昼物語
チャイムが響く。午前中の授業も終え、教室内に戻る喧騒。
俺、賢神文月はクラスメイトである君ヶ崎の元に向かった。
「よう、君ヶ崎!」
「あら、賢神君。まだいたのね」
「まだいた……? 別に俺は早退する予定なんて無かったぜ」
「そうじゃなくて、今日は分別の日じゃない」
「分別? 何の?」
「――賢神文月の」
「何で俺が分別されなきゃいけないんだよ!」
「あれっ、毎週月曜日は賢神文月の分別日じゃないの!?」
「一体、賢神文月ってどんな存在なんだよ! というか、そんなのがあったとしたらこの市は最早終わりだ!」
「市? 何を言ってるの?」
「なっ、何だよ!? 俺のツッコミは間違ってないだろ」
「――これって全国共通なんじゃないの?」
「余計、質悪くなってるだろ! なんなんだ、その一国での個人攻撃は!」
「ちなみに私も捨てててるわ」
「捨ててるの!」
「ええ、毎週ね」
「賢神文月、マジでどんな存在!」
「まあ、そんなことはもう良いわ」
「だから、俺がよく無いんだよ!」
「それよりあなたから来たんだから、何か用があるんでしょ?」
「あっ、ああ、そうだった。なあ、一緒に昼食おうぜ」
「えっ……」
「おいっ、何で急に狼狽しながら明らかに嫌そうな顔をしてんだよ! ……結構傷付くじゃねえか」
「いや、だって……」
「だって、何だよ!?」
「私の弁当までゴミ臭くなるから」
「俺の弁当は世にも特殊なゴミ弁当じゃねえよ! 臭いなんか付く訳ないだろ!」
「あらっ、違ったの。それならそうと早く言いなさいよ。てっきり、ゴミはゴミしか食べないと思ってたじゃない」
「誰がゴミだ!」
「あれっ、違った? それはすまなかったわね、ゴミ」
「それ、謝罪してんの、バカにしてんの!?」
「うーん、どちらかと言えばバカにしてるわね」
「分かってるよ!」
「はあ、お腹空いたわ。いいわよ。一緒に食べてあげるから、さっさと食べましょう」
「人をバカにするだけしといて、普通に弁当食べだした!」
「あー、おいしい。流石私が作っただけあるわ」
「お前、自画自賛も甚だしいな! ……って、あっ、そうか。その弁当って毎日君ヶ崎が自分で作ってたんだよな」
「そうよ。私、何でも出来るから」
「マジで自画自賛っぷりが半端ないな! まあ、料理も綺麗に出来てるし、凄いのは認めるけど。さて、じゃあとりあえず俺も食べるかな……って、おい、何で俺から徐々に離れていくんだよ!」
「これはあれよ、脳のゴミから離れろという指令で体が勝手に動くのよ」
「それつまり、自分の意志で離れてるってことじゃねえか!」
「まあ、そうとも捉えられるわね」
「どう考えてもそうとしか捉えれねえよ! って、絶え間ないツッコミの所為でマジで腹が減ってきたよ」
「あなたも大変ね」
「お前の所為でな! はあっ……もう、俺もさっさと食べるか。さて、今日は妹は何を作ってくれたのかな。……って、何だこれ!?」
「どうしたの、賢が……ゴミ」
「あってたよね! 途中まであってたよね! なんで言い直した結果ゴミになるんだよ! じゃなくて、これ見ろよ、君ヶ崎!」
「嫌」
「何故か拒否られた!」
「はあっ、一体何よ……って、何これ。空じゃない」
「そうなんだよ。くそっ、今日は家族全員寝坊したからな。妹も朝は忙いでいたから入れ忘れたんだ、きっと」
「いや、わざとでしょ、これ」
「おい、人の妹を兄に対して地味だけど結構嫌な嫌がらせをする酷い奴みたいに言うな!」
「いや、悪いのは妹さんじゃない。そんな嫌がらせをしざるを得ない状況をつくったあなたよ」
「最終的に攻撃対象俺かよ!」
「あー、何でこの卵焼きこんなにおいしいのかしら。……あっ、私作ったからか」
「罵倒するだけして、話の転換酷いな! そしてもういっそ清々しい程の自分褒め! ていうかそんなの今はどうでも良い。それより、やべえな。食う物がない。俺、何か購買で買ってくるわ」
「待って、賢神君。なんなら、私の食べても良いわよ」
「食べるって、お前自分のは?」
「良いのよ、私あまりお腹空いてないから」
「でもお前さっき、腹減ったって――」
「良いから食べなさい」
「……ごっ、ごめん。じゃあ、頂くよ。まずは、このコロッケ食べようかな」
「……どうかしら?」
「うん、上手い。見た目だけじゃなく、味も最高だ。本当に凄いな、君ヶ崎」
「そっ、そう。ありがとう」
「おいっ、どうした君ヶ崎! お前が素直にお礼言うなんてあり得ないだろ! もしかして体調悪いのか!」
「賢神君、あなた私を何だと思っているのよ」
「一日の発言の九割が他人の罵倒の真性のドS」
「あら、心外ね」
「心外? ああ、すまん。流石に九割は言い過ぎ――」
「九・五割よ」
「増すのかよ!」
「……それより、賢神君。妹さん、毎朝学校前に弁当作るの大変なんじゃない?」
「んっ、ああ、まあそうかもな。俺も悪いと思うけど、俺料理は無理だからな」
「そっ、そう。あっ、あの、じゃあ賢神君……」
「――明日から賢神君の分の弁当、私が作ってきてあげましょうか?」