巫女姫の憂鬱(side 巫女姫)
R-15は巫女姫分だけです。
ギャグとシリアスごっちゃだよ、ハハハ。
脱ぎ捨てたローブが床に落ちる。
ぱさっと小さな音だが、やけに響いて聞こえた。
それは夜の静寂故か、それとも。
「勇者様」
出した声がいつも通り平淡なのは意外だった。
心臓は今にも飛び出してしまいそうなのに。
頬が火照る。裸体を晒しているのに妙に熱い。
気配で起こしてしまった勇者様は、
私を確認するやいなや、ぱくぱくと口を何度も開閉させて。
言葉も出ない、といった様子だった。
寝台から一歩も動かない。
叫べば私の愚行を止める者が来るだろう。
単に私を突き飛ばしたっていい。
拒絶を示されたら、強硬に出る気はないのだから。
けれど私から目を逸らさない所からすると、
望み薄という訳ではないのだろうか。
肌寒さを感じながらもローブは拾わない。
拾えば最後、この覚悟は無に帰る。
「ユ、ユユ」
呼ばれた名からは明らかな動揺が窺えた。
息を吸う。それで落ち着くはずもないけれど。
噛まぬように、力まぬよう、いつもの私のように。
「私を、抱いて下さい」
私は言い渋っていた台詞を、吐いた。
私、ユユは戦神様の末裔です。
とは言っても勇者様のような戦闘能力は持ち合わせておりません。
戦神の武力を得るのは男児だけ。
女児には一度だけの異能が授けられます。
純潔を捧げた方に絶対的な勝利をもたらす、そんな異能が。
「勇者様はあいかわらず快進撃ですね、巫女姫様」
いつものようお祈りを終え、神殿の一室で休んでいた所、
新聞を手にそう私に語りかけてきたのは付き人のエリン。
私の気持ちを知っているのか、いないのか。
どちらにしろ、勇者様の情報をよく仕入れてきてくれます。
「ご無事で何よりです」
「あ、あとこれ。いつものです」
そういって差し出された真っ白な封筒。
いつもながらお返事早いなあ、
そう思いつつありがたく受け取ります。
ペーパーナイフで中身まで切らないよう、
丁寧に開けて、便箋を取り出します。
開いたその中には少し崩れた文字。勇者様の筆質が。
内容はいつも通り、旅の内容や寄った町の情報等。
降嫁するまで神殿からに出られない私を気遣ってでしょう。
外が気になると漏らしたのを覚えていて下さったのか。
毎度の事ですが、つい微笑みが零れます。
「……?」
普段はソレで終わりなのですが、
最後に殴り書きで更に一文添えられていました。
『ウッソマミーレ社の記事は見ないでくれ、
見ても信じないでくれ、
俺が好きなのは■■だけだ』
肝心な所が塗りつぶされていて読めない。
裏から透かしても見ましたが完全にインクと同化してました。
もちろん気になるままですが、仕方ありません。
もう一つの方の謎を解く事にします。
「……エリン」
「はい、なんでしょうか」
「ウッソマミーレ社の新聞ありますか」
「…………ないです」
「なんで目を泳がせてるんですか、エリン」
「…………あれはゴシップ誌ですから、
巫女姫様のお目にかかるべきでは」
「何か良くない記事が載ってるんですか?」
「そ、そんなことぁりませんょお」
「……声裏返ってますよ」
貸してください。
彼女をじっと見つめて、真剣に言い放てば、
おそるおそる握り潰した跡が残るそれを渡される。
「………」
一面に書かれた記事に固まる思考回路。
嘘っぱちですから!と宥めるエリンの声も何故か遠い。
‘モテモテ勇者様、グラマー美女な魔法使いが本命か?!’
なんとわかりやすいタイトル、
そしてこれまた殺傷力の高い……
どどーんと載せられた勇者様とその隣の魔法使いさんの写真。
彼女は正にドーン!バーン!といった感じです。
実物を見たらどんな方でも釘付けになるんじゃないでしょうか。
いやわかってましたが、私の片思いだって。
でもここまで見込みがないとは。
自分のそこはかとなく控え目な胸を押さえ、涙を噛みしめる。
「明日から毎食、牛乳持ってきて下さい。
……桶一杯に」
「お腹壊しますよ、巫女姫様!!」
描かれる戦神様は揃いも揃って、大迫力ボディなのに、
どうして子孫に受け継いでくださらなかったのでしょうか。
……今日ばっかりは恨みます。
パッと頭に浮かんだ設定を勢いのまま書いたので、
勇者が魔王に辿り着くまでの過程や、
「くっ愛しい人どうか俺に力を!」とか、
戦神様、どうか勇者様を…!やら
死闘の果てに感動のフィナーレ!なんぞの展開はありません。