待ってろ魔王(side 勇者)
「あんの、ブタヤロオオオオオ!!!」
雄叫びと共に手にしていた新聞を左右に引きちぎる。
それだけでは怒りが留まらず、破ったそれを地面に叩きつけた。
ひらひら舞う欠片すら疎ましく炎の魔法で灰にしても尚、
憤りと共に起きた荒い息は止まらない。
「……噂に違わず屑ですのね、ウッソマミーレ社って」
俺の気持ちに同意してくれたのは
一緒に記事で晒し上げられたアンリエッタだった。
燃えかすを侮蔑の視線で見下ろすその様は、
美人である為、更に迫力があるように思う。
「俺が好きなのはユユだけだっつーのに!
そりゃアンリエッタは美人だし、
田舎出の俺にも優しいし、賢いし、頼りになるよ?!
でも俺はユユが好きなんだよ、バッキャロー!!」
「……こんなのを見て、ロード様がどう思われるか。
確かにリクは努力家で気遣いもできて、
想い人に一途なところは好感が持てますわ。
でも私が焦がれるのはロード様ただお一人だというのに……」
婚約者の名前を愛おしげに呼ぶアンリエッタは、
どこからみても恋する乙女だ。
子供の頃からの付き合いらしいが、
未だに手すら繋げないレベルの清らかな仲らしい。
いくらゴシップとはいえ、読む人は少なからずいる。
どこで想い人の耳に入るかわからない。
そう考えるとまたムカムカしてきた訳だが。
ああ、魔王の前に襲撃してやろうかな。ウッソマミーレ社。
「……二人とも先にやる事があるだろ」
わりと本気で物騒な考えに走ろうとしていた俺を止めたのは、
もう一人の仲間であるギルだった。
その落ち着いた声はヒートアップしている俺を、
ゆっくり消火してくれる。
「リク、まずは巫女姫殿に手紙で伝えろ。
アンリエッタも婚約者に連絡しておけ。
それからさっさと魔王を倒して帰ればいい」
与えられた正論に二人こぞって目を醒まされる。
そうだよな、ギルの言う通りだ。
ユユにちゃんと誤解だってわかってもらわなければ。
旅を急ぐ彼だがその時間ぐらいは待ってくれるようだ。
感謝しつつ、大慌てで手紙を書き上げる。
最後の文章に関しては恥ずかしさのあまり、
うっかり(意図的に)インクを零したが、
きっと伝わってくれると信じて。
いつも通り封筒に入れて、魔法で彼女の住む神殿へ飛ばす。
「アンリエッタ、もう大丈夫か?」
「ええ」
「……なら、行くか」
「おう、頑張ろうな。ギル、アンリエッタ」
片付けを終えた俺達は、
また魔王城に向かって進んでいく。
魔物の気配は感じられないので少し考えに更ける事にした。
ギルはよくわからないが、早くこの旅を終わらせたいらしい。
彼は天涯孤独の身だ。誰かを故郷に残してきた訳じゃない。
それに家族を亡くした後、俺が勇者に選ばれるまでずっと旅をしていた、
だからか世界各地を回る今の状況を嫌がる素振りもなく。
でもある時から、突如願いを口にするようになったのだ。
戦神の神殿を発ったぐらいから。
はっきりした確信はないけど、幼馴染みの勘というものか。
たぶん巫女さんに好きな子がいるんじゃないだろうか。
俺がユユに会いたいように、ギルもまたその子に会いたいのでは?
まあ予想なんだけどな!
魔王を倒せば、俺も彼も彼女も、愛する人に会える。
今の俺はまだただの冒険者だから巫女姫に届かないけど、
勇者になれば、ユユにプロポーズできる。
アンリエッタもようやく婚約者と式を挙げられる。
ギルもきっと相手と結ばれる事だろう。
「これもそれも全部魔王のせいだ!
よし魔王ブッコロす!!」
そもそも勇者に選ばれなかったら、
ユユと出会えなかったんだけど、
それはさておき、士気を上げるためにも大声で吼えたのだった。
魔王「理不尽だ」