血と金
けっこう前に考えて書いてたものなので正直いって、どこにゴールがあるのかわかりません。どこに向かっていくのかもわかりません。
たぶん血がどこかに向かっていくのかわからないように、歌に導かれて勝手に行き先が決まるでしょう←意味不明。
ではどうぞ読んでやってください。
真っ赤な血が身体を駆け巡る。行き場をなくし戻ることも出来ずに、振り返る事なく前にだけ進む。
ある日、献血に行った。冬扇は自分の血液型が本当にAB型なのか知りたかったのだ。冬扇は孤児だった。だから施設に預けられたときに名前と生年月日に血液型だけが書かれた紙を冬扇は握り締めていた。
正直なところ、どれもあてにならないと冬扇は思っている。名前も、誕生日さえも偽りなのかもしれない。
しかしその二つは確認のしようがない。でも血液だけは調べられる。自分の血液が本当だったらなば、名前も生年月日も本当だと初めて思える気がした。
だから冬扇は献血に行って自分の血液を調べることにしたのだった。
数日後、結果が家に届いた。結果は見事にAB型だった。これで証明された。初めて自分が見えた気がした。疑っていた名前や生年月日。本当だったと、心底嬉しかった。
しかしそれにオマケが付いてきた。紙を見るとABの文字の横に一本の線があったのだ。
「なんだこれ?」
冬扇は首をかしげネットで調べてみた。それはRhマイナスと言うものだった。
「Rhマイナス……」
冬扇は呟き、さらに詳しく調べてみた。
血液型は簡単に分けると四つに分類される。
A型・B型・O型・AB型。
さらにそこからもう一つ細かくすると、RhプラスとRhマイナスに分類される。ほとんどの血液はRhプラスだ。だが二百人に一人の割り合いでRhマイナスが産まれるのだ。
十人いたらA型は四人いる。
O型は三人。
B型が二人。
AB型は一人。
つまりA型のRhマイナスは二千人中四人。
O型は二千人中三人。
B型は二千人中二人。
AB型は二千人中一人。
しかしAB型だけさらに確率は低いらしい。
まさか自分がそんな血液型とは知らなかった冬扇は自分の血液について更に調べた。ひと昔前は輸血の血が足りなくなることがあったみたいだったが、今はないらしい。
実際、血液は奥が深い。俗に言う稀血という者が存在する。その人たちの血液はかなり特殊らしい。千の単位ではなく万以上の単位だ。一族しか存在しない血液もあると書かれていた。そんなのに比べたら自分の血液はたいしたことはないなと思い冬扇はそこで調べるのを止めたのだった。
それから数ヶ月後、ある医者がいきなり訪ねてきた。
「君が如月冬扇くんかね?」
「はぁ。そうですけど?」
冬扇は気の抜けた返事をした。
「私は国立黒木病院の黒木と言う者だ。いきなりだが冬扇くん。君の血は世界を救う」
そんな言葉に冬扇は黙り込んでしまった。何を訳のわからないことを言っているんだと。
「新手の詐欺ですか?」
冬扇は呆れ顔だ。しかし黒木の顔は真剣そのものだった。
「これは冗談でも嘘でも詐欺でもないのだよ。君は七ヶ月前に献血に行っただろ?」
「はぁ。行きましたけど?」
「その血を輸血された人は交通事故に遭ってな。それで君の血を輸血したんだが、その人はガン患者だったんだ。事故に遭い君の血を輸血し、何とか一命は取り留めた。そしてある程度、回復した頃にガンの進行具合を調べたんだ。そしたらなんとガン細胞が消えていたんだよ」
黒木は興奮気味に身振り手振りで説明をしている。まるで新しいオモチャを自慢する子供の様だった。
「そこで医師たちは調べた。なぜガン細胞が消えたのかを。そして一つの結論が出た。血液中に見たこともない細胞が発見された。赤血球でもない、白血球でもない、血小板でもない、新たな細胞だ。まだ名前は付けていないが。そしてそこから調べた。もしや輸血した血液の中に含まれていたんじゃないかとね。そして君の血液だとわかって、こうしてここに来たんだ」
「俺にどうしろと?」
その言葉に黒木は顔をニヤつかせた。
「我々に協力してくれ」
「はぁ?」
「君の血は世界を救うことが出来る。だからその血を我々に提供してくれ。そしてもう一度調べ、本当に新たな細胞が見つかりガン細胞を消すことが出来たら世界に公表したい」
冬扇はそれを聞き、腕を組み何かを考えている。
「……わかりました。なら俺の血を買ってください」
「はぁ?」
今度は黒木が聞き返していた。
「いくらで買ってくれます?」
「あ……いや……そうくるか?」
冬扇は満面の笑みで答えた。これは利用できる。金になると冬扇の頭は損得勘定を瞬時に弾き出した。しかしその損得勘定は割に合わないことが後々判明するが、その時はすでに遅かった。後戻りなどは出来はしない。
しかし選択肢もそれ一つしかない。自分の前の道は一本しかない。複数の未来などはありはしない。冬扇にはその一本の道だけ。
「当たり前でしょう? そうですね……二百cc……二千万でどうですか?」
余りにも高すぎる。それは誰が聞いてもそう思うだろう。しかし黒木は臆することなく答えた。
「いいだろう。君と契約をしよう。それだけ君の血には価値がある」
もし本当にガンが治す細胞が見つかったのなら、二千万など安いものだ。それだけでいったいいくつの命が救われるのだろうか。考えるだけで身震いがしてくるほどだった。
その可能性をこの少年は秘めているのだ。
「なら本当に新たな細胞が見つかったら金額を上げさせてもらいますね」
まるで心の中を見透かされたような気分だったが、ここまで来たらもう後戻りはできない。
「……わかった。その代わり君の身柄はこちらで預からせてもらう」
「いいでしょう」
こうして二人は契約を結んだ。