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一話:雑貨屋の店主と雇われ娘

 こことは違うどこか、一つの巨大な大陸と無数の島からなる星で、星の住人達は目に見えない隣人と共に暮らしていた。ヒトは隣人たちの力を借りて術を使い、その他の生物も少なからずその恩恵を受けていた。隣人たちは気まぐれで、大きな力を与えることもあれば、些細ないたずらをすることもある。見ることができず、数もわからない彼(彼女?)らについて言えることは、確かな意思を持っているだろうということだ。隣人たちは独自の感性を持ち、それに従って行動している。そのことは語り継がれているナガミミ族の末姫やハネツキの民の長の例が示している。彼女たちは普通よりも大きな術を行使することができ、その力をもって種族の発展に貢献した。折しも種族の存続が危ぶまれていた時期に彼女らは生まれ、力を与えられており、そこに何らかの因果関係を感じずにはいられない。これから始まるのはそれらの時代から遥か後のこと、大陸東部のとある小国の王都、そこに構える一軒の雑貨屋の話である。

  

「おい、これも棚に並べてくれ。」

店の奥の扉越しに大きな声で男が呼びかける。

「只今っ。お客様、以上三品で1200インです。……ありがとうございました、またのご来店をお待ちしています」

答えたのは片方垂れた獣の耳が特徴の女性だった。素早く会計を済ませた彼女は、声のほう、店長のいる倉庫へ向かった。鈍く光る金属で作られた扉を押すと、薄暗い倉庫の中で巨体を小さくして作業をする男がいた。何やら小さな物を数えているようでその手は忙しなく動いている。よほど集中しているのか、女性が入ってきたことにも気づかない様子にたまらず声をかける。

「店長、店長、どれを運べばいいですか。それから、そろそろ特級の傷薬と携帯食料の在庫がなくなりそうですよ」

大柄の男、雑貨店の店主は一瞬ビクリと体を震わせてから、ゆっくりと振り向いた。

「あぁ、フィールか。すまんな会計中だったろう。運んでもらいたいのはそこの箱に入っている携帯食料だ。それはちょうどよかったんだが、特級の傷薬か……あれはアイツがいないとちょっと補充できないからなぁ」

「それって、副店長のことですよね、今実家に帰省しているっていう」

彼女の瞳は少しの興味で光を帯びていた。それに対し、ごまかすように店主の男は答える。

「ちょっと事情があってな。だからその間お前さんを雇っているわけなんだが、もしかするとアイツよりもよっぽど上手く接客できているかもな」

しゃがんだ状態で頭を掻き、店主は豪快に笑った。

「そんなこと言ったって、なにも出ませんよっ」

フィールは照れたようにそっぽを向く。倉庫内ではその細かい表情までは確認できなかったが、種族特有の耳と尻尾は彼女の気持ちを如実に表現していた。

耳はピコピコと忙しく動き、尻尾は大きく左右に揺れる。それを見てますます店主の笑みは深くなった。成人に近いといっても彼女はまだ学生、決して表情には大きく出そうとはしないが、褒められると素直に嬉しいのだろう。

「もうっ店長ったら。わたしこれ並べてきます」

そう言ってフィールが箱に手をかけたとき、来客を知らせるベルの音が二人の耳に入った。

「一旦それは置いといて、店のほう見に行ってくれ。もう少し俺はこれをかぞえにゃならん。」

店主は小指の先ほどの球体を抓んで言う。

「わかりました。ちょっと行ってきますね。終わったらまた戻ってきます。」

急ぐ彼女の背に店長が声をかける。

「たぶん今日はもうその客で終わりだ。その後棚卸したら店閉めるからな、閉店の準備も頼む。」

「はーい。」

答える彼女の尻尾はまだゆらゆらと揺れていた。


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