表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

好きで好きで、好きで。

作者: jiXaw

アメーバブログに「よしき」の名義で掲載した小説です。

楽しんでいただけたら光栄です。

どうしたらいいのだろう。

どうしたら、彼にこの気持ちを理解してもらえるのだろう。自室のベッドに寝転がりながら、思考を巡らせる。

中学校に、上がってから出会って、今日まで一年間、私は彼を好きでい続けている。

本当は分かっている。彼には好きな人がいて、 それは、私ではなくて。

だけど諦めきれない。分かっていても、どうしても私は、彼のことが好きだった。

好きで好きで、好きで。

……でも私は、彼を諦めなければならない。

なぜなら、彼はもうすぐ、この町を離れるから。学校だって転校する。つまり。

私はもうすぐ、彼に会えなくなる。

男の子にしては長めの髪、低く安定しながらも柔らかな声、彼の全てが、遠くなってしまう。

そんなの耐えられない。だから私は、彼のことを嫌いにならなければならないのだ。


多分、少し前の私なら、きっと、案外簡単に諦めることが出来ただろう。まともに話したこともなく、ただ遠くから見ているだけだったのだから。そう、それこそ髪を切ったりして、気持ちを切り替えることが出来れば。

だけど、今は違う。つい先週のことだ。私は彼と、会話をした。してしまった。

やむを得なかったのだ。あの状況では。

「髪、切ろうかなぁ……」

前髪を摘まみながら、独り言を呟く。自分を洗脳するように、『彼のことが好きだった自分は、もう居ないのよ』って。散髪をひとつの区切りとして。


先週、私はクラスの日直を担当することになった。友達が風邪で休んで、その代理を引き受けたのだ。

だけど、それが失敗だった。あ、いや、日直を引き受けて後悔はしてないけど……。けど、まあ、ごにょごにょというやつだ。

結果から言えば、彼も日直だったのだ。代理ではなく、正規だけど。

そして担任の先生に、私たちは頼まれごとをした。よくあることだ。資材を準備室に返してきてほしい、と。

二人で並んで、廊下を歩いた。会話など、一切なしのこと。

そして準備室で、資材を所定の位地に戻した。

椅子の上に立って、棚に段ボールを上げようとした時、私はバランスを崩した。思わず慌てた声が出る。

床に固い音がする。椅子が倒れた音だ。

尻餅をつくのに備えて、全身に力を入れていたのだけど、何故か私は、なんの痛みも感じずに済んだ。

「あ、あの……大丈夫?」

こめかみの、少し遠く。柔らかな声が聞こえる。

ふと振り向くと、思っていた以上に、彼の顔が近くにあった。

え、と言うか、私、今、彼にお姫様だっこされてるっ!

私は慌てて、多分彼も慌てて、二人で顔を逸らそうと体を動かした。

お馬鹿な話だ。またバランスを崩して、結局二人して床に倒れ込んだ。

「……え、あ、あの……ごめんなさい」

緊張して、声が上ずる。表情を見るに、彼もなんだかぎこちなかった。いつも男の子とばかり話してるし、女の子と触れ合うのは初めてなのかな?

直前にお姫様だっこのことで焦りすぎたからか、体が触れ合っていることに関しては、自分でも驚くくらい冷静に受け入れられた。

でも、離れなきゃ。いつまでも彼の膝の上に居たら、きっと不自然に思われる。

ああ、離れたくないなぁ。でも離れなきゃ。でも。でもなぁ……。

彼の深い息遣いが聞こえる。

「は、初めて、喋るよね。僕達」

「え、あ、そ、そうだっけ?そう、かもね」

お互いに渇いた笑い声を漏らす。

そうだっけ、じゃないよ。本当は自分だって、今そう思っていたくせに。

――大した会話はしなかった。

「多分知ってると思うけど、僕はもうすぐ転校する。でも、その。まあそれまでくらいは、仲良く、しよう」

「あ、うん。そうだね。よろしく」

「……うん」

「うん……っ」

そして、最後に二人で、固い笑顔を見せあったのだった。


ああ、どうしよう。思い出したらまた嬉しさが込み上げてきた……!

枕に顔を押し付けながら、足をバタバタ布団に打ち付ける。

一通り興奮して、落ち着いた頃。なぜかため息が漏れる。

「仲良くしよう、か……」

結局あれ以来、一度も喋ってないし、あの時は脈ありかな、なんて思ったりしたけど、やっぱり現実はそんなに単純じゃないなぁ。

もういっそ、砕けるの覚悟で告白とかしてみるかな……。

そんな風に悩んでいると、携帯にメールが届いた。この着信音は、クラスメート同士でやり取りをするために作られた、目的がよく分からない連絡網だ。実際には連絡することなどなく、ただただ無駄話をしていたりする。

今回もどうせそれだろう、と思っていた私は、その文を読んだ瞬間、息をつまらせた。吐き気すら覚えて、トイレに駆け込んだ。


『予定より早く転校するらしい。今日学校休んでいたのも、荷物を整えていたからって噂』。

名前こそ書いていなかったものの、誰のことを言っているのかは、明確だった。

今日、学校を休んでいたのも、そもそもうちのクラスで転校が決まっている人なんて、一人しかいないのだ。

行かなきゃ。彼のところに。行って、好きだって、言わなきゃ。

立ち上がろうと体に力を入れた途端、再び強烈な吐き気に教われる。

なんで……なんで……行かせてくれないの。神様……。

吐き気は治まらない。けれど、私は脂汗を掻きながら、立ち上がった。

「こんな遅くにどこに行くのっ」

お母さんの叱責を無視して、家を出る。

胸が苦しい。色々と、意味を含んで。

「好き。好き。好き」

彼の家に向かって走りながら、練習をする。結果なんてどうでもいい。私は彼に告白して、……そう。告白して、振られに行くのだ。だって私は、

「君の、ことが……」

涙が出てきた。ああ、振られるのかぁ。やだなぁ。


彼の家が見える。その家から、車が出ていく。

その車に、彼の横顔を見た。

もう足が痛い。だけど、私は走る速度を上げた。

「待って……待ってよ……っ」

私は彼の名前を叫んだ。でも気付いてくれない。

何度も何度も、名前を呼んで、足を踏み出した。

待ってよ。私は、君に振られるまで諦めることは出来ないんだから。

疲れ果ててから、だけど五分くらい走っただろうか。車が信号で止まり、ようやく追い付くことが出来た。

車の窓に手を付いて、引き止める。彼が驚いた表情をしていた。

「どうしたの。そんなに、息を切らして。大丈夫?これ、飲む?僕の飲みかけで良ければ、全部あげるよ」

「あ、ありがとう……」

ペットボトルのドリンクをもらい、口に含む。柔らかな液体が、喉の奥を滑り落ちていく。

もらった約半分の量を残して、ペットボトルを彼に返す。その間に、彼の家の車は、発進した。近くに停車するのだろう。

それを横目に見ながら、一度だけ、深呼吸。

「あのねっ、私」

「え、うん」

どうしよう。感情が抑えられない。溢れ出る想いが、元々出ていた涙を増量させる。

「え、あの。大丈夫?どうして、泣いてるの?」

心配してくれる彼に、私は勢い良く抱き付いた。

泣き顔を、見られたくなかった。

「私……わたし……」

振られるのが怖い。ここまで来て、こんな気持ちになるなんて。

自分に腹が立った。

だから私は、そんな自分に抗うように、歯を強く食い縛った。けれども涙は止まらない。怒りと悲しみと、恐怖感に震える声で、私は彼に気持ちを伝えた。

「私は……、君のことが、」

好きで。

「好きで、好きで、」

大好きで。

「好きで好きで好きで好きで、好きで好きで好きで、好きで好きで好きで好きで好きで……」

愛してる……。

もっと強く、彼を抱き締める。その胸に顔を押し付ける。

「………………好き……っ」

そして私は、彼に――。


次の日は学校を休んだ。ちょっと、用事があったのである。

その次の日。学校に行くと、友達みんなに驚かれた。

「ど、どうしたの、その髪っ」

まあ、自分でもびっくりだ。まさか散髪でベリーショートにしてしまうなんて。

寄ってくる友達に、近くには来てないけど、多分気になっているクラスメートみんなに、私は明るく教えてあげた。

「私、失恋しましたっ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ