れば全ての人に適応するという。この時代、ガンは治る病気として知られていった。
「また検査かよ……」
冬扇は深いため息をついた。今さら後悔しても遅い。もう歯車はガッチリと噛み合わさって機能している。それを外すことなどはできない。
あのとき冬扇はこういう事になるかもしれないと少しは予測していた。だからブツブツと文句を言いながらもそれに従う。
後悔をしていないと言えば嘘になる。それでも選択肢はこれしかなかった。
「もー飽きたんだけど」
新たな細胞が見つかったのにもかかわらずに、なぜまだ検査を繰り返すのかというと、なぜその細胞が冬扇の中に存在するのかという疑問が残ったからだ。
その現象を解明したい。どうやってその細胞は作られているのか。なぜそれはガン細胞を殺すことができるのか。
答えは未だに見つかっていない。自然現象よりも自然にそれは冬扇の中にある。理由なく存在している。
それを解き明かしたいと思うのは人間のエゴなのだろうか。黒木はそう思わずにはいられなかった。
「これも仕事だと思って」
黒木はそんな冬扇をなだめるように言った。黒木は少なからず負い目を感じている。まだ若い少年の人生を奪っているのだ。この歳で管理されるのは最悪だろう。
自分なら耐えられない。
それほどのことを自分たちはこの少年に課している。いっそのこと、その細胞がなくなってしまえばいいとさえ思う。金なら既に腐るほど持っているだろう。まだまだこれからの年頃だ。まだやり直せる。
この細胞が消えればいい。そうすれば冬扇は開放される?されるわけがない。
そんな簡単な話ではない。もうお互いに後戻りはできない。運命共同体だ。知ってしまったことをなかったことにする事など出来はしないのだ。
「将来、仕事したくないから血を売ってんだよ」
冬扇のその言葉は、将来自由がある、という風に黒木には聞こえた。心が痛む。そんな日がくるのだろうかと。いつしかこの研究は終わることがあるのだろうかと。
「そのおかげでたくさんの命が救われるんだからいいじゃないか」
自分にそう言い聞かせるしかない。一人の命よりも大勢の命を。その考えは医師にとっては何も間違ってはいない。
「俺は知らない奴の命に興味はない」
それを一蹴する冬扇。黒木の内心に気がついているのだろうか。たとえ気がついていたとしても冬扇はこういう態度をとるだろう。
「まぁまぁそう言わずに」
契約を結んでから冬扇は自由がなくなっていた。家は病院になり、外に出ることすら出来ない。
学校にも行けない。もし出られたとしても護衛付きだ。食べ物も自由に好きな物を食べれない。人との接触も禁じられている。まさにカゴの中の鳥だ。金はあるのに使えない。まだ十七歳の冬扇には我慢できなかった。しかし我慢をするしかない。
もうこのカゴの中から出られることはないのかもしれないと少なからず思っている。ならこの狭いカゴの中で見つけるしかない。
「はぁ~退屈だな……」
冬扇は呟き、検査に向かったのだった。
なぜ護衛が付いているのか。それは誘拐されたり、殺されたりする危険がかなり高いからだ。冬扇の血は金になる。ガン治る、その冬扇の血はかなり高価だ。命を金で買うのだから当然と言えば当然だが、普通の人が簡単に手に入れれるものではない。
よって力づくで手に入れようと考えるものが出てくるのだ。