付き人曰く(side 付き人)
私がユユ様のお付きとなったのは随分昔の事。
彼女がおしめの時から面倒を見ているのです。
私にとって彼女は主君と言うより、妹のようなもの。
だから驚きましたよ。
(……勇者様と契ってたなんて)
まあ旅立ちの朝にも関わらず、
心ここにあらずの勇者様の様子をおかしいとは思いましたが。
ユユ様も突然雰囲気が違ってびっくりしましたし。
確証はユユ様の着替えを手伝っていた時。
ご本人は気付かれてなかったですが、
たまたま赤い跡が付いていたのを発見してしまって。
私としては思わずご飯吹きそうになりましたよ。
当然、白粉でさっと隠しておきましたが。
あの人見知りのユユ様が、
まさかそんな大胆な手に出るなんて。
それほど彼が好きだったんでしょう。
(……勇者様もユユ様を好いているようですから問題ありませんが)
もし遊びだったりしたら、
引きちぎって庭の堆肥にしてやる所ですが、
端から見れば一目でわかる程、両思いでしたしね。
お約束通り、ご本人達は気付いてませんが。
そのおかげで朝は大変でしたよ。
お体を気にして暴走しかねない彼女を全力で止めるはめに。
普段大人しい方ほど箍が切れるとハチャメチャするんですよね。
今回の事といい、旅立ちの前夜といい。
「……そういえば、騎士様は」
廊下にてユユ様の食器を運んでいた私はふと足を止める。
周りに誰もいないからこそ、出てしまった呟き。
その続きは全部私の中で巡ります。
勇者様の便りを覗く事はできません。ユユ様のものですから。
手がかりになるかもしれない。でも私は中身を知りません。
その代わりに私は多くの新聞に目を通すのです。
隅から隅まで読むのは勇者様の記事を探すためでもあります。
ですが、本当に私が知りたいのは、彼の事なのです。
「ご無事でいらっしゃるのでしょうか」
勇者様の同行者でありながら彼は滅多に記事になりません。
あくまで主役は勇者様。それに魔法使いさんみたく大貴族ではない。
だから本当に稀なのです、彼の状態を伝えてくれる記事は。
毎日毎日報じられる勇者様と魔法使い様とは違って。
ここに心配で心配で仕方ない娘がいたとしても。
私は一目で恋しても、彼は私など名も知らないでしょう。
単なる巫女の一人とすら認識されているのか。
臆病な私は彼に喋りかける事もできず、
ただこっそりと見つめるしかできなかった。
今だってこうして密かに彼の無事を祈る事しかできない。
でも、もし、私がユユ様のように『無敗の乙女』なら、
きっと迷わずその身を彼に捧げたのだろう。
けれど、それが叶わないから、私は無力なまま。
「……どうか、ご無事で」
愛しの騎士様。
届くはずもない、その想いを口にした。
お約束でした、次は男性陣。